第8話 遭遇 ②

 スライムは自分の縄張りに侵入者が居ないか、今日もパトロールをしていた。


 液体の身体をゆっくりと転がしながら、触れた地面や植物から水分を少しずつ吸収する。そうしなければ、毎秒極少量ずつ蒸発していく自身の身体を保てないからだ。


 いつもと変わらない森の中で、見たことのない生物を発見した。


 その生物はこちらを観察しているのか、その場から動かない。


 敵意は感じられないが、そんなことはどうでもよかった。


 スライムはピタリと動きを止め、狙いを定める。


 縄張りに侵入者が居る。攻撃する理由はそれだけで十分だった。


 スライムは自身の身体の一部を射出。高速で飛行する液体は目に見えないほど薄い一枚の刃となって対象生物の体を分断した。


 攻撃の命中を確認したスライムは再度狙いを定め、第二射の準備を開始する。



 ――嫌だ、死にたくない!動け!動け!動け!!


 男は上手く力の入らない手足を必死に動かし、今にも手放してしまいそうな意識を必死に手繰り寄せた。


 カウントダウンは残り六秒、なんとか立ち上がることに成功し、ゆっくりと歩き出した。


 残り四秒、攻撃はまだ来ない。


 三秒、少しずつスライムとの距離が離れていく。


 二秒、もしかしたらこのまま逃げられるかも知れない。


 一秒、突然、視界が縦に一回転した――。


 スライムの放った水の刃が、男の首を切断したのだ。


 ――あ、れ?


 回転しながら落下していく男の頭部。


 木々の隙間から青い空が見えた。


 次に、糸が切れた人形のように倒れていく頭の無い自分の体が見えた。


 それから地面が見え、また青い空が見えた。


 視界が急速に黒く染まっていく。


 ――ゼロ、カウントダウンは静かに終了した。

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