第17話 三咲の父が保守!
晩夏。
メイン道路から一〇メートル高い鈴蘭の丘に居た池永奈緒美は、隣のバイク上の三咲に、
「暑いな、汗ベットリだよ。」ライダースーツのジッパーを臍上まで下ろし両手でパタパタと扇いだ。
裸の腰の括れが白くクッキリと見え隠れしていたそれを「ストイックなボディーよね・・・。」と、鑑の様な感想を持ち合わせていた。
ライダースーツの中の三咲はそうすべきか否か、躊躇していた。
ある意味池永奈緒美が羨ましかった。
普通に普通の行動をしている事が、見られているのに全く意に介さない。
破天荒ぶっていたけれど張子の虎・・・。
屏風の中から出られない虎・・・。
「裸の女王様だよ。」涼しげな眼差しを三咲にくれてやる。・・・。
口角が上がっていた。
「ガバナンス上等!」うんうんと頷き、三咲に言い聞かせる様に・・・。
「なあ、総長?」背筋を伸ばしフルフェイスを小脇に抱えた。
意識の旅から連れ戻された三咲は、「お・・・、」
「おう・・・。」
「でも、ナオッチがいるから・・・。」
言葉を溜めた三咲がうつろに言う。
「ナオッチが居るから締まっている?」眼がウロウロしてやがて建設中の単管を組んだ6階建ての新ホスピタルに眼が止まった。
「締まってると思うよ・・・。」ナナハンのエンジンを切った、ドルーン・・・。背中が西日に晒されてムンムンした空気が三咲を包んでいた。
赤い怪物が大人しくなり、代わりに一〇メートル下から車道のノイズが上がって来ていた。
金属の膨張がミシミシと収縮して行くノイズがそこかしこに発音していた。
赤と黒の燃料タンクを指で触ると火傷しそうな位に熱い。
真夏と言うのに秋の虫がそこら中で鳴いていた。
「自信持てや三咲?」宥めるように・・・、諭すように・・・。
「なんか拗ねてるのか?ヤキ入れるぞ、オマエ?」いつになく冗談ぽいし、お姉さんだ・・・テノールが早口だった。
「自信か・・・、自信なんかないよ。」歯が立たない、と言いかけて下を向いた。
燃料タンクの赤からユラユラと陽炎が立ち上がっていた。
「アタシは・・・、ナオッチに負けたんだょ?」真横を向く、完敗をリフレインしていた。
「な、なんとかの虎じゃないか。」喉がつかえた風に上胸を叩いていた。
「張子の?」奈緒美がフォローすると、「は、ハリハリ?」
赤と黒のタンクが並行して停車していた。
長々とシートから伸ばした両脚が地面に着地して踵も着地していた。
「アホ、だろナオッチ?」言葉を濁したのが奈緒美への忖度なのか・・・。
両手は左右のハンドルに突き、上体を預けて、これがバイク上の休息だった。
西側を向く三咲の顔面に沈みかけの西日が射さる。
防音防塵シートを取り払い足場も撤去、竣工した県立鈴蘭医科大北医療センターを見詰め・・・。
「分からないよ。」意外だなと顔をして三咲を見詰めた・・・。
「なんか三咲、オマエ激しく乱高下しているよな?」パーラメントを1本、火を点けずに三咲へと差し出した。
いらないと右手を振ったが、「なんだ、いらないのか、パーラメントだぞ国会議員だぞ?」取り出した1本を器用に紙箱に納めるのを見届けた三咲は、「それを言うならメンバーオブパーラメントだ。あそこ、看護師を募集してるんだ。」と、呟き天を仰いで腹式呼吸を二回繰り返した。
頭上をクルクルと回るアカトンボが見えた。
「お父さんが保守だったからな・・・、女のタバコは。」
三咲の父親は田中角栄元総理のフォロワーで、バリバリの保守だったから田中角栄が総理に収まっていた頃は、毎朝に朝刊を隅からすみまで一字一句欠かさず読み時々、「うーん。」三面記事を睨み。
「なるほどな。」朝刊を拡げめくって縦に半分に折った。
「マダマダやなあ・・・。」と、感嘆していたから三咲の直ぐ傍に政治は有り、三咲は父親の影響を受け日本の政府や政治に関心を示していた。
「へえ、キャッチャーをやってるのか、プロ野球?」
ププッ!と吹き出した三咲
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます