第5話 ペントハウス
美緒の両親に挨拶を終え、俺は今、車の後部座席に座っていた。
もちろん隣には美緒もいる。
これから、俺と美緒が住む家に向かうらしい。
運転してくれるのは、美緒の家にいたメイドさんだった。
「あの…」
「どうしたのでしょうか?」
「貴方のお名前とか伺っても?」
「あら宜しいのでしょうか?」
「えっと、何がですか?」
「お嬢さまの目の前で他の女と会話をしてもよろしいのかなと思いまして」
「えっ?」
メイドさんの言葉を聞き、美緒の方を見る。
「ねぇ、浮気?」
「えっ?」
「私以外の女の事知りたいの?」
「い、いや名前が分からないと不便ではと思っただけでして…」
「つまり、私以外の女の名前をこれからも呼ぶことがあると?」
「そうは言ってないけど…」
「これはお仕置きが必要かな?」
あっ、やばい。
そう思った時には遅かった。
美緒の手には、カッターが握られており、その手が振り下ろされていた。
「あはっ♡」
「うっ!!」
俺にはカッターは刺さってない。
振り下ろされたカッターは、美緒の太ももに刺さっていた。
「や、やめろ」
「私の痛み分かった?」
「ああ…分かったよ。でもな、お前が傷をつける必要はねぇだろ?」
「何を言っているの?私、吸血鬼だよ?これくらいの傷なんてすぐに治るんだから」
「そういうことじゃねぇよ。自傷行為をするなって言ってんだよ」
「それならダーリンが私を傷つけないようにして欲しいな♡」
「…分かったよ」
「うんっ!!」
痛い。
ものすごく痛い。
しかし、叫ぶほどの気力もない。
痛みに耐えることで精いっぱいだ。
「ふふっ、素敵だよダーリン♡」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
痛みが引いてきたタイミングで車が停まった。
「着きました」
「うん、ありがとう」
「ありがとうございました」
俺と美緒は車を降りる。
「それでは、私はこれで」
メイドさんは、来た道を引き返し、美緒の家に戻ったのだろう。
それよりも、目の前にある建物は高級マンションだった。
「す、すげぇな」
「まあね、ほら行こ」
「ああ」
美緒に連れられ、マンションのエントランスに入る。
「すげぇな」
「そう?私たちが住むんだから、このくらいはしてもらわなきゃ」
「あ、ああ…」
いや高級ホテルかよ…。
どうなってんだよ。
というか、ここ家賃どのくらいするんだ?
「家賃のことなら大丈夫だよ」
「え?」
「私とダーリンの家なんだよ?賃貸で済ませる訳ないじゃん」
「ってことは?」
「買ったよ」
「美緒ってえげつない金持ちなのか?」
「由緒あるお家なの」
吸血鬼やべぇ…。
「エレベーター来たよ。乗ろ?」
「ああ」
美緒に引き連れられ、エレベーターに乗り込む。
何階に行くのだろうと思い、美緒の様子を見ていた。
すると、美緒が押したボタンは10階。
このマンションの最上階だった。
「ま、まさかペントハウス?」
「そうだけど、良く知ってるね」
「ドラマとかでしか見た事無いわ」
「そうなんだね。一応、バルコニーにはプールとジャグジーバスもあるけど良かった?」
「プール?」
「うん、水着なんてダーリンにしか見せたくないから。もし、ダーリンが泳ぎたいって思うかもって思って一緒に買ったの」
「えぇ…」
何から突っ込むべきだろうか。
「あっ、清掃の人もいらっしゃるので大丈夫ですよ。もちろん、私が個人的に雇ったメイドだから安心してね」
「そ、そうか」
そこは気にしてねぇよ!!
「まあ、色々言いたい事はあると思うけど、とりあえず、部屋に行こ」
「分かったよ」
エレベーターは10階に着く。
「楽しみだね」
「そうだな」
エレベーターから出ると、綺麗な廊下が続いていた。
「このフロアは全部私たちの家だから、周りを気にすることなく夜の営みが出来るよ」
「もう何でもいいや」
吸血鬼だろうが金持ちだろうが、もう知るか。
「じゃ開けるよ」
「良いよ」
美緒は扉に鍵を挿し、重々しい扉を開く。
「広いな」
「当たり前でしょ。私たちとこれから生まれてくる家族のためなんだから」
「そうなんだ」
「あっ、でもまだ子どもはいらないよ。せっかく付き合えたんだもん。2人きりを楽しみたいな」
「わかった」
「でもでも、セックスはしたいな」
「お前ってそういうキャラだったか?」
美緒は、クラスにいる時はとても物静かなイメージだった。
クールな立ち振る舞いをしている彼女が、吸血鬼で欲求に正直だとは俺も今朝まで知らなかった。
「本当の私を見せるのはダーリンだけだよ?」
「そうかい」
「じゃあダーリンは、休んでて」
「休んでてって言われてもな…」
家具が高級なものばかりで遠慮してしまう。
そんなに家具には詳しくないが、ここにあるものは見れば分かる。
高いやつだ。
「私が買ったものなんだから気を遣わなくて良いのに」
「いや、俺はまだ美緒になにもしていないんだぞ?それなのに、こんな高級マンションとかついていけない。めちゃくちゃ申し訳ないわ」
「嫌だった…?」
「嫌とかじゃなくてな。どうしてここまで俺みたいなやつにそこまでできるんだ?」
「だって、私はダーリンのことが好きだから。ダーリンの事は、一目見た時には好きだったの。ダーリンの趣味だったり、好きな異性のタイプも知ってるよ?ダーリンのことなら何でも知ってる」
「いや、それは良いだけど。あまり会話もしていないのに、ここまで好きでいてくれる実感がなくて」
「ふふっ、そういう謙虚な所好きだよ。でもね、好きになるなんてそんなもので良いんだよ。あとは、そこからどうやって愛していくかなんだから」
「そういうものなのか?」
「そういうものだよ。というか、もう別れるとか聞けないから。私の眷属であり、伴侶なんだからね」
「そうだった」
もう、こいつがヤンデレっぽいとか吸血鬼とかどうでもいいのだろう。
俺は、美緒と一生を共にする。
そういうことなのだろう。
「じゃあこれから末永くよろしくねダーリン♡」
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