第28話熊男乱入

 ベティーナさんが退屈そうに足元の石を蹴ったら、その石が転がっていった先に熊がいた。

 いや、正確には熊ではなく、熊のような人間だった。

 3人の空気がピリついた気がする。


「サエキ……どうしてここに……」


 ん……、シャルロッテさん知り合いなのか……?


「そこのお前……」


 ワイは辺りを見回してみる。

 目の前の男の目線はワイに向けられている。


「え……僕ですか……?」


 ワイは熊のような男に知り合いはいない。

 何の用だろう……?


「そうだ、お前だ、私と戦え。どちらが最強か決めようではないか」


 は? コイツ何言っとん……頭おかしいんか……? 誰と誰が戦うって……? 最強……? ワイにとって最も遠い言葉やけど……アンタは確かに最強って見た目だけど……誰かと勘違いしとんのか……?


「あ、あの……人違いっていうか、勘違いでは? 僕、ちょっと状況がのみ込めないんですけど……」


「何を言っている? 新世代最強の剛力剛毅だろう? 私とどちらが最強か決めようと言っている」


 シンセダイ? サイキョウ? 何のこっちゃ……大丈夫か……コイツ……。

 と、そこでシャルロッテさんが怒声を放った。


「いい加減にしろ、サエキ!!! 今更そんなことに何の意味がある!!!」


「シャルロッテか……今日はお前に用があって来たのではない」


 2人は知り合いなのか……?

 シャルロッテさん、めっちゃキレてる……てか、ワイだけ状況についていけてない気がする……怖い、怖い、怖い……。


「な~んだ、ゴウシロウ君か……つまんないの……君、場違いなんだよ……せっかく皆で楽しく遊んでたのに。どっか言って!」


「ベティーナ……私を愚弄するのか……? 只ではおかぬぞ!」


「へ? 只ではおかない? 殴るの? ボクを? みなさ~ん、このオジサン、女性を殴るんですって!!!」


「貴様ぁ!!! いい加減にしろ!!!」


 目の前の熊男めっちゃキレてる……。

 ベティーナさんとも知り合いなのか……? てか、この2人めっちゃ険悪やな……以前に何かあったのか……?


「……サエキさん、ここは私の顔に免じて引いてくれませんか?」


「姫……いくら姫のお願いといえど、それは出来かねます。男には引けない時があるのです」


「…………………」


 何か腹立ってきたな……何だ、このオッサン……最初は寡黙な武人かと思ってたけど、只の我儘なオッサンじゃねぇか!!!

 女性を困らせるなよ!!!


「分かった、やってやるよ!!! オッサン!!! てか、さっきから美女3人が止めてるのに、何だその態度は!!! お前には良心がないのか!!!」


「貴様ー!!! 愚弄する気か!!! ここで肉塊に変えてやろうか!!!」


「上等だ!!! かかってこい、タコカスコラ!!!」


「ワイ君、美女って言ってくれて嬉しい! そんなザコ早く片付けちゃって!!!」


「ベティーナー!!! 愚弄するなと言っているだろうが!!!」


 完全にカオス状態だった。

 今にも戦いが始まりそうなワイとオッサンの間にシャルロッテさんが割って入ってきた。


「2人共やめいっ!!! 対人戦は日時を決めてからでないと出来ないことを忘れたのか!!! ダンライに申請して、審判を派遣してもらわないといけないだろうが!!!」


「くっ……」


 ワイ、知らんけど……そうなの……? 知ってる風装った方が良いのかな......? 雰囲気的に。 


「……致し方ない……本当はここで決着をつけたかったが、後日正式に審判を呼んでの対戦としよう……」


 と言い残して熊オッサンは去っていった。


「すまない……ゴウリキ君……うちのメンバーが迷惑を掛けて……」


「シャルロッテさんが謝ることはないですよ。ダンキンのメンバーなんですね? 日本人なのに珍しい」


「ああ、サエキゴウシロウという。うちにも日本人のメンバーはいる。少ないが」


「ワイ君、ゴウシロウ君なんてさっさと倒してまた遊ぼ~ね? あの人、いっつも怖そうな顔してるから苦手なんだよね……」


「ベティーナ、お前は煽りすぎだ……あれでもサエキはオリンピックメダリストなんだぞ……プライドはある……」


「だってぇ……」


 あのオッサン、オリンピックメダリストだったのか……意外と凄い人だったんだな……実績は凄いけど、人格的には尊敬せんな。


「ゴウリキさん、嫌な思いさせて申し訳ございません。折角のコラボだったのに……」


「クラウディアさんが謝らなくても……悪いのはあの熊オッサンだから……」


「ふふっ……熊……オッサン……ふふふっ!」


「あー!!! 姫笑ってる!!! 悪いんだ~! ぷぷぷっ」


「ベティーナも笑ってるぞ? それにしても熊……オッサン……ふふっ!」


 熊オッサンの乱入で折角のコラボの雰囲気が台無しになりそうだったけど、最後に3人に笑ってもらって良かった。

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