第16話 庄屋三咲が負けた夏!
一年半前鈴蘭の丘、夏。
カーン! カーン!・・・
大型重機のパイルドライバーが鋼管杭を叩き地中深く打ち込んでいた。約20m深くに。
「オマエ、叩きのめしたるッ!」拳を前に構えて威嚇する三咲を物珍しそうに見詰め、「隙だらけだな。」奈緒美の直感だった。
戦闘モードでにじり寄る二人の背後では無音の中型バイクと、大型バイクが二人を静観していた。
「1分だ!」右人指し指をピン!と立て指を伸ばし風を読む・・・。
「ゴルファーかっ!?」
時折強烈に鋭利なナイフの様な西風が吹くときにだけ、笑みが溢れる。
「掛かって来いやチンピラ喧嘩屋!」ダッ、と三メートル先の池永奈緒美目掛け突っ込んだ!「オラッ!」三咲得意の右フック&肘打ちが外れた!それは長いリーチの池永奈緒美が三咲の頭をガシッと、鷲掴みに両手で挟み力づくで下に抑え込んで膝げりを何発も何発も三咲の顔面に容赦なく撃ち込んでいたからだ! ようやく手を離した奈緒美によって地面に叩きつけられた。
炎天下に蒸れた緑の匂いがした。
前歯が二本折れ、裂けた口内から夥しい血液が流れ出ていた。
三咲は微動だにしなかった。
いや、できなかった。
三咲の後頭部には、池永奈緒美のピンヒールが突き刺さっていたからだ!
グリグリと何時までも垂直に全体重を乗せられた三咲の後頭部は、皮が捲れ白い頭蓋が姿を現していた。
ヒールの動く度に後頭部から鮮血が噴出していた。
「ウーググ・・・。」力なく池永奈緒美の足首を掴んだ!そして両手を添えて上へ持ち上げ地面に食い込んだ顔面を浮かせて「負けました。」そして、堕ちた・・・。
何処か遠くからキリギリスの鳴く声が西風に乗って聴こえていた。
マサに一分だった。
「ヨッシャ!根性出したな。」右膝を突き三咲を仰向けに返し三咲の背中を優しく抱き上げ頭を右膝に乗せ、両手で顔を挟んで口許を見た刹那、「うまそうなブラッドじゃないか。」
ニヤリと笑みを浮かべ馬乗りになり、長い舌を伸ばして三咲の口回りをしきりにペロペロと舐め回したかと思うと「いや、やめ!」止めろと言い掛けた三咲のリップを塞ぎ舌を入れた。
ヌメヌメと蛇の様に絡み付く池永奈緒美の舌を感じ、軈て眼を閉じた三咲の両頬が紅潮して行く。
ダラリと力なく両手は堕ちていた。
そしてリップを離し、「ごちそうさんアタシは池永奈緒美、アンタの名前は?」
「庄屋三咲・・・、です。」初めての敬語だった。
池永奈緒美に抱かれた膝上の三咲は「ドラキュラかよオマエ。」言った瞬間ハッ!とした顔で直ぐ様訂正をしたのは「あ、スイマセン奈緒美さん い、池永さ・・・。」敗者は勝者の下に就かなければならないレディース達のコンプライアンスがあったからだ。
「年齢は為だから無理しなくていいナオで、」優しい微笑みを直美にくれてやり、「三咲、今日からオマエが紅生姜の総長だ、アタシが副総長だからな。」
「日本の劣等生を改造する為だ!」こうして新生紅生姜は国内で大きな組織となり県下の小さなグループの隊長17人を従え総勢一万五千人を超える巨大組織に成り上がった。着実に議席を延ばしていた。
そしてプライベートな会話では度々鈴蘭の丘へ立ち寄る。
クリスマスイヴの日に盲腸炎で緊急入院し、一週間で退院した三咲は19歳になっていた。
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