第7話 遭遇 ①

 上から落ちる前に見た湖を目指して森の中を進んでいると、”それ”は現れた。


 十メートルほど先、水の塊のようなものが視界の右から左へ、木と木の間をゆっくりと転がるように移動している。


 足を止め、もしかしてと思いその物体を観察していると、脳内に情報が流れ込んで来た。


 『スライム』

 ・液体の身体を持つモンスター。

 ・縄張り意識が非常に強い。

 ・食べた物や環境によって液体の性質が変化する。


 ――やはりそうだ。


 前世の知識によれば、スライムと言えば下級モンスターの定番だ。中にはとんでもない化け物じみた強さを持つものも居るが、それはどちらかと言えば少数派だろう。


 初めて見る異世界のモンスターに少し興奮気味になるが、油断はできない。


 仮に相手が下級モンスターの代表であっても、こちらは完全に丸腰の普通の人間で、能力もそこまで戦闘向きとは言えない。


 ここはスライムがどこかへ行くまで大人しくしていよう、そんなことを考えていると、スライムの動きがピタリと止まった。


 何故スライムの動きが急に止まったのか、それがこちらを認識したからだと気付いた瞬間、スライムから目に見えない速度で何かが発射され、それはいともたやすく右腕を肩口から切り飛ばした。


 ――何が起きたのか分からなかった。


 体から分離した右腕が地面に落ち、白いシャツが徐々に赤く染まっていくのを見た。


「がっ、ぁあああああああああああああ!!!!」


 耐え難い激痛。全身から吹き出す汗と足元から這い上がって来る寒気、激しい吐き気に襲われながら、頭の中で何度も”発動”と唱え続けた。


 頭の中で十秒のカウントダウンが始まると同時に体を反転、スライムに背を向けて走り出すが、踏み出した足に力が入らず、膝から崩れ落ちるようにして地面に体が叩きつけられてしまった。


 カウントダウンは残り八秒、このままスライムの攻撃をもう一度食らえば能力が発動する前に高確率で死ぬ。


 その後、もし能力で生き返れたとしても、直後に攻撃を食らってしまえば、今度は能力の発動もできずに死んでしまうかも知れない。


 今すぐ起き上がって逃げなければ、しかし、大量出血のせいで手足に力が入らない。


 ――まずい、これは死んだ……。

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