第9話 しゅくだい いちにちめ えにっき


「というわけで宿題の時間だ。準備はいいか勇者よ」

「モグモグモグ……準備は万端だ。始めるとしよう、魔王よ」


 食後のスイカを頬張りながら返事をするかえでくん。


「して、何から始めるつもりだお前は」

「絵日記だ。1日の出来事をこの用紙にまとめる必要がある」

「書く内容は決まっているのか?」


 スイカの皮をお皿に置いたかえでくん。くふくふ笑い出してどうしたのかな?


「ふふふふふ、はーっはっは!そこで見ているがいい魔王!我が衝撃と困惑と涙と波乱に満ちた激動の1日、その回顧録を!」

「あ、うん。見てるから静かにしてくれ。おばあちゃんが来たらどうする」

「貴様何故おばあちゃん達の前ではアカネお姉ちゃんになるんだ」

「……お前とは違い余は頭の中にこの娘の声が聞こえる。会話が出来るのだ」

「何っ、してアカネお姉ちゃんは何と?」

「「アタシの身体使ってそのダッサイ喋り方してみなさい?アンタのトラウマ一生頭の中で擦ってあげる」、と」


 アカネお姉ちゃん怖ーい!大学生になってからは猫かぶってるけど、元ヤンだもんね!


「魔王にトラウマ?あるのか?」

「余だって65年は生きてたんだぞ。あるだろ思い出したくもない記憶の一つや二つ」

「そ、そうか。あの魔王にそんな弱みが」

「お前に話すコトはないだろうがな。ほら早く絵日記やれ」


 さあ、今日は絵日記1枚目を書くみたい。

 上手に書けるかな?


「それもそうだ。では早速!」

「……ふむ。記憶の共有はせずとも日本語は読めて話せて書けるのだな。何とも不思議なものだが……」





「完成だー!」

「……」


 やったね完成だ!えーとなになに?



『めがみ がつ|げるうんめいの ひにち|ぎるおばあちゃんとのほう ようび|っくり でんき|


 アカネおねえちゃんといっしょにおふろにはいった。スイカだった。スイカはおいしい。すごいよかった』



「バカヤロウ」

「バカヤロウとは何だバカヤロウとは」


 バカヤロウだよ


「まず何月何日何曜日と天気の欄にギチギチに日記を詰めるな。穴埋めじゃないから」

「やはり正解ではなかったか。我も違和感あったからな」

「いやまあ、『女神が告げる運命の日に契るおばあちゃんとの抱擁』までは正解だったかもしれない」


 不正解だよ


「最後の『びっくりでんき』は何だ」

「そこはやはり『て』を『て』のまま活かさなくてはダメだったか……」


 『びっくりてんき』でも『びっくりでんき』でも意味不明でしょうがよ


「で、正解は?」

「この世界にも日付の概念がある。今日は8月25日だからそう書いておけばいい。また、曜日というものもあって──」


 凄い真面目じゃん魔王も。血の繋がりを感じるとか言ったら怒られそうだから言わないけど。


「なるほどなるほど。説明がわかりやすくて助かる。認めたくはないが、おばあちゃんの血だな」

「ああ、まったくもって腹立たしいが。おばあちゃんの血のおかげで物分かりがよくて助かる」


 この2人おばあちゃんを中心に世界を回してるから何とかなったね。


「次、内容。6歳の自覚はあるか?」

「事実しか書いていないぞ。お姉ちゃんとお風呂に入ったことと、スイカが美味しかったこと」

「じゃあ順番を逆にしてくれるか。これだと何かな……」

「うん?まあわかった」


 ということでお直ししたものがコチラ。



『8 がつ|25 にち|げつ ようび|はれ てんき|


 スイカおいしかった。スイカさいこう。アカネおねえちゃんとおふろにはいった。むしゃぶりつきたい』



「欲望が文面から隠しきれていないぞこのムッツリ勇者がよ!!!」

「なん、何だというのだ!スイカにむしゃぶりつきたいだけだろうがよ我はよ!」


 6歳の絵日記ではないかな〜


「今から余が言う通りに直せ!小学1年生らしさがまるで出てない!というかその最たるモノがこの絵である!」

「何!?絵には自信があったのだが!?」

「絵日記に絵画の如き女体を描く小学1年生がいてたまるか!」


 ワーオ見事な裸婦。ガッツリ記憶に焼き付けてるじゃんこの変態勇者。


「では小学1年生なるものはどのような絵を描くと言うのだ!」

「……仕方あるまい。余が手本を見せるのでマネするがいい。今回だけだからな?」


 さらさらさら、アカネお姉ちゃんが絵を描きます。


「この血だらけの怪物は何だ?」

「は?スイカを食べるカエデくんだろう?」

「……ではこちらの箱に突き刺され悲鳴をあげているのは」

「お風呂に入っている余達である!し、小学生の絵などこんなモノであろうが!」

「ふむ。おい魔王。ちょっと普通に描いてみろよ」

「……やだ!」


 絵ヘッッッタクソだなこの魔王。小学1年生でもここまで酷くはならないと思う。


「とにかく!余の絵を参考にして絵日記を描き直すがいい!」

「貴様の絵を参考に……?」

「何を嫌そうな顔をしてるんだ。一丁前にプライドが許さないみたいな」

「そうだが」

「うるさい!やれよいいから!」


 そんなこんなで1枚目の絵日記は無難に小学1年生っぽく……勇者の意地で大体小学5年生くらいの画力になりました。

 内容は魔王が3回ほどリテイクした後、結局お風呂のくだりそのものを削除して丸く収まりました。

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