エピローグ

第46話 スタンド・バイ・ミー

高坂こうさか朋也ともや】の葬式の間中、僕はあの夏の出来事を思い出していた。


 朋也がここにいない胸の痛みを覚えながらも、不思議と涙は出なかった。それほどに、あの少年だった夏の日々は、今もなおくるおしく胸を焦がし、まばゆい光を放って輝き、明るい火花を散らし、強烈にきらめいていた。


 僕達はそれぞれ別の道を歩み、何年も会っていなかった。それでも、僕達は繋がっていた。


 ―――――心で。


 僕の人生の中で、あんなにも濃ゆく熱い日々は後にも先にもあの時だけなんだと思う。


 葬式の後、僕達三人は朋也の母親に呼ばれた。


 朋也の母親は朋也が高校に入ってから再婚していたそうで、全く聞き覚えのない姓に変わっていた。しかし、朋也の祖父の葬式をきっかけに連絡を再開し、時々会っていたそうだ。母親も、目元が朋也によく似た妹らしき綺麗な女性も、葬式の間中ずっと泣いていた。きっと関係は修復出来ていたのだろう。朋也はいい奴だし、僕達の中で最初に夢を叶えた朋也は、今や子供達が憧れる英雄ヒーローだ。朋也の葬式には球界関係者だけでなく、各方面からいろいろな人が押し寄せた。


「これ、朋也の物なんです。ここに写っているのは皆さんですよね?朋也あの子の一番辛かった時に、朋也あの子のそばで支えて下さって、本当に感謝しています」


 目を赤くした母親が、朋也の物だというスマホを見せた。


「あぁ…」


 …あの日だ。


 そのスマホの待ち受けには、のどかな初夏の農家を背景に、鶏達に囲まれて、弾けるように笑う少年四人が写っていた。


 大輝と悠真は笑った。

 知広も笑った。

 笑うしかなかった。


 朋也。

 君のスマホの待ち受けは【僕ら】なのか。


 …そうさ。僕らは変わらない。永遠に。


 あの日、僕らは君のそばにいた。

 まぶしい夏の光と共に。



 <了>

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