第6話 覚悟を決めて

 しばらく絶景を眺めた後、自分が現在立っている場所を認識し、思わず後ずさり尻もちをついてしまった。


 そこは断崖絶壁の中腹だった。


 降りられるような道も無く、かといって登れるような場所もない。


 地面までの高さは百メートル以上あるように思える。不安や恐怖で余計に高く感じるだけかも知れないが、人間が落ちれば間違いなく即死するレベルの高さなのは間違いない。


 所謂、詰みと言われるような状況だったが、今回は違った。違うことに気が付いてしまった。


 一つだけ、この状況をなんとかする方法を思いついてしまったのだ。


 それはとても簡単で、単純なものだ。


 飛び降りてから、地面に激突する前に能力を発動すれば良い。どれだけ身体が悲惨なことになっても、一分前の綺麗な状態に戻すことができる。万事解決だ。


 唯一の懸念は、落下によって即死した場合、身体と一緒に命も元通りになるのかということだ。


 しかし残念ながら、いくら考えたところで、それ以外の選択肢は何も思い浮かばなかった。


 だから僕は覚悟を決めて、震える足を無理やり動かし、空中へと一歩踏み出した。


 ――そして気付いた時には、森の中に居た。


 風に揺れる枝葉は太陽の光を反射してキラキラと輝き、上を見上げれば青い空と、さっきまで自分が立っていたであろう高い壁が見える。


 覚悟を決めて飛び降り、地面に接触する前に能力を発動したのは覚えている。しかし、そこから先の記憶が無い。


 恐らく、足元の地面とジーパンにできた赤黒いシミから、即死の可能性を少しでも減らすために足から着地したことが分かる。そして、その恐怖と激痛によって精神を壊されないように自己の防衛本能が意識と記憶を切り離したのだろう。


 結局即死したのかどうか分からないから、自分が死んだ後に能力で生き返ることが可能なのかは不明のままだが、まぁ成功したのならとりあえずは良しとしよう。

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