第6話 手料理
「家事は私がするからね」
「いや、流石に俺も何かするぞ?」
「良いの。私がやりたいから。それにダーリンは今日はかなり疲れたでしょ?ゆっくり休んで」
「でも…」
「もうっ、私の事を気にしてくれるのは嬉しいけど、私の言う事は聞いて欲しいな。『ソファに座ってゆっくり休んで』」
「この感覚またか…」
美緒の命令に身体が勝手に動く。
いかにも高そうなソファに無理やり座らされた。
「そういえば美緒」
「なあにダーリン」
「今日は、ここに泊まるんだよな?」
「泊まるんじゃなくて住むだよ」
「…住むのはいいけど、着替えはどうするんだ?」
「そう言うと思って、クローゼットにダーリンが着る服置いてあるよ。ちゃんとダーリンが好きなの買ったんだから」
「…ありがとう」
この感じ、サイズもぴったりなのだろうなぁ。
「サイズはダーリンがいつも着ている感じのやつで、すこし大きめのを買ってるからね♡」
本当に俺の好みを知っているらしい。
「じゃあ私は今日の晩御飯作るから、じっとしててね」
「分かったよ」
「うんっ!!素直なダーリン好きだよ♡」
美緒はキッチンに向かい、晩御飯の準備を始めた。
その間俺は、美緒の命令によって体の自由が利かない状態だ。
というか、この家すべてが広い。
解放感どころの騒ぎじゃねぇよ。
なんだよ、ペントハウスって。
こいつのお金ってどこから来てんだよ…。
「ダーリン」
「ん?」
「こいつじゃなくて、美緒って呼んでね♡」
俺の思考が分かるんだった…。
「それに、このお金は私のお金だよ?」
「は?」
なに、バイトでもしてんの?
いや、バイト程度でこんな家を買うなんて無理だ。
どんな割の良いバイトだ?
「それでね、どうやってこのペントハウスを買ったかと言うとね。宝くじが当たったから買ったんだよね」
「は?」
宝くじ…?
確かに購入なら未成年でもできる。
それでもだ。
こんなところを買える金額を当選するって事だよな…。
「宝くじの1等が2本出たの」
「は?」
「えへっ♡」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
1等が2本!?
それって何億だっ!?
「1等が5億でそれが2本だから10億だね」
「…」
やばい。
言葉が出ない。
1等が2本当たる確率ってなんだ?
1本当たるだけでも隕石がどうとか言われてるよな。
それが2本?
訳が分からん。
「私のお母さんもよく1等が当たってるんだよねぇ」
「はっ?」
「私の家系って運だけは凄く良いんだよ」
「運でどうこうなるものじゃないだろ…」
「まぁ10億中の1億は資産運用とかして、いろんなとこに投資して今では宝くじが当たった金額よりも何倍も多くなってるよ」
こいつ運だけで金持ちになってるのか…。
「あぁ~。またこいつって言った」
「言ってはねぇよ」
「もうっ。次言ったら、包丁で刺しちゃうよ♡」
「…美緒って吸血鬼だよな?」
「今更~?まだ信じてないの?」
「いや、そういう事じゃなくて。吸血鬼なのに、文明の利器を使って脅すって不思議だなって思って」
「脅すなんてひど~い。それに、日本の刃物ってレベル高いんだよ?吸血鬼でも使いたくなるくらい」
「包丁を作ってる職人に謝れよ…」
こんな事に使わせるために包丁を作ってねぇだろ…。
「美緒の親って仕事何してんの?吸血鬼もなんか定職就いてるんだろ?」
「お母さんは、ファッションデザイナーでお父さんはその秘書をやってるよ?」
「デザイナーやってんのか。凄いな」
「でしょ~。だから基本的に海外で生活してるよ。今日は、たまたま帰って来てたからダーリンの事紹介したの」
「なるほど」
そりゃああんな急展開なるわけだ。
「あっ、もうすぐできるよ」
「思ったより早いな」
「うん、これでも家事は好きなの。作り置きとかもするし、ダーリンのために色んなもの作れるよ」
「そ、そうか」
美緒は、手際よく皿の準備を始める。
「このくらい手伝わせろ」
「えぇ~」
「ここで一緒に生活する以上、共同作業だ。俺の負担まで美緒に押し付けられない」
「んー。ダーリンが言うなら仕方ない。それに共同作業って響き良いね♡」
「はぁ、それで俺は皿を出せばいいんだよな?」
「うん!」
美緒の指示に従い、皿の準備をする。
食器棚から皿を出すのだが、多分どれも高級品なのだろう。
陶器なんて俺には全く分からんが、ここにあるものだ。
100均なわけない。
「それで、ご飯は何を作ったんだ?」
「えっとね、カツオのたたきに、レバ刺し、小松菜のスープとほうれん草のおひたしだよ」
居酒屋のメニューなのか…?
「むぅ、これでも手料理だよ」
「あ、ああ。ありがとう」
というか、女子の手料理だもんな。
色々あり過ぎて忘れかけてたけど、美緒って美人で料理とか家事も出来るって非の打ち所がないな。
「照れる…」
「ああ、すまん」
「出来れば、口に出して欲しいな」
「それはまた今度」
「ちぇ~」
盛り付けを終え、ダイニングテーブルに料理を置く。
マジですげぇな、色々と。
「よしっ、じゃあ準備は出来たね」
「ああ」
「それじゃ、食べよ」
「いただきます」
俺は、美緒が作った料理を口に入れる。
「上手い」
「本当?嬉しい!!」
「ああ、めちゃくちゃ上手いぞ」
美緒の手料理は、ものすごく美味かった。
料理が得意なのが良く分かる。
手際が良いとは思ったが、味のレベルも高い。
「良かったぁ。ダーリンの好きな味付けにはしたけど、自信がなかったから」
そうだった。
俺の事を調べ尽くしてたんだった。
それからは、美緒の手料理を味わい、完食する。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「美味しかったよ。ありがとう」
「いえいえ。ダーリンに私が作った料理を食べてくれるなんて嬉しすぎることだから」
美緒も吸血鬼とは言え、女の子だなと思った。
ほんの少しの事で一喜一憂して、1人の恋をしている女の子。
そんな風に思えた。
「ふぁぁぁぁ」
「眠そうだね。ダーリン」
「ああ、美緒の料理を食べたら眠くなっちゃった」
「ふふっ、可愛いです」
あくびが出てしまった。
今日はいろいろあった。
放課後に学校の屋上に呼び出され、そのまま告白に吸血、美緒の両親に会って、同棲を始める。
現実離れしたことばかりだ。
瑠衣さんの言っていることも分かってきた。
常識を捨てる事。
これが今後の生活を受け入れるために必要なことなのだろう。
「寝ても良いですよ、ダーリン」
「あ、ああ…」
美緒の言葉を聞くと、睡魔が一気に襲って来た。
そうして俺は、眠りについた。
「ふふっ、ようやく手に入った。私の私だけのダーリン。誰にも渡さないぞ♡」
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