第14話ダンガの桜 海藤咲良登場

 ライブ終了して、このままダンジョン攻略に行くか、少しお腹が空いていたのでご飯を食べてからにするか悩んでいると、女性に腕を摑まれていた。


「……?」


「アンタ、何してんのよ! このまま帰る気?」


 ワイの腕を掴んでいたのは、金髪でアイドルの衣装を身に纏った気の強そうな女性だった。

 そういや、さっきのライブにいた気がする。


 それより、ヤバい……。

 一方的にワイが腕を摑まれているけど、この女性のファンからしたら、肌が触れているわけで……。


 幸い周りには人はいなかった。

 だが、ワイはこの状況が理解できなかった……。


「だか~ら~、このまま帰る気なのかって聞いてるのよ……? よつばと会わずに」


 この女性の言っていることが理解できない……。

 よつば……? 綾瀬さんのことか……? なんでワイと綾瀬さんが会わないといけない……?


「……?」


「何すっとぼけてんのよ⁉ よつばがアンタと会いたがっていたのは知ってるでしょ⁉」


 全然知らない……。って言うか、そうなの……? ワイだけ話についていけてない感じがする……。


「あ、あの、申し訳ないのですが、ちょっとよく事情がわからないのですが……。 綾瀬さんが僕に会いたい……? 何かの間違いでは……?」


「ちょっと、アンタ、何なの⁉ 悪ふざけがすぎるわよ!」


 全然ふざけてません。

 大真面目です……。

 この女性と決定的な行き違いがあるが、口下手なワイにはそれを解消する術を持ち合わせていない……。


「とにかく来なさいよ!」


 彼女に腕を引っ張られる。

 綾瀬さんとワイを会わせようとしている……? 流石にヤバくないか……? 綾瀬さんのファンに見られたら。

 勘違いされる可能性あるだろ……。


「綾瀬さんと会うんですか……? 僕が……? ファンに見られたらヤバくないですか……? 勘違いされるかもだし……」


「ここで会うわけないでしょ⁉ よつばの控室までアンタを連れて行くわよ。それに勘違いって何よ⁉ あの子の気持ちは知ってるでしょ……? 何、すっとぼけてんのよ、アンタ……」


 知らないです……。

 魔法は使えるけど、読心術は使えないんです……ワイは……。


 ただ、建物の中に入れるのはありがたい。

 目の前の女性とワイが言い争いしているとファンの人に勘違いされたら、たまらないから……。


 ワイは素直に女性についていくことにした。

 スタッフさん達が歩いている廊下を、ワイは場違い感満載で歩いていく。


 アイドルのライブを運営しているスタッフさんか……。

 ワイには、一生縁がないものと思っていた。

 皆さん、とても活き活きしている。

 素晴らしいステージを作り上げた充実感で一杯なんだろう……。


 引きこもって社会と隔絶していた生活を送っていたワイからすると、とてつもない優秀な人達なんだろうと思ってしまった……。

 自分が惨めになる……。


 綾瀬さんの控室前までやって来た。


「よつば~、咲良だけど。連れてきたよ、アイツ」


 まだ事情もよくわかってないのに来てしまった……。


「んじゃ、アタシはもう行くね」


 目の前の女性はワイを連れてきただけで、もう行ってしまうのか……。


「……君は……、もう、行ってしまうんだ……?」


「な~に言ってんのよ。よつばに会いに来たんでしょ? アタシは関係ないでしょ、しっかりしなさいよ、アンタ」


と、背中をバシバシ叩かれた。


気は強いが、結構いい人なのかなと思いながら、廊下を歩いていく彼女を見送った。

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