第11話 雨の主

 それは木の上に居た。


 巨大な蛇のようなものが木から木へ、枝から枝へと移動しているのが見えた。


 その胴体にはムカデの足のように大小様々な人間の腕が無数に生えており、鳥肌が立つような悍ましさを放っている。


 『ヴァルロガンダ』

 ・エタレス草原の隠しダンジョンと共に誕生した生物の一体。

 ・高い知性を持ち、ダンジョン内の森林地帯を支配、守護している。

 ・天候と水を操る能力を持っている。


 ――なるほど、これは本当に駄目なやつだ。


 絶対に関わってはいけない、生物としての本能がそう叫んでいるのが分かる。


「――ッ!?」


 いきなり脳内に大量の情報を無理やり流し込まれ、大音量の酷いノイズが鳴り響いているような感覚に襲われ、激しい頭痛に膝が折れる。


 ――なんだなんだなんだ!?


 うずくまり、今にも割れそうな頭を抱えると地面にぽたぽたと何かが落ちるのが見えた。


 それが自分の鼻や目から垂れ落ちた血液だと気付き、咄嗟に能力を発動した。


 何が起きてるのか全く分からない。もしかしたらヴァルロガンダとかいうヤバいモンスターの攻撃なのか、それも分からない。


 カウントダウンが終了して能力が発動したことで出血は治まったが、脳内には依然としてノイズが鳴り響いている。


 あまりの激痛に身体が言うことを聞かず、立ち上がることもできない。


『…コレナラドウデショウ。伝ワッテイマスカ?』


 ――言葉?


 瞬間、今までの頭痛がまるで嘘だったかのように痛みが消えてなくなり、代わりに無機質な声が脳内に響いている。


『コノ言語デ問題ナイデスカ?問題ナケレバ何カ喋ッテミテクダサイ』


「あっ、だ、大丈夫だと…思います……」


 ――咄嗟に答えてしまった。


『ソウデスカ、ヨウヤクオ話ガデキソウデ良カッタデス』


 ヴァルロガンダは少し嬉しそうに言いながら、ゆっくりと巨体を動かしていた。

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