第9話 しゅくだい いちにちめ えにっき
*
「というわけで宿題の時間だ。準備はいいか勇者よ」
「モグモグモグ……準備は万端だ。始めるとしよう、魔王よ」
食後のスイカを頬張りながら返事をする
「して、何から始めるつもりだお前は」
「絵日記だ。1日の出来事をこの用紙にまとめる必要がある」
「書く内容は決まっているのか?」
スイカの皮をお皿に置いた
「ふふふふふ、はーっはっは!そこで見ているがいい魔王!我が衝撃と困惑と涙と波乱に満ちた激動の1日、その回顧録を!」
「あ、うん。見てるから静かにしてくれ。おばあちゃんが来たらどうする」
「貴様何故おばあちゃん達の前ではアカネお姉ちゃんになるんだ」
「……お前とは違い余は頭の中にこの娘の声が聞こえる。会話が出来るのだ」
「何っ、してアカネお姉ちゃんは何と?」
「「アタシの身体使ってそのダッサイ喋り方してみなさい?アンタのトラウマ一生頭の中で擦ってあげる」、と」
アカネお姉ちゃん怖ーい!大学生になってからは猫かぶってるけど、元ヤンだもんね!
「魔王にトラウマ?あるのか?」
「余だって65年は生きてたんだぞ。あるだろ思い出したくもない記憶の一つや二つ」
「そ、そうか。あの魔王にそんな弱みが」
「お前に話すコトはないだろうがな。ほら早く絵日記やれ」
さあ、今日は絵日記1枚目を書くみたい。
上手に書けるかな?
「それもそうだ。では早速!」
「……ふむ。記憶の共有はせずとも日本語は読めて話せて書けるのだな。何とも不思議なものだが……」
*
「完成だー!」
「……」
やったね完成だ!えーとなになに?
『めがみ がつ|げるうんめいの ひにち|ぎるおばあちゃんとのほう ようび|っくり でんき|
アカネおねえちゃんといっしょにおふろにはいった。スイカだった。スイカはおいしい。すごいよかった』
「バカヤロウ」
「バカヤロウとは何だバカヤロウとは」
バカヤロウだよ
「まず何月何日何曜日と天気の欄にギチギチに日記を詰めるな。穴埋めじゃないから」
「やはり正解ではなかったか。我も違和感あったからな」
「いやまあ、『女神が告げる運命の日に契るおばあちゃんとの抱擁』までは正解だったかもしれない」
不正解だよ
「最後の『びっくりでんき』は何だ」
「そこはやはり『て』を『て』のまま活かさなくてはダメだったか……」
『びっくりてんき』でも『びっくりでんき』でも意味不明でしょうがよ
「で、正解は?」
「この世界にも日付の概念がある。今日は8月25日だからそう書いておけばいい。また、曜日というものもあって──」
凄い真面目じゃん魔王も。血の繋がりを感じるとか言ったら怒られそうだから言わないけど。
「なるほどなるほど。説明がわかりやすくて助かる。認めたくはないが、おばあちゃんの血だな」
「ああ、まったくもって腹立たしいが。おばあちゃんの血のおかげで物分かりがよくて助かる」
この2人おばあちゃんを中心に世界を回してるから何とかなったね。
「次、内容。6歳の自覚はあるか?」
「事実しか書いていないぞ。お姉ちゃんとお風呂に入ったことと、スイカが美味しかったこと」
「じゃあ順番を逆にしてくれるか。これだと何かな……」
「うん?まあわかった」
ということでお直ししたものがコチラ。
『8 がつ|25 にち|げつ ようび|はれ てんき|
スイカおいしかった。スイカさいこう。アカネおねえちゃんとおふろにはいった。むしゃぶりつきたい』
「欲望が文面から隠しきれていないぞこのムッツリ勇者がよ!!!」
「なん、何だというのだ!スイカにむしゃぶりつきたいだけだろうがよ我はよ!」
6歳の絵日記ではないかな〜
「今から余が言う通りに直せ!小学1年生らしさがまるで出てない!というかその最たるモノがこの絵である!」
「何!?絵には自信があったのだが!?」
「絵日記に絵画の如き女体を描く小学1年生がいてたまるか!」
ワーオ見事な裸婦。ガッツリ記憶に焼き付けてるじゃんこの変態勇者。
「では小学1年生なるものはどのような絵を描くと言うのだ!」
「……仕方あるまい。余が手本を見せるのでマネするがいい。今回だけだからな?」
さらさらさら、アカネお姉ちゃんが絵を描きます。
「この血だらけの怪物は何だ?」
「は?スイカを食べるカエデくんだろう?」
「……ではこちらの箱に突き刺され悲鳴をあげているのは」
「お風呂に入っている余達である!し、小学生の絵などこんなモノであろうが!」
「ふむ。おい魔王。ちょっと普通に描いてみろよ」
「……やだ!」
絵ヘッッッタクソだなこの魔王。小学1年生でもここまで酷くはならないと思う。
「とにかく!余の絵を参考にして絵日記を描き直すがいい!」
「貴様の絵を参考に……?」
「何を嫌そうな顔をしてるんだ。一丁前にプライドが許さないみたいな」
「そうだが」
「うるさい!やれよいいから!」
そんなこんなで1枚目の絵日記は無難に小学1年生っぽく……勇者の意地で大体小学5年生くらいの画力になりました。
内容は魔王が3回ほどリテイクした後、結局お風呂のくだりそのものを削除して丸く収まりました。
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