第15話再会

 先程、咲良と名乗っていた女性が呼びかけたことに対して、『どうぞー』と中から返事が返ってくる。

 事情が飲み込めておらず、中に入ることは躊躇われるが、このまま部屋の前で突っ立っているとスタッフさんに変質者に間違われるかもしれないので、中に入ることにする。


 ドアを開けると、綾瀬さんが立っていた。

 当たり前か……彼女の控室なんだし。


 綾瀬さんは、ワイを確認するなり「会いたかった」なんて言ってきたが、ワイなんかに会いたい奴おるんかって思った……。

 最初は、とても笑顔で出迎えてくれたが急に怒り出してしまった……。


「なんで、何度もメッセージ送ったのに無視するんですか⁉」


 確かに綾瀬さんからコラボしようとか、ご飯行こうとか誘われていたけど断っていた。

 ワイなんかと人気アイドルがご飯行くとか意味わからないし、彼女の出演情報をネットで確認すると、個人チャンネルの配信や、ダンジョンガールズ公式チャンネルの収録が沢山あって、とてもプライベートなんてなさそうだったから。


 ちなみに、綾瀬さんからメッセージが来ているからといって彼女の連絡先を知っているわけではない。

ダンジョンライブアプリのDMでメッセージが送られてきていた。

 連絡先を知らない人と連絡が取れるのは便利な世の中になったが、めんどくさいこともあるもんだと思ってしまった。


「……それは、貴方が忙しそうだからお断りしたじゃないですか……?」


「私、一度でも忙しいって言いましたか⁉ 全然プライベートは有りますよ? それに、忙しくても時間は空けます、貴方の為なら」


 ダメだ……。

 全然話についていけていない……。

 さっきの咲良っていう人の話もそうだったけど、意味がわからな過ぎて頭がパンクしそうだ……。


「あ、あの、貴方の出演情報をネットで見てたら、とてもプライベートなんてなさそうだったんですけど……」


 ヤ、ヤバ……。

 ネットで必要以上に彼女の情報を調べているヤバい奴って思われたかも……。

 もっと言えば、ストーカーって思われたかもしれない……。


「嬉しい。私のこと気にかけてくれてたんですね」


 何でそうなる⁉ 話が通じな過ぎて、もう、この場から逃げ出したい。


「それで、どうです? 今度コラボは? それか一緒にお食事も楽しみです」


「……えーと、……えー……」


 安定のコミュ症発症。

 コミュ症につける薬はないのか……。


「私、何かしましたか……? 嫌われたみたいですけど……」


 何か、とんでもない勘違いをされている。

 コミュ症を前にすると、とんでもない勘違いが生まれることに気が付いた、今。

 悪い意味で……。


 彼女の瞼から涙が零れている……。

 勘違いから生まれた感情とはいえ、流石にワイにも罪悪感が生まれてくる……。


「わ、わかりました……今度、コラボしましょ? だから、泣かないで……」


「本当ですか? 嬉しい!」


 彼女は、先程の泣き顔から打って変わって笑顔になる。

 いや、さっきの涙どこにいったんか~い!


「では、後ほど都合の良い日時を送りますね」


「わかりました」


 何か自分でもよくわからないうちに、初コラボすることになった……。

 コミュ症と勘違いと罪悪感が生んだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る