第25話 総長と酢豚

「ちょうどよかった。」思わず独り言が口を突いた。

 なんか言ったか? 三咲の問いかけにかぶりを振り右手を差し出しどうぞと、三咲を通した。

  スライドドアが開いたところに無垢木のナチュラルな年輪を刻んだ桜の大木を水平に輪切りした天板を設えたダイニングテーブルに見とれていた三咲に、「400年物の桜の木なんですよ?南北の年輪が圧巻だから買ったんですぅ。」

「へえー、オマエ・・・。」次の言葉を楽しみに待っていたが・・・。

「酢豚は?」なんだそっちか?と少々ずっこけたが、気を取り直し酢豚の大皿をセッティングした。

・・・・・。

「先ずは県議会の議員だな。」三咲の政治談議は尽きない。

「行く行くは県知事とかやって三期目で衆議院議員だな、で?オマエ話しがあったんじゃないのか?」

「イエ、センパイのお話しが面白そうなんで先に聴いちゃいますう~。」緑茶を飲みながら三咲の話しを聴く事が好きだと言っていた。

「国会議員なんて凄いですう・・・。」

「でもセンパイ、国会議員は供託金が300万円ぐらい必要ですよ?」

「あ、?ああそうか・・・麗奈、貯金は幾らぐらい貯まっているんだオマエ?」酢豚にタマネギを絡めて食う。

 白飯も食う。ピーマンは食べなかった。

「おかわり!」空になった茶碗を受け取る。

 えっ、ええー、取り合えず派手なリアクションをしてから米飯をよそおった。

「だって基準投票数がなければ没収されちゃうんですよ選挙管理委員会ってとこに!?」   山盛りに盛られた飯の茶碗を片手に酢豚をパクつきながら、「なにーッ!アコギな商売しやがる!」ドン!とテーブルの天板を叩いたつもりだったが拳の親指が当たり麦茶のタンブラーが見事に倒れて天板の年輪に沿って麦茶が、ユックリ流れていた。慌てて布巾で拭き取る麗奈を見ずに正面を向いて酢豚に向かい、「劣等生が多すぎるぜ!」庄屋三咲の正義は年齢と共に変わらず、アクティブに全身全霊で挑み掛かる。

 それが、庄屋三咲の正義だった。

 「ニッポンの劣等生を改造するんだ! 池永のナオに手伝ってもらって、そう言って作ったのがレディース紅生姜(べにしょうが)だ。」ナオミの食欲に圧倒されて箸と茶碗を持ったまま宙に浮かしていた麗奈はそれにしても良く食べるなと思ったがその食欲に三咲の佇まいを納得していた。

 山盛りにしてあったサイコロ型の酢ブタが、ピーマンと人参だけになっていた。

 二杯目が空になった茶碗をテーブルに置き、「ところが最初の目標を見失ってアタシらは、走り屋と化した暴走族に墜ちてしまったんだ!」

「ピーマンと人参もよく噛んで食べなきゃダメですよ?」話しを止めて散乱した大皿の野菜をチラッとみたが、直ぐに会話を戻した。

「本末転倒だよ全く。」野菜を眺めていた・・・。

「麗奈は可愛いよな?」テーブルに前のめりで麗奈の鼻頭を突いた。

 突いた人差し指の腹を見て「心根が可愛いよ。」

「アタシらとは違う可愛さがあるんだよ。」

 自分の事を言われているのか? 三咲の方がピュアで可愛いと言いたいのか?検討も付かない事柄をズラズラと並べられて内並木麗奈は戸惑いを隠せず三咲を見詰めた。ポカンと口が開いていた。

「政治家になればいいのに・・・、センパイ?」

「なろうと思ってんだけどな?」うんうんと頷き麗奈の方向に指を差し改めて問い質した。

 「いじめの定義って何だ麗奈?」は? 不意打ちを喰らったハトの様に首を前後上下に動かしていた。

「どうして現場の背景も見てもいないいじめの現状に於いて認定、非認定と判断が就くんだ?」真顔で麗奈を見た。

 見られた麗奈は三咲と眼が合ってどうして良いか分からず眼をテーブルの上に伏した。センパイ綺麗ですう・・・。

 「何故なんだ?」まだ続いていた。 

「学校からかけ離れた処に居て無責任な教師の報告書ダケでよく調べもしないで認定や非認定の判断がどうして就くんだ?」不思議そうに腕組みしたついでに天井を仰いだ。

「あそこ、染みが出来てる。」シビアなセンパイ・・・。そう思っていた。

 「日本には傷害を負った被害者が被害届を提出して初めて刑事被害者が成立する様にいじめ被害者も被害届を提出しやすい様にだな?」

「それにいじめによって独り寂しく死んで逝った子供の気持ちになって考えてだ!」ピン!と、人差し指を立てた。

「早くいじめ認定の第三者機関を作ってやらないとな・・・。」麗奈を凝視していた。

「日本政府!?」

 ワ、ワタシ、ニッポンセイフチガウネ!? 戸惑った麗奈が可笑しな返事を返したが構わず。

 「いじめられた子供が被害届を出すのは、本人がいじめを認定しているからだろうがよ!?」

「18歳から選挙権が与えられたが、その有権者がいじめに加担していたら国はどうするんだよ!?」睨みを利かせて麗奈を見詰める。麗奈は眼が泳いでいた。

 こ、恐いですぅー、センパイ・・・。

「私に怒られても・・・。」泣きそうな面持ちになっていた。

「教師も己れの立場を考えてないで捨て身で教育の場に足を踏み入れろよ!?」拳を上げる!

 「視て観ぬ振りをするなよ!」ドン! テーブルを拳で叩く!

「み、見てますぅ!」慌てて返した。

「イエ、見てません!」

 「当校では生徒にいじめがあるとは、認識していませんでした。とか、教育委員会に提出用のコメントをしてんなよ校長!?」こ、コーチョ、チガウアルネ!?

「さっきから何言ってんだ麗奈?」

「だってセンパイが一人でロジックするんですもの。」

 両肘を伸ばしてテーブルに両手を突き背筋をピンと伸ばした麗奈に「明日は夜勤だからオールナイトでブッ飛ばす!」

「ええーーッ。」信じられない事実を聴いた麗奈は椅子の背もたれを支えにして仰け反った。

 三咲の気力と体力が信じられなかった。

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