第10話 雨とともに訪れる

 頬に小さくて冷たい液体が落ちる感触を感じて目を覚ました。


 木々の枝葉の隙間から見える灰色の空に、落ちてきたものが雨粒だと気付くと、鉛のように重たい体を無理やり起こし、少しでも木の少ない場所、雨が多く通る場所を探して歩き出した。


 しかし、その必要は無かった。


 突如として雨は大雨と呼べる雨量に変わり、更に激しさを増していく。


 上を見上げて口を開けると、人生初の水分が口と喉を通って体内へと流れ込んでくる。


 正直、雨水の味はそれほど良くないが、全身を打つ天然のシャワーは心地よく、この世界に来て初めて幸福を感じた瞬間だった。


 ――だが、その幸福も長くは続かなかった。


 さっきまで灰色だった空はいつの間にか夜空のように黒く染まり、雨の激しさは増し続けた。


 上を見上げれば呼吸もできず、立っていられないほどの雨、もはや滝と呼ぶべき水量が地面に降り注いでいる。


 ――ここでは雨ですら死ぬ可能性があるのか…!?


 スライムから逃げて生き延びたのに、雨に降られて死んだなんて冗談でも笑えない。


 何とかしてこの雨をやり過ごさなければ――。


 ――突然、雨が止まった。


 まるで時間が止まったかのように、全ての雨粒が空中で静止している。


 何が起きているのか分からないが、頭の奥で何かが危険信号を鳴り響かせている。ここに居てはいけない、とにかくこの場から離れなければ、きっと命は無い。


 そう感じさせる何かが、すぐ近くに居る。

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