第33話 支配者不在
「チッ、生理が始まったんかオイ、麗奈? 313号室の回診行ってこいや!?」・・・。
しんと静まり返ったナース休憩室兼仮眠室には先ほど麗奈がプイッと膨れて血相を変えたまま出て行った名残に休憩室のドアが半ドアで、病棟廊下の声がはっきりと会話の一字一句が隣で会話をしているかの様に聴こえて来ていた。
「ケンくん理学療法のリハビリかい、頑張ってなー。」
「ハーイ風呂入って来ます。」と、張りのある返事を返した北条ケンの、懐かしい声色を聴かせていた。
「普通のケンが、好きだ。」
「え?なんか言った?」
「照れ隠ししやがって!」全ては幻のレビューだ。
「公務員は己の職責ダケで他に仕事する暇無いだろう?」
「薬剤師が、四年制から六年制に変更されただけあって国家資格だから引く手あまたなんだよ。」
「銭カネの問題を言ってるんじゃないよ。」
「それに日本国中に蔓延った劣等生を何とかしないと益々、ベアは望めないし、看護師の本質から外れる事になる。」
「だから政界に殴り込みだ!」白歯をむき出しガッツポーズで麗奈を視た。
「三咲センパイ、カッコイイ!」五本の指を組み瞳をキラキラ煌めかせた麗奈が立っている。
それが、普通だった。それも今では過去・・・、幻になるのか、あーーッ! 溜息とも怒りの感嘆とも取れる声を発して部屋を1周視線を回し、それから慌てて出入り口のスライドドアの所まで行き頭だけ出して病棟通路をキョロキョロ視るとエレベーターのある南端の採光FIX窓まで視線を送りひとしきり見詰めると頭を戻し、麗奈の座っていたクッションを見詰め、黙って三咲のポジションまで戻って行った・・・。
「麗奈・・・オマエが居るのが普通だった、当たり前だった。」
「アタシは普通になるためにケンを捨てたんだ。後悔をしそうになるけど、アタシは過去に生きない!明るい未来を想像して前だけを見て生きてる!」
「立ち上がるにはなにかを捨てなきゃダメなのか?」
「他国人は日本国土を買い漁っているが、個人で移転登記が出来ないように日本中の公図の筆界に青線を引けばいいんだよ!それを黙って見過していたら日本国土は、他国になっちまう!だから国土交通省を徹底的に焼きを入れて鍛え上げるんだ! 角さんも出てきてそう言ってたんだよ?」
でも・・・、アタシの言う事は誰も信じないし・・・、何故なら日本が平和ボケしているんだ。麗奈がいない・・・。ケンが去って、奈緒美が去って、麗奈が去って、麗奈・・・。麗、奈。独りになってしまった・・・。
目尻の皺、気付かなかった、今まで・・・。
休憩室の鏡をマジマジと見ていた。
いつの間にかアタシの心を支配していた麗奈・・・。
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