第4話 家族

コンコンコン…。

美緒は食堂の扉をノックをする。


「入るよー」

「失礼します」


開かれた扉の先には、長い机があった。

これって…映画とかで見る奴だよ…。

謎に長い机。

これって不便じゃねぇの…?

そんな事を考えていると2人の男女が目に入る。

1人は、黒髪の男性。

もう1人は、金髪の女性。


「お父さん、お母さん。報告があります」


美緒は、父親と母親と思われる2人に言った。


「この人の子供が欲しい!!」

「ちょっと飛躍しすぎでは!?」


流石に黙って聞くことはできなかった。

外堀埋めてるというか俺自身が埋められかねない。


「「いいよ」」

「やった!」

「待て待て待て!!」


みんな何を言っているんだ!?


「ようやく美緒も眷属見つけてきたのね。心配だったわよ」

「そうだな。莉緒は小学生の時には俺を眷属にしてたもんな」

「だって瑠衣の首筋が美味しそうだったから」

「お前は本当に変わらないなぁ」


莉緒りおと呼ばれる女性と瑠衣るいと呼ばれる男性。

この2人も吸血鬼と眷属の関係なのか…。


「もうっ!!2人ともダーリンが困ってるでしょ」

「あらあらごめんね」

「すまないな」

「あっいえ…」


マジで帰りてぇ。

この空間に耐えられない。

胃に穴が開くどころか、破裂しそう。


「改めまして、美緒の母親の白神莉緒です。なんとなく気づいていると思うけど、私も吸血鬼よ」

「そして、俺が美緒の父親の白神瑠衣です。莉緒の眷属で、元人間です」

「あっ、はい。えっと、黒神礼です。先ほど美緒の眷属になりました」


た、耐えられねぇ…。

俺ってコミュ障だったのか…。


「それでね、ダーリンとはもう主従関係なの!!私の夫なの!!彼の血、ご馳走になったの!!」

「あらあら、良かったわね」


莉緒さんは、美緒に優しく微笑む。

対して、瑠衣さんは…。


「娘をよろしく頼む」


頼まれちゃったよ…。

怖ぇよ…。

断れねぇよ。


「じゃあ美緒、彼と一緒に住むの?」

「ふぇ?」

「もちろん!!」

「ふぇぇぇ?」


一緒に住む…?

何を言っているんだ?


「それなら準備してきなさい。その間、彼とお話してるから」

「うん!!分かった!!」


莉緒さんに促され、美緒は部屋を出ていった。


「それで礼君だったわよね?」

「は、はい!!」

「美緒に血を吸われた感覚どうだった?」

「えっと…なんかあっという間のことで、何が何だか」

「あらあら、女の子の初めてよ。ちゃんと焼き付けなさい」

「す、すみません!!」


ものすごい勢いで俺は頭を下げた。


「莉緒、礼君が怖がってるから」

「あら、ごめんなさい。美緒の大事な人なのに」

「い、いえ…」

「それで礼君。君は美緒で良いのかい?。おおかた、よく分からない内に眷属にされたのだろ?」

「ま、まあ」

「全く…。莉緒に似てあの子は…」

「あら瑠衣。私に文句がお有りで?」

「文句はないよ。でも、いつも急すぎるんだよ」

「サプライズの方が興奮するでしょ?」

「興奮しなくて良いんだよ。というか、吸血もいつも突然するし…」

「美味しそうな首筋をしている瑠衣が悪いわよ」

「はぁ…。まあいい。それで礼君。これから大変だろうけど、少しずつ慣れて行ってくれ」

「分かりました…」


瑠衣さんは、話の分かる人なのだろう。

俺の唯一の救いなのかもしれん。


「何かあったら、俺に連絡してきて」

「はい」


瑠衣さんは、連絡先のメモを渡してくれた。


「慣れるためにもアドバイスを言っておくと、常識は捨てること。そして満月の日は、休めないと思っておくこと」

「は、はぁ…」


なんか不安になってきた…。


「準備してきたよ!!」

「あら、ちょうど良いタイミングね」


美緒がキャリーケースを持って戻ってきた。


「じゃあ挨拶も終えたから、早速私たちの愛の巣に行こ!!」

「えっと…私たちの愛の巣って…?」

「もうっ!!ダーリンったら、私たち一緒に住むんだよ?」

「本気なの?」

「当たり前でしょ!!私1人で暮らさせるの?」


次から次へと情報を与えられて、パンクしそう。


「礼君って実家住まいかしら?」

「そうですけど」

「じゃあ、早速退寮しておいで。貴方のご両親ともお話したいのだけど、連絡先教えてもらえるかしら?」

「あっ、はい」


莉緒さんに、母さんの連絡先を教えた。


「一応、先に礼君から説明してもらっても良いかしら?。突然、私から説明しても、ご両親を混乱させかねないから」

「わ、分かりました」


俺から説明しても混乱させてしまうわ…。

そんなことを思ってても口に出せないが、とりあえず連絡しよう。

スマホを取り出し、母さんに電話をかける。

普段ならチャットで良いのだが、こんなことチャットで説明するのも難しい。


『プルルル…』


電話をかけ、数コールすると繋がった。


「もしもし…」

『もしもし、どうしたの?』

「えっと…」


な、何から説明すれば良いんだ!?


「俺、彼女できた」

『そうなんだ、というか流石にそういうことは逐一報告しなくていいよ?節度を守って付き合ったら良いんだから』

「いや、むしろここからが本題なんだけど」

『どうしたの、改まって。もしかして孕ませたの?』

「流石にそこまではしてないから!!」

『それなら何なの?』

「えっと、彼女と同棲しても良い?」

『は?』

「彼女と同棲しても良いかなぁって」

『どこに?』

「彼女の家?」

『あんた、とうとう本物の不良になったの?』

「いや、説明することがもっとたくさんあるんだけど…。まあいいや、今彼女の家に来てるんだよね。というか、目の前にご両親がいらっしゃる…」

『結婚の挨拶でもしてるの?』

「当たらずとも遠からず」

『は?』

「それで、そして母さんと話したいっておっしゃってるから代わってもいい?」

『え、ええ』


俺は、莉緒さんにスマホを渡す。


「お電話代わりました。礼君の彼女である白神美緒の母、白神莉緒と申します。突然のお電話申し訳ございません」

『い、いえ。礼の母の黒神沙紀くろかみさきです』

「沙紀さんですね。今日は、礼君の事で連絡させていただきました」

『礼が何かしたのでしょうか…?』

「沙紀さんが良ければなのですが、礼君を私の娘と同棲させたいのですが、いかがでしょうか?」

『えっと…突然の事でまだ状況を理解していないのですが…』

「そうですね、ではお時間がある時に一度お会いして話すことはできないでしょうか?」

『それなら問題ありませんけど…』

「ありがとうございます。では、私からまた連絡をと思うのですが、今日のご予定はございますでしょうか?」

『いえ、何もないです』

「でしたら、また後ほどこちらから連絡さしあげます」

『はい、ご丁寧にありがとうございます』

「こちらこそ突然の電話に対応していただき、ありがとうございました。礼君に返しますね」


莉緒さんは、俺にスマホを渡す。


「ありがとうね」

「は、はい」


莉緒さんからスマホを受け取った俺は、通話中の電話を続ける。


「ということなんだよ」

『何か分からないけど、分かったわ。それなら今日はどうするの?』

「えっと、どうしよ…」


今日は、一度家に帰るか考えた時、美緒が視界に入る。


「今日は、彼女の家にお邪魔するよ」

『そう、羽目を外しすぎないように』

「ああ」

『それなら白神さんに私からもお世話になりますって言っておいて貰える?』

「分かった」

『それならゆっくりしてきなさい』

「うん」

『それじゃあね』

「ああ、また」


俺はスマホの画面をタッチし、通話を終わらせる。


「えっと、母さんからもお世話になりますだそうで」

「それなら、美緒と一緒に過ごしてくれるのかしら?」

「一応、今日のとこはですね」

「そう、ありがとうね」

「え、ええ。どういたしまして」


莉緒さんからのお礼の言葉に戸惑った。

お礼を言われることなのだろうか。


「ねぇダーリン」

「ああ、すまん。ほったらかしにして」

「ううん、いいの。私の為に電話してくれたんでしょ?」

「まあ、そうなるのかな」

「ありがとうね」

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