第3話 与えられた能力

 草原を歩きながら、男は自分が持ち合わせている数少ない情報を整理した。


 まず分かっていること、自分は男で、身体は少し鍛えてある。服装は白い長袖のシャツにジーパン、履き慣れたスニーカー。


 それから、前世の記憶は無いのに知識は持っていること。自分の着ている服や靴の種類やメーカーが分かったし、今もこうして普通に思考できているのが証拠だ。


 そしてもう一つ、どうやら転生した僕には能力があるようだ。


 能力説明

 ・自分の身体を一分前と同じ状態にすることができます。

 ・能力は発動までに十秒を必要とします。

 ・能力発動後、三十秒間は能力を再発動することはできません。

 ・能力発動による代償は存在しません。

 発動方法

 ・脳内、または口頭で『発動』と唱えてください。発動方法は変更することが可能です。


 色々と考えている最中、いきなり頭の中に情報が流れ込んで来た時は驚きすぎて声も出なかったが、これが僕に与えられた能力らしい。


 恐らくは自分にだけ使える回復系の能力だと思う。怪我をしてもすぐに能力を発動できれば、怪我をする前の身体に戻るような感じだろう。


 気になるのは、”能力発動による代償”だ。


 わざわざ代償が無いことを記載しているのだから、こういった能力は他にも存在するのだろう。能力の強さによって代償の有無が決まるのか完全にランダムなのかは分からないが、ここはひとまずラッキーだと思うことにしよう。


 そう言えば、あの白い空間で聞こえた声は、”貴方一人にかけている時間は無い”みたいなことを言っていた気がする。なら、僕の他にも転生者が居る可能性はかなり高い。


 もしそうなら、当面の目標は”他の転生者を探す”で良さそうだ。


 それから僕は代償が無いのを良いことに、能力を逐次発動させながら草原を進んだ。これで少しは体力を長持ちさせられるだろうと考えたのだ。


 能力を発動すると頭の中で十秒のカウントダウンが始まり、その後三十秒のカウントダウンが始まる。


 身体の変化を自覚することはできなかったが、太陽が沈み、また昇って来るまで休まずに歩き続けられたのは能力のおかげだろう。


 しかし、どれだけ歩いても草原は果てしなく続いていたのだった――。

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