第18話苦い初コラボ

 海藤君と別れて、綾瀬さんと攻略を開始することになった。

 彼女の戦闘スタイルは、よく言えば堅実、悪く言えば普通だった。

 確実に当てて、確実に避ける。

 アイドルらしく俊敏で、パワーは無く、一撃で複数を仕留めるタイプではないが、一匹一匹確実に仕留めていくタイプだった。


 危険な敵はワイが魔法で仕留めていく。

 危なげなく攻略は進められそうだ。

 そして、ワイは彼女を安心させるために声をかける。


「貴方のことは絶対に守ります。安心して下さい」


 何故か彼女は顔を赤くして俯いてしまった。

 姉上がダンジョンに来たくない理由として、『顔に傷がつくから』と言っていたのを思い出し、安心してもらうために言ったが、かける言葉を間違ったかな……。


 アイドルはいつか引退するだろうし、いつか結婚するだろうから、彼女の顔や体に傷をつけさせるわけにはいかない。

 いつか、ワイ以外の素敵な男性と結婚するまでは。


 だが、ドン引かれたみたいだ……。

 流石生粋のコミュ症。

 何をしても、何を言っても引かれる……。


 暫く安定した攻略をしていたが、フロアの異変に気付く者がいた。

 ワイ、そして、ワイ達とつかず離れず戦況を見守っている海藤姉と弟。


 シャドウが徐々に発生してきていた。

 ブレスを食らって倒れている配信者達が増えてきている。


「ヤバいッス……! こいつら、全然攻撃が効かねえ」


「チッ! 何なのよ、こいつら」


 海藤姉弟は焦っている。

 ワイは2人に声をかける。


「2人共! 倒れている人を抱えて、逃げて! 早く!」


「アニキと一緒に残るッスって言いたいところだけど、ここは冷静にアニキの指示に従うッス!」


「チッ! 命令すんなっての! でも、わかったわよ」


 2人は倒れた配信者達を負ぶってフロアから脱出する。


「2人共、助かったよ……」


 ワイは小声で呟く。

 そして、綾瀬さんは震えていた。

 顔面蒼白で。


 以前、死を覚悟する状況になって怖い思いをしたのに、また同じ思いをさせてしまった……。

 何をしてるんだ! ワイは! なんでもっと早くシャドウが湧いていることに気付けなかった!

 囲まれていない状況なら綾瀬さんを逃がすことも出来るが、それすら出来ない。

 全て倒すしかない。


「やってやろうじゃないか! ホーリーアロー!」


 一瞬でモンスターの群れを片付ける。

 だが、倒しても倒しても、うじゃうじゃと増殖してくる。

 もうすぐMPが枯渇するが、まだまだ何百体と増殖してくる。


 その時、諦めたのか、綾瀬さんはワイの腕を掴んでくる。


「貴方に会えて良かった……。短い時間だったけど楽しかった……」


「何を言っている! 生きていればもっと楽しいことがある!」


そうは言ったものの、ワイの心も折れかけていた。

その時、何故かワイのMPが回復した。


「……?……」


 偶然、綾瀬さんのスマホの画面が見えた。

 彼女の画面にはスキル獲得のメッセージが表示されていた。


『綾瀬よつば、MP譲渡のスキルを獲得しました。』


 なんだかよくわからないが助かった。

 このまま攻め込む!


「ホーリーアロー!」


 シャドウが大量に増殖してくるが、綾瀬さんから流れ込んでくるMPがワイのMPを常時満タンにしてくれているので、何も怖くない。


 終わった。

 全て倒した。

 疲れ果てたワイは地面に倒れこむ。

 呆然とする綾瀬さんにワイは声をかける。


「ね? 大丈夫だったでしょ?」


 何が大丈夫かよ! 怖い思いさせてんじゃねえか! ワイ、最悪じゃねえか……。


「怖かった、怖かったよ……」


 と、彼女はワイに抱きついてきた。

 ワイは、なんて声をかけていいかわからず、優しく彼女を見守ることしかできなかった。


 ダンライ、ダンガ、ダンキンのドローンがワイ達の周りをグルグルと回っている。

 チッ! 見世物じゃねえよ……。

 ワイらの最初のコラボは余り良い思い出になりそうになかった。





 疲労困憊で帰宅した。

 今日はもう何もしたくない。

 ご飯を食べる気力もなく直ぐ寝た。


 夜中に目が覚めてスマホを確認する。

 レベルアップの通知がきていた。


レベル50

HP452

MP521

攻撃力389

防御力418

攻撃魔力476

回復魔力529

魔法防御398

命中367

回避381

運1878


魔法


  ファイアボール

  ヒール

  ブリザード

  キュア

  ウインドカッター

  サンダーボルト

   ホーリーアロー

  ウォータープレッシャー

   ロッククラッシュ

   ダークネス


   パワーアップを覚えた

   パワーダウンを覚えた

  ディフェンスアップを覚えた

   ディフェンスダウンを覚えた

   マジックアップを覚えた

   マジックダウンを覚えた

   マジックディフェンスアップを覚えた

   マジックディフェンスダウンを覚えた

   スピードアップを覚えた

   スピードダウンを覚えた

   リフレクションを覚えた

   

 バフ魔法とデバフ魔法を覚えた。

 だが、今はそんなことどうでもよかった……。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る