第4話 にゃん歴979年4月②
今年に入ってからは、4月の入学テストのために出発するまでの間これでもかというくらい弟達と一緒に過ごした。ロイとローラの可愛いお願いを聞いたり、テッドの勉強をみてあげたりした。双子は僕のことを「にいにい」といって呼んでくれる。ちなみに、アル兄さんは兄さんは「にい」、メイ姉さんは「ねえね」、テッドは「にいちゃ」である。全員初めて呼ばれたときは一番好かれていると勘違いしたものである。
「にいににとにいちゃは私と部屋で絵本を読んでもらうんだもん。」
「いいや、にいにいとにちゃはぼくと外でかけっこする!」
「いやいや、本を読んでくれるってこの前約束してくれたもん!」
「本なんていつでも読んでもらえるだろ。今日は晴れてるんだから外で遊んだほうがいいに決まってるの!」
「ウィル兄どうする?」とテッドが言った瞬間、二対のつぶらな瞳が僕を見つめるのであった。
「う~ん。どうしようかな。まずは、皆で外でかけっこした後お庭で絵本を読んであげるよ。」
ロイとローラの小さな手とつないでうららかな日差しの庭に駆け出すのであった。
僕は、兄弟とたわいない日々を過ごすことで今後に関する不安を忘れようとしていたのであった。
領地から帝都までは鉄道のある都市に出るまで2日、そこから1日列車に乗ることになる。レイ家は子爵家であるが、これといった特産もない地である為財政は厳しく何とか姉さんには一人侍女をつけているが、兄さんや僕には供をつける余裕はなくまた、領民で学園に進もうとする人も少なく、列車のある都市までは一人旅となった。さすがに、列車に乗るころにはちらほらと同年代の子供も見受けられるようになったが、知り合いでもないので列車の中でもボッチであった。試験自体は免除されていることもあり、ほどほどにできたらいいという考えから復習などしなかったこともあるが、暇つぶしに持ってきていた本はすでに読み終えており、暇になってやることは人間観察か考えことをすることの二つぐらいであった。帝都に近づくにつれて同じく受験生であろう子供が多く見られたので、僕は人間観察を選択したのであった。ある席の子供は最後の追い込みをかけて必死に参考書を読んでいたり、また違う席の集団はS科を受験するのか、従者を伴いながらのんびりとお茶をしている。そうこうしている間に列車は帝都に到着したのであった。
学校からの書類だと思っていたのは実は軍からの命令書であり、最初は学園でほかの生徒と一緒に受験するがそのあとは別行動になるみたいであった。
本当は兄さんの寮に泊めてもらい帝都をぶらつこうかと考えていたが、宿泊先も軍から指定があり出歩くことはできそうになかった。
筆記試験は、アル兄さんやメイ姉さんから聞いていた通り、母さんや叔母さんたちの指導がよかったのか分からない問題はなかった。むしろそのあとの実技の試験のほうがすごかった。
まず、自分がもってきていた荷物は下着から問題集まで全て所定の場所に預けなくてはいけなかった。代わりの着替えは軍から支給されたものを、監視のある場所で着替えなければいけないことに躊躇する受験生が多かった。その後は目隠しと耳栓をして誘導に従い乗り物に乗せられて軍の演習所に案内された。これも防諜の為であり、前日の宿泊施設からすでに監視されていたみたいだった。
実際に試験地についた際、学園から一緒だった人が少なくなっていたので何カ所かの試験地があるのかなと考えていたら、到着して早々休む間もなく次々と試験が行われたのであった。健康診断から始まり基礎体力試験、野営にストレス耐性や、兵器の相性を試すなんて序の口であった。拷問耐性を調べられるために自白剤を打たれたり体感3日間拘束されたりもし、気づけば士官学部を受験している人数は多いはずなのに、この実技試験に来ている人数は少なかくさらにそこから人数が減っていた。
5日間の地獄みたいな試験を乗り越え、自分の荷物を受け取るころには生き残った数少ない受験生は、結果よりも乗り切れたことに安堵し、地獄を共有したからか妙な連帯感も生まれていた。そして、駅まで送迎してもらったときは入学後もよろしくと別れていったのであった。
とある会議の一幕
軍関係者や文官、宮廷に勤める女官などが大きな会議室に集められていたのであった。その中でまず発言したのは、軍の関係者であった。
「今年の試験はどうだったかね?」
「はい。他国に買収されているものと密偵合わせて全体の半数くらい紛れていました。すでに事故死として処理が済んでおります。」
「半数弱か。毎年のことながらご苦労なことだ。して、かの部隊の選抜試験のほうはどうだった?」
「使い物になるものは少ないかと。」
「ふむ、不合格の奴らはいつも通り使い捨ての兵として国境に配備しておけ。」
「了解です。」
その発言を残し軍からの出席者は数人を残し退出していった。その後何事もなかったように会議は進行していくのであった。
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