第7話 廃校のデッドマン

 その後、朋也は昨夜、祖父の世話の合間にスマホでGoogle検索して、新たに判明したことを話してくれた。それは納得できると共にひどく胸を騒がせる内容だった。


「浦川と校長、教頭には何らかの繋がりがあると思って調べてみた。校長は今年転勤してきたばかりだし、浦川が日善ひよし中に来たのは俺達の入学した一昨年。教頭になる前からいる吉岡はまぁまぁ長いらしいけど…」


 公立教職員の人事異動はインターネットで簡単に検索できるらしい。さかのぼって調べるうちに、五年前に掲載された人事異動がヒットした。やはり、あの三人は繋がっていた。


「三人とも岩城いわき中学校から他所に転勤している。ま、閉校になったから、岩城中にいた全職員が出てるんだけどな」


「閉校って?何があった?」


 疑問に思ったらしい大輝が尋ねると、朋也はスマホを数回タップして、数年前のニュース映像を見せながら話し始めた。


「住民が減って子供もいなくなった。それで、瑞城みずき町とその隣の岩見いわみ町が志都和しずわ市に統合されたのが理由。それに伴って学校も志都和市内に学区変更された。特に何かあったわけじゃなさそう」


 岩城中学校のある瑞城町は県北部にある山に囲まれた過疎地で、高齢化が進み、所有者のいなくなった田畑や、手入れされなくなった山が荒廃していることが深刻な問題となっているらしい。何年か前には集中豪雨による土砂災害もあり、最近では山を下りた熊が人を襲った事件がニュースの中で触れられていた。こんなに不便で危険な場所ならば、住む人がどんどん減っていったというのも想像に難くない。


「岩城中は廃校になったあと、再利用も解体もされずに三年放置されてた。元々が築八十年近い木造の建物だったし、たった五年で廃墟扱いだぜ」


 朋也は再びスマホをタップし、いくつかの廃墟探索動画を表示した。


【廃墟探索】瑞城町岩城中「目のない男の死者が校内を彷徨う」


【廃校の怪談】岩城中・赤いトリ編


【廃墟動画】逢魔ヶ時の怪奇現象「子取りと隠れんぼ」デッドマンの出る学校


【恐怖の廃校探検】目玉を夜な夜な探す男の死体


【赤いコトリの呪い。夕方、田舎の廃校でデッドマン探してたら買ったばかりのスマートウォッチ壊れた】


【廃校岩城中学校】子取りとデッドマン


 恐ろしげなタイトルの並ぶおどろおどろしい動画チャンネル群を見た怖がりの悠真は血相を変えた。とはいえ、知広も怖い動画や恐怖映像は得意ではない。むしろ見たくない。


「おもしれぇ!見ようぜ、見ようぜ」


 対照的に大輝は嬉々として、朋也にのしかかって、朋也の背後からスマホを覗き込んで問う。


「朋也は見たのか?」


「チャンネル登録者数の多いヤツだけ」


「で?どう?」


「別に。ありがちな廃墟動画って感じ。明かりがないから夜の校内はさすがに暗いけど、他の廃墟と比べてもそんなに壊れても荒らされてもいない」


「そこじゃねぇよ。なぁ、死体は?」


「出るわけないだろ。自殺でも他殺でも公開できるかよ。岩城いわき中は結構人気の廃墟で、何ヶ月かにいっぺん思い出したように誰かが行ってる。そこそこアクセスが良くて、雰囲気はあるけど危険がなくてやりやすいからだろ。事故現場や自殺の名所じゃない何度も人が訪れてるような廃墟や心霊スポットなんて、むしろ何も起きないって証拠」


 朋也は大輝にそう言った後、口元に手をやって、少し考え込むような仕草を見せた。


「どうしたの、朋也くん?何か気になることがあるの?」


 知広が問うと、朋也は眉を寄せて画面に並ぶ廃墟動画のタイトルを指で示した。


「俺が気になってるのは、岩城中の廃墟に限って【死者の男】と【赤いコトリ】と【目】と【隠れんぼ】がよく出てくるってこと」


 朋也は画面をスクロールして見せてくれたが、確かに【死者】【男】【コトリ】【目】【隠れんぼ】が目立つタイトルが多い。【死者】に関しては、YouTuberや撮影者が【死体を探す】パターンと、死者が【目玉を探している】パターンがちょうど半々くらいの割合で混ざっている。

 どうやら興奮してきたらしい大輝が、鼻息を荒くしながら、朋也の頭にのしっと顎を載せてのたまった。


「ってことはさぁ、まだ見つかってないだけで男の死体があるんじゃね?どこかに」


「火のない所に煙は立たぬ…か。お前、俺よりデカくなったから重いんだよ!どけ、大輝!」


 大輝に絡まれて鬱陶しそうな朋也が怒鳴った。

 中学校入学時点では大輝より朋也の方が少し背が高かったらしい。しかし、両親共に高身長で絶賛成長期の大輝がこの二年間ちょっとで、あれよあれよと言う間に朋也を追い越していったそうだ。今でこそ見上げるような大男に育った大輝だが、小学校低学年の間はチビでいつも朋也の後をついて回っていた…と、悠真から聞いたことがあった。ようするに、大輝と朋也は幼馴染で仲がいいということだ。そのことが、朋也の小学校時代を知らない知広には少し羨ましい気がしていた。

 そんなことを考えてぼんやりしていたらしい。不意に大輝に顔を覗き込まれてびっくりする。


「…って、知広も行くよな?」


「えっ?」


 驚いて見返すと、シュッとした顔をほころばせた大輝が「死体探そうぜ」と言って、知広の肩を叩いた。思わず朋也を見ると、朋也は難しい顔をしていた。


 …あぁ、そうか。死者の噂があるってことは、朋也くんは人が殺された可能性があるって思ってるんだ。だから、大輝くんと悠真くんを巻き込みたくなかったのか…


「朋也くんは本当に死体があると思う?」


「…全くゼロとは言えない」


「先生達が関与してるって?」


「まぁ、その可能性も」


「コトリって何だろう?子取りって?」


「わからない。伝言ゲームみたいに間違った噂が広まることもあるしな」


 朋也の返事は歯切れが悪かったが、朋也が廃校になった岩城中学校と日善中の先生らの間に何らかの繋がりがあると思っているらしいことを察する。


「朋也くんが行くなら僕も行くよ」


 知広が答えると、上機嫌の大輝が「じゃ決まりだな」と、朋也の方を向く。朋也が岩城中学校を訪れるための計画と準備について「みんなの意見をもらいたい」と言うので、そこからは四人で話し合うことになったのだった。

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