第9話 遭遇 ③
――息を切らして走っていた。
街のあちこちが燃えているおかげで、夜だというのに世界は随分と明るかった。
――あれ?何のために走ってるんだっけ?
「――!」
誰かの声が聞こえる。
「――…って!」
誰だろう、何故か懐かしいような気がする。
「走って!」
途切れかけた意識が覚醒する。
視界が色を取り戻し、切断された右腕と首は元に戻っている。
能力の発動が間に合ったことを瞬時に理解し、男は全速力で走り出した。
何か夢を見ていた気がするが、今はそれについて考えている暇はない。
木にぶつかり、足がもつれても止まることなく、必死に走り続けた――。
――それは一瞬の出来事だった。
まずは侵入者の腕を、次に首と思える部分を狙い、確実に切断した。
切断したはずなのだ。
しかし、こちらに背を向けて逃げている侵入者の身体にはいつの間にか腕が生え、首も元通りになっている。 そんな生物は初めて見た。
スライムは静かに驚愕しながら、自分の縄張りから出て行く奇妙な生物を見ていた。
……どれくらい走っただろうか、振り向いてもスライムの姿はない。
助かった、そんな安堵の気持ちを抱くと同時に全身から力が抜け、転けるように地面に倒れた。
「…ッは、ははは」
生きている、その嬉しさに思わず笑いがこぼれた。
しかし、その歓喜の感情はゆっくりと別の感情に塗り潰されていく。
足元から這い上がって来る寒気にも似た感情が体を震えさせ、心を蝕んだ。
――怖い。
その言葉が脳裏に浮かんだ途端、堰を切ったように涙が溢れて止まらなくなってしまった。
あんな生物が他にもいるのか、そんな環境で一人で生きていけるのか、不安と恐怖に押し潰されながら、男は静かに目を閉じた。
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