第10話 おやすみのじかん


「よし、絵日記1枚目完成だな。……ふう」

「宿題が一つ終わっただけだぞ?先は長いというのに、勇者ともあろうモノがこの程度で何を疲れている」


 もうすぐ21時になります。かえでくん、まだもう少し宿題できるかな?


「それもそうなのだが、何故か妙に身体が重くてな……。とはいえ、うかうかしている時間がないのもまた事実。気合いを入れて次の宿題に取り掛かろう」

「ああ。というかこの量なら日記を含めるとしても3日あれば終わるだろう。そしたら──」


 アカネお姉ちゃんは言葉を詰まらせます。


「そしたらなんだ魔王?……いや待て。そうだな、我々が仮にこの世界を救うとしよう。そうしたら、カエデくんやアカネお姉ちゃんはどうなるのだ?まさかずっとこのままか!?」

「いや安心しろ。女神は言った、今日から7日間しか我々を憑依させることは出来ないと。7日経てば身体が2人に自動的に返却されるとな」


 いくら魂が同一人物でも肉体は別だからね。タイムリミットがあるのです。


「では、7日が過ぎれば我々は──どうなるのだ?」

「……さあ?だがまあ、余は大人しく滅びてやるつもりなど毛頭にない。必ず何処かで蘇り、今度こそお前に勝ってから世界を支配してみせる。この魂に終わりはないと知れ」

「……ふん、やはりか。実に貴様らしい。であれば我もその邪悪を完全に打ち滅ぼすため、同じ世界に生まれ直してやるとしよう。幾度肉体を失おうとな」


 同じ世界に転生する気満々かよコイツら〜

 世界何個あると思ってるんだよ〜


「とはいえ今は世界崩壊の危機。気は乗らないが、おばあちゃんの為にもカエデくんであるお前と組むしかないだろう。ほら、さっきから手が動いていないじゃないか。その国語プリントは字をなぞるだけだろう?何故止まる」

「……それがだな。その、


 やっぱりかえでくん、今日は疲れちゃったんだね。


「どういうことだ?肉体の主導権はお前にあるのでは?」

「そのはずだが……いや、この感覚。ずっと覚えがあると思っていたが今確信した。これは──MPマジックポイント切れだ」


 違うが?


MPマジックポイント切れ!?いや、この娘の記憶によれば、この世界にそのようなものは──」

「宿題をしているとだな。ジワジワと身体が重くなって、気力を削がれていくんだ。間違いない。これは宿題を行うMPマジックポイントが足りない」


 いや、かえでくんがもう眠いだけだと思うよ。


「我々の世界では状態確認魔法オープンステータスMPマジックポイントの残留を可視化できた。でもこの世界には魔法がないからMPマジックポイントは認識出来ない。そう、見ることが出来ないだけで、この世界にもMPマジックポイントはあるのだ魔王よ!」

「何ぃ!?」


 ないから、魔法使えないの時点でマジックなポイントがないのに気づいて。


「くっ、つまりだ勇者よ。宿題を行えばその見えないMPマジックポイントが減っていく。余たちはそれに考慮して宿題を終わらせねばならぬと?」

「そういうことになるな」


 ならないが?何魔王も納得してるの、流されないでよ魔王なんだよね?


MPマジックポイントを回復する手段には何があったか。余は魔王となってから無尽の力を手に入れた故そういうのとは無縁だったのだが」

「手っ取り早いのは食事だな。後は睡眠だろうか」

「食事……お前ならともかく、カエデくんに深夜ドカ食いさせる訳にはいかないだろう。カエデくんが健康を損なえば、おばあちゃんが悲しむ」

「同意だ。冷えたスイカは美味しいが、お腹を壊してしまえばおばあちゃんを心配させる」


 うーん。まあじゃあ今日は全会一致で。


「「寝るか〜〜〜」」


 そうなるよね。かえでくん今日は沢山車に乗って、おばあちゃん達とお話しして、宿題もちょっとだけした。ヘトヘトだよ、早く寝よう。


「ちなみに勇者よ、お前の感覚的に宿題は丸1日でどれくらい進みそうなのだ?」

「今日は夕方にアサガオの観察日記1ページ、夜に絵日記1枚が出来上がっている。夕方はおそらくスイカでMPマジックポイントを回復したんだろう」

「単純に考えれば食事の分だけ宿題が出来ることになるが」

「いや、魔法が使えない以上どの宿題でどれくらいMPマジックポイントが減るかや、何を食べると効率良く回復するのか。宿題以外にもMPマジックポイントを減らしてしまうトラップがあるのか──未知数だ。そう単純にはいくまい」

「……3日では終わらなさそうだな?勇者よ」

「ああ、貴様とは長い共闘になりそうだ。魔王よ」


 なんでちょっと楽しそうなんだよコイツら。

 意外と仲良いのか?


「まあせいぜい余の足を引っ張ってくれるなよ、満開の勇者ハナノキ」

「こちらのセリフだ、我に惜しみなく力を捧げよ、黒翼の魔王シラトリ」


 ばちばちと、視線が交差します。

 剣と魔法の世界の、決して相容れぬ勇者と魔王はこうして共に立ち上がったのです。


「カエデ〜アカネ〜」

「「おばあちゃん!」」

「夜更かしはダメよ〜早く歯を磨きなさ〜い」

「「はーい!!!」」


 おばあちゃんと、その愛する孫達の世界を救うために!

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