第10話 おやすみのじかん
*
「よし、絵日記1枚目完成だな。……ふう」
「宿題が一つ終わっただけだぞ?先は長いというのに、勇者ともあろうモノがこの程度で何を疲れている」
もうすぐ21時になります。
「それもそうなのだが、何故か妙に身体が重くてな……。とはいえ、うかうかしている時間がないのもまた事実。気合いを入れて次の宿題に取り掛かろう」
「ああ。というかこの量なら日記を含めるとしても3日あれば終わるだろう。そしたら──」
アカネお姉ちゃんは言葉を詰まらせます。
「そしたらなんだ魔王?……いや待て。そうだな、我々が仮にこの世界を救うとしよう。そうしたら、カエデくんやアカネお姉ちゃんはどうなるのだ?まさかずっとこのままか!?」
「いや安心しろ。女神は言った、今日から7日間しか我々を憑依させることは出来ないと。7日経てば身体が2人に自動的に返却されるとな」
いくら魂が同一人物でも肉体は別だからね。タイムリミットがあるのです。
「では、7日が過ぎれば我々は──どうなるのだ?」
「……さあ?だがまあ、余は大人しく滅びてやるつもりなど毛頭にない。必ず何処かで蘇り、今度こそお前に勝ってから世界を支配してみせる。この魂に終わりはないと知れ」
「……ふん、やはりか。実に貴様らしい。であれば我もその邪悪を完全に打ち滅ぼすため、同じ世界に生まれ直してやるとしよう。幾度肉体を失おうとな」
同じ世界に転生する気満々かよコイツら〜
世界何個あると思ってるんだよ〜
「とはいえ今は世界崩壊の危機。気は乗らないが、おばあちゃんの為にもカエデくんであるお前と組むしかないだろう。ほら、さっきから手が動いていないじゃないか。その国語プリントは字をなぞるだけだろう?何故止まる」
「……それがだな。その、手が動かないんだ」
やっぱり
「どういうことだ?肉体の主導権はお前にあるのでは?」
「そのはずだが……いや、この感覚。ずっと覚えがあると思っていたが今確信した。これは──
違うが?
「
「宿題をしているとだな。ジワジワと身体が重くなって、気力を削がれていくんだ。間違いない。これは宿題を行う
いや、
「我々の世界では
「何ぃ!?」
ないから、魔法使えないの時点でマジックなポイントがないのに気づいて。
「くっ、つまりだ勇者よ。宿題を行えばその見えない
「そういうことになるな」
ならないが?何魔王も納得してるの、流されないでよ魔王なんだよね?
「
「手っ取り早いのは食事だな。後は睡眠だろうか」
「食事……お前ならともかく、カエデくんに深夜ドカ食いさせる訳にはいかないだろう。カエデくんが健康を損なえば、おばあちゃんが悲しむ」
「同意だ。冷えたスイカは美味しいが、お腹を壊してしまえばおばあちゃんを心配させる」
うーん。まあじゃあ今日は全会一致で。
「「寝るか〜〜〜」」
そうなるよね。
「ちなみに勇者よ、お前の感覚的に宿題は丸1日でどれくらい進みそうなのだ?」
「今日は夕方にアサガオの観察日記1ページ、夜に絵日記1枚が出来上がっている。夕方はおそらくスイカで
「単純に考えれば食事の分だけ宿題が出来ることになるが」
「いや、魔法が使えない以上どの宿題でどれくらい
「……3日では終わらなさそうだな?勇者よ」
「ああ、貴様とは長い共闘になりそうだ。魔王よ」
なんでちょっと楽しそうなんだよコイツら。
意外と仲良いのか?
「まあせいぜい余の足を引っ張ってくれるなよ、満開の勇者ハナノキ」
「こちらのセリフだ、我に惜しみなく力を捧げよ、黒翼の魔王シラトリ」
ばちばちと、視線が交差します。
剣と魔法の世界の、決して相容れぬ勇者と魔王はこうして共に立ち上がったのです。
「カエデ〜アカネ〜」
「「おばあちゃん!」」
「夜更かしはダメよ〜早く歯を磨きなさ〜い」
「「はーい!!!」」
おばあちゃんと、その愛する孫達の世界を救うために!
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