第10話 にゃん歴979年9月④

 「では、まずは簡単な話からですが、健康診断や一般的な基礎体力があり、上官と素手での実技試験がありました。そのあと、得意な武器を使っての模擬戦といろいろな射撃武器を使っての射撃テストですね。その日の夜は、野営のテストとして持ち物ゼロの状態で、食料の調達や野営地の設営を行いました。各グループごとに見張りの時間が決められており時々敵襲がありその対処を行いました。」


 「初日から偉いハードな内容だな。」


 「ええ。でも今思い返すと初日が一番ましだった気がします。今考えるとよくできた流れですが、朝方の襲撃で全員捕虜になってしまいそのまま監禁所につれていかれました。」


 「うむ、最後に襲撃したのは精鋭の004部隊であってな。連携も取れない部隊ではまず勝ち目はなかったのだよ。」


 「今普通に流しましたけど、少尉たちは何も持っていなかったはずなのにどうやって最後の敵襲まで防いでいたのですか?」


 「はい。はじめは確かに何も持っていなかったのですが、野営地を設営しているときに周りの哨戒でそれなりに道具を手に入れておりまして。さすがに武器はなかったですが、子供時代魔物撃退用の罠を教えてもらっておりそれを張っていたのと、運よく小官が見張りの時間に初めの敵襲があり、上手いことその罠に追い詰めて武器を手に入れたのです。」


 「な、なるほど…」


 「話を戻しますが、あっ、話の前提を忘れていました。この試験中には存在が伏せられていましたが、優秀な衛生兵が控えており即死以外の傷なら大抵治してもらえました。」


 この世界には、魔法が廃れたと言っても完全になくなったわけではなく動力エネルギーで出来ないことはいまだに魔法が使われているのである。

 こと戦闘関連についてはいまだに魔法が重宝されている。放出系の魔法はほとんど廃れているが身体強化などの魔法や、空間に作用させるアイテムポケットなどはいまだに現役である。

 治癒魔法も現代に生き残っている魔法の一つである。魔法を使用しない医学が進歩していると言っても、強力な治癒系魔法には勝てない。使う人次第では失った手足も生えてくるので即死以外は大抵治療できてしまう。また、毒も特定しなくても解毒できてしまうから驚きだ。ただそれができる人材が少なく、ほとんどが教会や軍が確保しているため魔法に頼らない医学も大事である。ここだけの話、昔レイラ叔母さんの授業で密偵が任務によって身体ごと偽ることもあるということで、女性の処女も魔法でどうにかできてしまうため男性の童貞宣言と同じくらい信用ができないものである。


 「監禁所では、教官から色の名前が書いてある、メモが渡されました。そのメモの内容もですが存在自体隠し通すのがこの試験の内容です。このテストが一番長かったです。後から逆算してわかったのですが、3日間にわたりテストがありました。初歩的な尋問から、水攻めや暗闇の中での尋問や、食事も与えられなかったりですね。身体をいじめる拷問もありました。殴られたり鞭や棒でたたかれるところから始まり、爪をはがされたり、骨を折られたり、指を切り落とされたりも。そのあと最低限の治療だけされて不規則な時間差で即死につながるもの以外の拷問をうけましたね。」


 ここで周りを見ると全員が引いていたのですが、ギルモア大佐が言った。


 「このテストは、どのくらい尋問に耐えられるかや自白剤を打たれた状態でもどれくらい抵抗できるかも見られている。また併せてストレス耐性も見られていたのだ。」


 「なんだか密偵のテストみたいですね。」


 「そのあとですが、味方が救出に来てくれたとのことで監禁所から安全地帯に向けての撤退戦がありました。ここは、拷問によって肉体も精神的にもきつくて逃げるのも大変でした。ただ、悪質なのですがこの後だあされた食事に毒が盛られていました。毒の解毒薬がある研究所を、毒が回り始める時間までに急襲するのが最後のテストです。幸い最後のテストは、毒が盛られている以外は希望する装備や人員が与えられたので助かりました。」


 「聞いての通り009部隊の隊長を選考する試験は各地で同様の内容で開かれており、経歴を問わず試験を受けた者の中でウィリアム少尉は将来性もみて隊長として推薦されたのだよ。少尉に足りないのは実戦の経験値だと軍は判断している。ちなみに学園の試験に紛れて受験させたのは、敵勢力の密偵をあぶりだすのと事故として処理するのに効率が良いからだ。」


 僕は、家族にも話ができなかった試験のことを別の人に話すことができやっと気持ちが整理でき晴れやかな顔をしていたのだけど、他の人はどうやら違ったようだ。


 紹介された当初は、僕の年齢や経歴に疑問視や不安視するような視線がほとんどであった。しかし、実技試験の話を終えた後の視線は、決して隊長として認めてくれた視線ではなく、なんと、可哀そうな人を見る視線になっていたのである。その証拠に無言でデザートをくれる人ばかりであったのだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る