第9話 庄屋三咲の乙女心
「カラアゲ好きぃー!・・・。」同級生の女子がはしゃぐ・・・。
何も知らない同級生がケンの家族と共にはしゃいでいたが、ケンはこれまでの時系列を振り返れずには居られなかった。
出会いは軽音楽部の朝練が終わった夢の町商業高校(ゆめのまちしょうぎょうこうこう)2年5組の学級編成のあった翌朝の教室だった。
長身の庄屋三咲は登校が早く、至近距離でマジマジと正面から拝ませて貰った・・・。
実は勉強が出来るが、悪ぶったスケ番がタイプ!
一目惚れだった。口を半分開けフォークギターを抱えて見惚れていた。
この翌朝からケンは、朝イチで登校し、5組の教室で三咲を待ち伏せすると、偶然を装って「あ、オハヨウ、庄屋さん。」
殆どストーカー紛いのケンだった。
「チイース、…はよ・・・。」ドン!と、ピーナッツバッグを机に放り投げ椅子にドカッと腰を降ろす。
「で、誰?」見た事のないオ・マ・エと言っているようだった。
「ケンだよ、北条ケン(ほうじょうけん)!」椅子の背凭れを持ち乗馬の様な座り方で直美の気を引く。抜けるような青空、放射冷却現象の寒い朝だった。
「へぇー、ほうじょうマサコ?・・・センコーのところに朝刊あるから取ってこいや!?」明け透けな直美の欠点は胡麻すりが出来なかった事だ。
「ハイッ!イキマス。」こんなやり取りが早朝の始業前に行われていたが、ケンはケンで十分幸せだった。
思い出と忘却の狭間を去来していた。
ケンは何故フラれてしまったのか分からなかったからだ。
「普通のケンが好きだよ?」東山と湊川の間にある大きな公園で自転車の二人乗りをしていたケンは、「エッ?なんか言った?」バコン!「二回も言わせるなボケ。」素の三咲は手強かった・・・。
「イッテエ?。」と言いながら荷台の三咲の胸の膨らみと熱い鼓動のノーブラのトキメキを背中で感じ取り、三咲の体温と果てしない感触だけが、ケンの今生きている刹那の証だった。
ケンと三咲のパルピテーションの中の熱いシンパシーが育ち始めていた。
それは永く続く筈だったが、公園での自転車二人乗りを境に池永奈緒美からの二人の支持率は急落・・・。
「なんで、サキがブサオと遊んでいる訳だ?」
「サキのチーム愛とブサオへの愛が拮抗しているかもだよ。」
「示しが着かん!別れろ。断交だ!」とでも言われたのか、三咲の考えは卑屈になって行った。
「アタシと付き合えばケンに迷惑が掛かる。レディースを脱退若しくは解散させよう・・・。」窮地に追い込まれていた。
池永奈緒美(いけながなおみ)はUSAのジェニファーロペス張りの高身長に切れ長の両脚、離れた眉根とキリッと締まった長い眉毛が広い富士額の演出をしていた。
そして、鋭利な下顎の顔立ちが輪郭が鮮明に存在感を際立たせていて、腰までの黒光りするロングストレートは遠目に見ても判然と佇まいが視認出来るからバリカーの上に腰を降ろし、背中を丸めて存在を消してはしゃぎ回る二人を観察していた。
「ケンと別れて総長を引退して、紅生姜を解散させろよ?」座っても池永奈緒美はと三咲体格差があった。
座高を伸ばし、足を広げ両手を膝上に置き三咲を見下ろす格好になっていたが、三咲は核心を突かれるのをおそれているかの様に縮こまって俯き両手の指を組んで膝上に置いていた。
時々指を絡めたり、モジモジしたりして頬を赤らめ、口を動かし何かを言おうとして奈緒美を見たがその迫力に圧倒され少女の様に肩を竦めすぐさま俯いた。
こんな不祥事にはキッチリとケジメを着けさせる。
例え配下チームの総長であっても! これが池永奈緒美流の政策だった。
テコンドー2段は、三咲を遥かに凌ぐイージスアショアの様な戦闘力の持ち主で、庄屋三咲が弾道ミサイルならば、迎撃100%のトマホークの対決は大人と子供の戯れに過ぎず三咲は池永奈緒美の足下に及ばない実力だったが、三咲の流した血と涙は、何故別れなきゃならん?愛していたのにラブだよラブ!・・・、それに何故歯が立たない?
チームからのリンチを抑制の為の一芝居だったが、今度だけは痛み分けに持ち込みたかったダケに、大勢の部下の前に一撃で倒されては、紅生姜の総長としての威厳がなくなるじゃないか!?いや、もはや総長は引退したが・・・。
ケンと別れたくはなかったし卒業まで続いて欲しかった。
手編みの白いセーターをアタシだと思って着てくれているかな?
例えレディースの総長であっても乙女心を持ち合わせていた。
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