第3話 にゃん歴978年12月
その日は、珍しく朝から父の執務室に呼び出されたのであった。いつもなら朝は武術の稽古などの体作りの時間にあてられている。
辺境地では特に、動力エネルギーが使いだされるようになってからか狂暴化した生物や無機物があらわるようになった。それらは魔物と呼ばれ、魔物は見境なく人を襲い集落を破壊していく。その為多くの貴族は自衛のため子供たちに武術を教えているのであった。
また、平民の中には魔物の駆除を専門としている冒険者ギルドに所属して活動しているものもいる。ギルドは、国に所属しているのではなく、ポッポ神聖国に本拠地を置き国をまたいで活動している団体である。ギルドは民間人の保護を掲げ活動しており、理念違反しない依頼なら何でも受けるため、町の便利屋さんの側面もある。ギルドに所属していれば基本どの国にも行くことができるが、内政干渉は認められていない。権力から距離を置き中立を保つことであらゆる国に支部を設置し通行の自由を確保しているのであった。
魔物を討伐する集団としては他には、貴族が所有している騎士団や商人が自衛のために雇っている武力集団などの傭兵団もある。こちらは基本戦闘を主としており、報酬次第では戦争への介入や略奪、誘拐、暗殺なども請け負うことから冒険者ギルドとは依頼がバッティングしていたり仲が悪いことが多い。
軍隊は、魔物の討伐よりは国内の治安維持や他国への武力としての側面が強い。平時であれば訓練の為討伐を行うことも稀にあるが、それ以外だと作戦中に障害になる以外は基本手を出さない。ギルドや傭兵に依頼を出すことですみわけを行っている。
執務室の前で、ノックをして入室の許可を取り中に入って中にいる顔ぶれを見て驚いてしまった。
父さんの他に母さんや叔母さんたちがいるとは思っておらず、来年から通う学園についての話かなと思っていたので「なぜ母さんや叔母さんたちが?」という疑問を思い浮かべるのであった。無理やりに理由をつけるとしたら、普段の勉強を見てもらっている母さんや叔母さんたちを交えてN科以外の通う学部を検討するためである。
その予想は、父さんの悲壮な顔からの第一声で違うことが分かった。
「すまないウィル。」
「父さん?すまないってどういうことですか?」
「ウィルは、来年から通う予定の学園でアルやメイと違うのは知っているだろ?試験が免除されている点は同じだが、ウィルはそれとは別に軍に所属している形になるんだ。だから受ける学科がN科と士官学部となるんだ。ここまではいいかい?」
「はい。」
「ただ、軍属だから士官学部も試験自体は免除されているのだよ。ただ試験は受けないといけんだが、基本軍の人間には任務について守秘義務が決められている。たとえ家族であっても漏らすことは許されていないんだ。だから、わたしも弟たちがどの部隊に所属していたとかは知らないんだ。なんでこんな話をしているかというと、試験を受けること自体が軍の命令であり、父さんたちはウィルがどういうテストを受けるかさえ教えられていなんだ。」
「えっ?父さんやレイラ叔母さんの実家でもわからないの?」
「ごめんね。叔母さんの実家が軍閥に所属していると言ってもウィルのテストのことや所属する部隊すら教えてもらえなかったの。」
「レイラさん、実家に働きかけすまないね。ただ、ウィルの任務地は大体予想はできるんだ。レイ家は5年以上軍役の任を果たせていないから間違いなく合衆国との国境になるだろう。」
「学生の身分でも国境に?」
「ああ。間違いないだろう。これは貴族に課せられ軍役のペナルティーだからな。そして、国境に赴任した新兵の生存率は…。」
「なるほど。それで、初めにつながるのですね。」
これは、誰が悪いってことでもない。そういう決まりだから仕方がない。一族の重荷を背負わせることとなった身を案じて父さんたちは暗い顔していたのか。特にリーリエ叔母さんはサイモン叔父さんのことを思い出してか涙を流しており、そのことのほうが僕にはつらかった。叔父さんが戦死して叔母さんの子供が流産した日のことは忘れられない。それなのに僕たち兄弟のことを気にかけ、勉強も見てくれた。同じ年に生まれる予定だった双子のロイとローラのことを自分の子供みたいに接してくれて、一族で一番僕たち兄弟を甘やかしているのではとさえ思っている。
ただ、じゃあ「死なないよう頑張ります!」というのも違うと思うし、悲嘆にくれるのも違う。ただただこの場でどのような顔をするのか正解かがわからなかった。
ほどなくして、伝えることが終わったのか退出の許可が出てほっとしたのである。
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