第4話 後片付け

さしあたり、やらなければならないことを彼は考えた。

喫緊の課題は、長岡の遺体をどうするかだ。


例えば、遠くに持ち運んで捨てたり、特殊な薬品で溶かしたりするようなことは、上手くいかないだろう。

持ち運べば誰かに見られる可能性があり、珍しい物を購入すればそこから足がつくかもしれない。


日本の警察は非常に優秀で、状態に変化が現れると必ず尻尾を掴まれる。

シンプルなやり方が一番だと、彼は思った。

そもそも彼は、無限に長岡を隠す気はなかった。


まず彼は、必要なものを検討することにした。

長岡のパソコンの画面を開いて眺めていると、クリップされているメモが目に入った。

ランダムな文字列が書かれている。長岡がいつも使うパスワードなのだろう。


某大手ショッピングサイトの画面を開くと、ログインしたままだった。

そこから、彼は欲しいものをカートに入れていく。

あまり大きなものを大量に買うと目立つので、必要なものだけを選ぶ。

何よりいま必要なものは、冷凍庫だ。

家庭用200リットルの冷凍庫があったので発注する。配送まで2日かかると書かれていた。

いまは冷凍食品需要が高まっているので、冷凍庫を買うくらいは珍しくはないだろう。


彼はリビングに戻り、大きな冷蔵庫を開いた。

中身をすべてとりだし、仕切りの板も取り外す。人ひとりくらいは入れそうな空間になった。


彼はソファに横たわる長岡の遺体を背負おうとしたが、長岡のズボンがぐっしょりとしていることに気づいた。出血はしていないが、この様子だと事切れているだろうことは明らかだった。

そのまま、長岡を風呂場に運び、服を脱がせてシャワーで洗い流すことにした。


不思議なことに、服を脱がせると長岡は全く違う人間だと彼は実感した。

同じように華奢だが、つくりが全然違う。似ているのは顔だけらしい。


彼は念のため遺体に新しい服を着せてから、ごみ袋で覆うようにかぶせてから、冷蔵庫に押し入れた。

あとは、冷凍庫が届いたときに、入れ替えるだけだ。

目下の問題はこれで片付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ドッペルゲンガーの祝祭 はみびとノベルズ @hamibito_novels

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ