第2話 にゃん歴979年4月①

 僕ことウィリアム=レイは、貴族の子弟や一部の平民が通うことができる学園に入学するために必要な試験を受けるため、帝都に向かう列車のなかでこれまでのことやこれからのことを考えていた。


 実家はにゃんこ帝国とうさみみ王国との国境付近にある辺境の地を収めている貧乏子爵家である。

 帝国の領土は広大であり帝都アイルと主要な都市は列車の路線でつながっている。が、そこから外れるにつれて生活やインフラレベルはどんどん下がっていく。約400年前にとてつもなく便利な動力エネルギーが発見された。それまで主流エネルギーだった魔力は廃れていき、代わりに自然界から自由に取り出せる動力エネルギーを使用したものであふれていった。人は無限のエネルギーを手に入れても平和になることはなく、権力を欲しての争いは絶えることはなかった。かくいう帝国も350年前に内戦でアニマル大国が分裂してできた国である。アニマル大国は西に民主主義を掲げるわんこ合衆国と東に階級社会が色濃く残っているにゃんこ帝国に分裂したが、同じ国力や領土の広さなどの理由からか未だに戦争が続いている。また中央の貴族は戦時中であっても国内で権力争いをしている。それは、合衆国側でも変わらない。ただ支配者の名前が、政治家となっているだけである。


 いつだって、戦争に翻弄されるのは僕たちの一族みたいな末端の貧乏貴族である。

貧乏貴族あるあるだが、子爵家当主の父さんには、2人の弟が居た。そのどちらもが12年前から6年に続く合衆国との戦争で戦死している。

 カール叔父さんが亡くなったとき、3歳だった僕は当時のことを詳しく覚えていない。覚えているのはカール叔父さんの結婚が決まってお祝いムードの家の中が、次の年に叔父さんの訃報を聞いて泣くに泣けないレイラ叔母さんの顔を象徴するような暗い雰囲気となった。ましなことと言ったらその年に弟のセオドアが生まれたことくらいだった。

 その翌年、サイモン叔父さんが学園時代から付き合っており、卒業後婚約していたリーリエ叔母さんと結婚した。叔父さんが貴族の役目としてある軍役につくため急遽親族だけの挙式であったが2人とも幸せそうだった。しかし、隣国との戦争が始まっており、すぐに出兵となった叔父さんに対して、僕たちただ無事に帰ってきてくれることを祈るばっかりであった。その願いが届いてか、領内は数年間穏やかな日々が流れていた。のちの世だからわかることだが、戦争が終わる前の年、おじさん夫婦に待望の子供ができた。久ぶりに明るいニュースでもありそれにつられて父さんと母さんも頑張ったのか僕たちにも、弟か妹ができたのであった。7歳になった僕はもちろん9歳のアル兄さんや8歳のメイ姉さんも両親が何をやったか理解しており微妙な顔をしていたのがやけに記憶に残っている。4歳のテッドはよくわかっていないが明るい雰囲気につられてかわがことのように喜んでいた。しかし、良いことは続かない。その翌年、叔父さんの戦死報告が届き、それを見たリーリエ叔母さんはショックでお腹の子供を流してしまった。幸い母さんは無事出産をした。生まれてきたのは叔父さんと叔母さんの子供の生まれ変わりなのか、弟と妹の双子であった。


 貴族は、領地や税収を徴収する権利を持っているが、義務として幾つかしないといけないことがある。税収の納付などお金で解決ができることが多い中、お金で解決できない義務がある。それは、爵位の継承権のある貴族は15歳から3年帝国が運営する学園に通うこと。もう一つは、一族の中から15歳以上の男を軍役に出さないといけない。軍役は莫大なお金とコネで安全は買えるが、逃れることはできないのである。

次の停車駅が帝都とのアナウンスが聞こえてきたこともあり、僕は、学園についても少し考えを巡らせた。


 学園には、貴族の身が通える3つの科と平民も試験さえ受かれば通える4つの学部がある。貴族の嗣子や高位貴族の子供、はたまた結婚相手を探す貴族の子女が通うS科は、通うためには嗣子は無料で通える。それ以外の子供を通わそうとすると莫大な寄付が必要である。S科に通うのに必要なのは親が貴族であることとお金持ちであることであり、学力は必要ないのだが、クラス分けのために一応試験は受ける。

 僕が通うこととなるだろうN科も、無料で試験の結果に関係なく所属できる。通う条件は貴族の次男であることである。もちろん裕福な貴族の次男はS科に通うため、貧乏貴族の次男しからおらず、なぜこの科があるかというと、長男に何かあった場合に爵位を継承できるようにするための帝国が緊急措置で作った政策の為である。

 多くの貴族の次男以下はもう一つの貴族用の科である従者科を目指す。これは文字通り高位貴族の従者になるため勉強するところであり、卒業後の進路も安定している。一定のレベルを保つために唯一入学のために厳しい試験が課せられている。

 平民でも通える学部としては、将来官僚をめざす官吏部。軍学校の側面が強い士官学部。動力エネルギーを研修する動力学部や医学部がある。それぞれ試験に合格すればその学部の授業を履修することができる。

 S、N科以外の授業料は安いがタダではないため、平民の多くは15歳から働きに出るのが普通の世界である。


 もう一つの義務の軍役に関してだが、基本は貴族の次男が出ることが多い。それは、嗣子は軍役を免除され、女性は軍に出すよりも家同士の繋がりを作るために政略結婚をさせることが多い。また、レイ家のように当主以外の15歳以上の男子が居なければ軍役が免除となるがそのペナルティーとして期間が空けば空くほど次に赴任するものは激戦区に配置されるのであった。レイ家は7年の空位があるため僕は激戦区に配属されるのは確定されている。僕の将来をおぼろげに知ったのは年末であった。

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