第11話 にゃん歴979年9月⑤

 もらったデザートありがたく食べながら先程の話を整理してみた。なるほど、僕たちの会場以外は選抜試験だと知って受けていたのか。どんな理由があったとしても、あの試験内容を知っていて受けたのだろうか?僕は学園の試験だと思って受けていたので内容を知っていたら絶対に受けず、普通に士官学部の実技試験を志望していただろう。


 「ただしこれは、実技試験であって、筆記試験やそのあと手紙で送った暗号解読を気づけるかなども含まれている。後の隊員はテストではなくこれまでの経歴である程度しぼり、最終的にはやウィリアム少尉の年齢や実績を考慮して選ばれている。」


 「実績というと、あの密偵の親子もウィリアム少尉への試験の一部でしたか。」


 あれ?なんでヘイスティング曹長が密偵親子のことをしているのだろう。それとも僕の知っている親子とは別なんだろうか?


 「ああ、そうだ。試験の為に曹長を経由してレイ家に送り届けてもらい、ウィリアム少尉に試験のついでに経験を積んでもらった。あの場で見ていた君なら知っているだろう?」


 「ええ。この件の現場を見ていた手前ウィリアム少尉の口から話させるのは気の毒ですね。あの試験は実技試験とは逆に尋問で情報を聞き出すことと、無抵抗の人間を殺害できるかを見極めるものでした。これは軍の極秘任務であり、内容は君の家の人は知らないことです。私のつてを使ってレイ家の暗部に試験内容をぼかして依頼しました。」


 なんと、あの授業にはそんな裏があったのか。そして、あの場にヘイスティング曹長もいたのか。あんなイケメンいれば絶対印象に残っているはずなんだが。それはそれとして、なんだか軍にいいように使われている感がするけどそんなところまで手が届く軍という組織が改めて怖く感じた。あのボタンは、自分の決意と覚悟を思い出す小道具であったが、そこにプラスして軍の怖さを知るものとなった瞬間である。考え事していた僕の表情がすぐれないのを見た人たちは、可愛そうな子を見る視線から可愛そうな弟を見る視線に変わっていたのである。なぜなら、無言でフランソワ少尉が食べていた食後のおやつを一つ渡してくれたのだから。


 ギルモア大佐は、確認事項は大体終わったとして昼からは別行動となった。残った009部隊では、大佐が返ったことをいいことに、皆の口調がフランクなものに変わっていた。後もう一つあった変化として、僕への呼び名がウィリアム少尉から変化していた。


 「ウィル坊は、この後のことしっているのか?」


 「いえ、僕は何も聞いていません。というより昨日学園の入り口で集合してから何一つ知らされないままこの場にいます。ソフィア少尉は何か聞いていますか?」


 「ええ、一応今日はこの後この部隊が作戦中使用するコードネームを決めて申請するくらいね。ウィルは遺書と、この基地で過ごすための偽名を考えないといけないわね。ところで、ウィルって学園の入り口が集合だったのね。実際学園に入ったことってあるの?」


 「一応ありますよ。筆記試験は学園の教室で行われましたので。全寮制なのに僕には寮の案内は来ていないのでどの寮に自室があるのか知らないんですけどね。」


 「ウィルちゃんの部屋は用意されていなわ。ウィルちゃんはこの部隊じゃなかったとしても、入学式と説明を聞いたら昼から学園を出発することになったし。明日基地に到着することになってるのよ。ウィルちゃんは明日その部隊に紛れてもらうからそのつもりでいてね。」


 「隊長には、明日、偽名で新人部隊に入ってもらいます。この後偽名も考えてください。あと、部隊ではできるだけ目立たないように過ごしてください。」


 「それなら、皆で009部隊のコードネームと、ウィルの偽名を考えるのがいいかもしれません。」


 「僕の偽名もですか…。では、まずはコードネームを決めましょう。誰か希望ありますか?」


 「俺は、特にないぞ。しいて言いうなら他と被ってなきゃいい。」


 「私も特に思いつかないわね。誰も特に思い入れとかがないなら作戦時、一番使うであろうオペレーターのフラン少尉が決めればいいと思いますよ。」


 「私も。それで異論ありません。」


 「私もそれでかまいません。」


 誰も、候補は挙げなかったがどうやらフランソワ少尉が決める流れで決着がつきそうだ。僕は、正直遺言やら偽名やらもありあまりこちらに意識を向けていなかったのである。


 「私が決めるのですか。責任重大です。であるなら、そこの地図についているマークが目に入ったので009部隊のコードはマークにします。」


 コードネームが決まり申請されたこの時、帝国軍で一番激戦地を駆け回りつつ常に戦果を挙げ続けた新生009部隊が発足したのである。

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