第11話 りゅうじおにいちゃん
*
「ねえ」
「……ん?誰だ?」
「ねえ、ゆうしゃさま。オレとゲームしようよ」
「げーむ?げーむとは何だ?」
「ゲームはコレ、Smitchって言うの。1人でもたのしいけど、2人だともっとたのしいよ」
「ふむ、そうなのか。わかった。じゃあ一緒にしよう」
てくてく、ぴょーん、ぽにっ、てれってれってれー。
「なるほど、確かにゲームは楽しいな」
「でしょ?」
「うん。教えてくれてありがとう少年」
「もっとしたいよね」
「ああ、そうだな。まだイチメン?しかやっていないからな」
「だよね。もっとたくさんゲームしたいよね」
「うん」
「えへへ、よかった。じゃあがんばって、セカイをすくって。ゆうしゃさま」
楽しい夢とは、目覚めたらすぐに忘れてしまうモノなのです。
*
ちゅんちゅん。朝がやってきました。
朝に弱いのが嘘みたいにバッチリ起きた
「朝だぞ魔王よ!早速宿題を始めるぞ!世界を救わねばならないからな!」
「その前に、この娘は毎朝おばあちゃんから頼み事をされているのだ。付き合うが良い勇者よ」
「おばあちゃんの頼みであれば仕方あるまい。して何を?」
「アサガオの散歩だ」
「
どたどた部屋に戻る
「……よし!準備万端だ!では行こう!」
「互いに着替えていないし顔も洗っていないだろうが。何処が準備万端だ。余たちが元いた世界でも外出時に身だしなみを整えるのは常識だったろうに」
「……そ、そうだな。確かに我々が元いた世界では部屋着で外に出ないのは常識だったが……この世界もそうなのだな?」
「ん?……おい勇者。よく考えなくとも常識が身に付いているなら、この問答は不要なはずだ。お前まさか、日常的に部屋着で外をうろついていたのか?」
「いやまあ、ちょっとの用事くらいなら良いんじゃないかと思って」
ちょっと……?王様への謁見がちょっとの用事……?
「ちなみに余と戦っていた時は──部屋着じゃなかったよな?」
「…………」
「嘘だろお前!あの鎧の下、いつも部屋着だったのかよお前!ファッションから余を愚弄していたかお前!」
「ふ、ふぁっしょん?いや待て誤解だ魔王よ!我のお気に入りの部屋着はな、おばあちゃんのお手製だったのだ!我は肌身離さずおばあちゃんを感じていたかっただけなのだ!」
流石にキモくないかそれは。
言ってやれよ魔王、だからモテないんだぞって。
「なら仕方ないな……」
グランドマザコン供がよ〜
「こほん、とはいえ今のお前はカエデくんだ。カエデくんが変な目で見られないためにも着替えてもらうぞ」
「わかったよ。面倒くさい……」
「着替えるのはもちろん顔を洗ってからだが。……流石に顔は洗ってたよな?」
「…………」
「嘘だろお前汚っ!部屋着で目ヤニ付けながら世界を救う勇者とか、おばあちゃんが泣くぞ!」
「うっ、うるさいうるさい!洗う!これからは洗うから!ほらさっさと行くぞ!」
育ちは同じはずなのにどうしてこうも性格に違いが出るのか。不思議な女神であった。
*
「朝の散歩は気持ちいい。アサガオも気持ちいいか?ふふ、余の言葉をわかっているようなそうでないような顔をして、ういやつめ」
「『女神は首輪に繋がれ、心地良い木漏れ日の道を手足を使い這い回る』と」
「そしてお前は何をしているんだ。散歩中にぶつぶつ言いながら絵なんか書いて……無駄に上手いし」
散歩にアサガオの観察日記を持って来ていた
「しかしこの、女神というのは何だ?」
「アサガオのことだ」
「なるほど、言い当て妙だ。確かにアサガオは女神の如き柴イッヌ。この娘もそうだそうだと言っている」
アカネお姉ちゃん!ああもう、私がたまたま犬の体を借りてしまったばっかりに!
「よし、これであとは2ページだ。順調順調」
「ん?自由研究だったのか。良いテーマ……!?」
アカネお姉ちゃんの動きが止まる。焦ったような、困ったような表情で沈黙する。
「どうした魔王?顔色が悪いが」
「黙るがいい勇者よ。というか余はこれから全力でアカネお姉ちゃんに正解しなくてはならない。なのでお前もカエデくんしてくれ頼む!」
道の向こうから誰か歩いてくるね。
イケメンだ。線が細くて色白で金髪のイケメンが黒シッバとテクテクやってきた。
「んなぁ!?姫ぇ!?」
「ん?あれ、アカネさんだ!奇遇だね」
「この世界だと姫は男なのか!というか魔王よ、姫と知り合いだったのか!?」
「魔王って……アカネさんのこと?いやいや、僕よりよっぽど、アカネさんの方がお姫様じゃないかな?」
「あはは、お世辞でも嬉しい。ありが──いっ!?」
アカネお姉ちゃんが突然手を抑える。しばし
「べ、別に。アンタにお姫様扱いされたって嬉しくも何ともないから!勘違いしないで!」
「今嬉しいと言ってただろうに。どうした魔王」
「いや、余にもわからない。この男の時に限って、娘の気持ちを代弁しようとすると何故か手をつねられイテテテテ」
「アカネさん大丈夫?昨日から何か変じゃない、体調悪い?それに、その子は?」
「え、えーと。この子はアタシの従兄弟。ゲーム好きだからゴッコ遊びに付き合ってあげてるの!アンタには関係ないでしょ!」
素直なアカネお姉ちゃんに成り切ると魔王は何故か怒られちゃうみたい。何でだろうね?
「あはは、それはそうだね……ところで、昨日の件考えてくれた?」
「わざわざ家まで来て何かと思えば、今度川でバーベキューするから一緒にこない?って……MINEで言えば良かったでしょ」
「いや、まあ……そうなんだけどさ。アカネさんは直接誘いたかったから」
「はー!?誰にでもそういうコト言って!
そう言ってアカネお姉ちゃんは駆け去って──いかない。魔王は困っている。
「え、アサガオもカエデくんも置いたまま帰るわけには。痛い痛い、ち、ちょっと」
「……えーと、我は大丈夫だ。魔、いやアカネお姉ちゃん。ちゃんとアサガオと帰れるよ」
「本当助かる。ありがとう。ということで
今度こそアカネお姉ちゃんは駆け去っていった。
「行っちゃった。アカネさん僕が話しかけると最近はいつもあんな感じなんだ。何でかな……」
「わかんない。
「えと、君名前は?」
「カエデだよ。アサトア姫……じゃなくて、竜二お兄ちゃんって呼んでいい?」
「うん。僕は
前髪を指で掻き上げる竜二お兄ちゃん。小さな顔に大きな瞳。女の子みたいでかわいい感じだね!
「確かに、男らしくはないな」
「バッサリ言い切るね。でもそういうところアカネさんに似てて好きだなぁ」
「お兄ちゃんアカネお姉ちゃんが好きなの!?あの反応されて!?」
「もちろん本人には言わないでね!?いや、あの。昔は僕にも普通に話してくれてたんだ。一緒に講義受けたり、同じサークルに入ったり、休日に遊びに行ったりして」
2人とも仲良しだったんだね〜。じゃあ何でアカネお姉ちゃんはあんな風になっちゃったんだろう?
「何かよっぽど嫌われることしないと、ああはならなくない?」
「それがわからないから困ってるんだ……あ、そうだ!ねえ、カエデくん!」
「任せろ。アカネお姉ちゃんに竜二お兄ちゃんをどう思ってるのか聞いてくる」
「話が早いね!?じゃあ、よろしくお願いします。えっと連絡手段……カエデくんはこういうスマホとか持ってる?」
「すまほ?ああ、その板はママが持ってたな」
「カエデくんは持ってないか。じゃあ僕の携帯番号教えるね。アカネさんに聞かれない時にかけて」
アサガオの観察日記の隅っこに、竜二お兄ちゃんが携帯番号を書いてくれました。
「お兄ちゃんのケイタイバンゴウを手に入れた???」
「あっ、カエデくんは電話かけたことないかな?お家の固定電話からその番号にかけるんだ。やり方がわからなかったら、おばあちゃんに聞いてみて」
「わ、わかった。善処しよう」
「じゃあ……あれ待って。カエデくん1人でちゃんと帰れる?」
「ああ。家には帰れる。道順を覚えるのは
それなら、と言い竜二お兄ちゃんは立ち去ったのでした。
うわーカエデくん大変だ!2人のキューピッドにならないとだよ!
「デンワか。おそらくはこの世界の魔道具か?連絡手段と言っていたが、果たしてどのようなモノか……しかし……それより……い、いいい──」
勇者はみずみずしい朝の空気を胸一杯に吸い込んで。
「恋、いいなーーー!俺も巨乳のお姉ちゃんと恋したーーーい!!!」
清々しい朝に到底6歳児から出ないであろうセリフを叫び出した。
「よし来世に期待だ。女神も聞いていたからな。よろしく!な、女神!な!」
「わんっ!」
「何っ、声が出るんじゃないか女神!日記に書いておこっと。『女神は舌をはっはと出しながらワンと神託を下したと』」
もうどうにでもなーれ。
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