大文字伝子が行く142
クライングフリーマン
パウダースノウからの挑戦(9)
====== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
一ノ瀬(橘)なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。
久保田(渡辺)あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。
愛宕(白藤)みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。
大町恵津子一曹・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。
馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。
高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。
新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からのEITO出向。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からのEITO出向。
藤井康子・・・伝子マンションの隣人。料理教室経営者。
斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
久保田嘉三管理官・・・久保田警部補の伯父。EITO前司令官。
夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。
ケン・ソウゴ・・・以前、ダークレインボーの死の商人の枝として働いていた。実は、イーグル国のスパイ。伝子の窮地には、助けに来る。
依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。やすらぎほのかホテル東京支配人
須藤医官・・・陸自からのEITO出向の医官。
高坂看護官・・・陸自からのEITO出向の看護官。
宮崎よしこ・・・スイミングクラブ経営者。校長と呼ばれていた。
若山等・・・スイミングクラブ共同経営者。副校長と呼ばれている。
==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO精鋭部隊である。==
午後2時半。伝子のマンション。
高遠は、慌ててEITO用のPCを起動した。
夏目警視正がディスプレイに出た。
「FAX、見て貰いましたか?」「これは、どういうことかな?」
「ケンから送られてきたんです。ついさっき国際郵便で受け取りました。」
「『8番目の幹、オクトパスが日本に向かった』とあるが・・・ダークレインボーの幹は7人じゃなかったということか。じゃあ、今までは1人の幹とその手下と闘ってきたが、2つのグループを敵にするってことか。」「夏目警視正、正確には3つです。『えだは会』。」
「理事官がまた、卒倒するな。」「情けない指揮官だな。自衛隊にはいないぞ。」
夏目の隣から顔を出したのは、須藤医官だった。昔の軍医の女性版のようだ。
「いつでも、キツケを注射してやる、と言っておけ。健康診断は、まだ5割だ。別にノルマはないが、一通りチェックしたいものだ。夏目君。跳ねっ返り娘、今日はどこにいる?」
「跳ねっ返り?」「夏目警視正。愚妻のことです。」と高遠が苦笑しながら言った。
「愚妻?」「警視正。アンバサダーのことです。行動隊長。」と、草薙が通訳をした。
「待機室を使った、臨時作業室で、皆と『殺人予告リスト』の情報の整理をしています。」
「そうか。高坂。ビタミン剤を大量に用意しておけ。私は帰る。」「了解しました。」
須藤は、司令室を出て行った。慌てて高坂も続く。
「マイペースだなあ。」と言った高遠の声が聞こえたらしく、「私もそう思う。」と、夏目は言った。
「取り敢えず、そういうことで。」と、高遠は自分からPCをシャットダウンした。
「確かに、3つは難しいな。」と言って入ってきたのは、ケンだった。
「え?」と、高遠が驚いていると、「郵便より新幹線の方が早いことがあるだろ。」と、ケンは平然と言った。
「やっぱり、幹は7つじゃなかったの、ケン?」「うん。追加情報だ。ダークレインボーの創始者、詰まり、マフィアのボスが、結成当時、珍しく虹を見たぐらいのことだろうな、ネーミングの由来は。それと、これからも幹は増えるかも知れない。」
午後4時。板橋区。あるスイミングクラブ。
放課後、スイミング教室にやって来た、中学生がプールに浮かんでいる女性を発見し、コーチに報告をしていた。全裸だった。女性の身元はすぐに割れた。このスイミングクラブの経営者だったからである。
ロッカールームから、衣類と共に『遺書』らしきものが見つかった。
最初、TVのニュースでは、スイミングクラブ経営者の自殺と報じられた。
だが、鑑識によって、すぐに自殺ではないことが分かった。
板橋署の署長は、他殺を報じるのを躊躇った。単に自殺では無かったからではない。
久保田管理官を通じて、EITOにも『遺書』が電子ファイルで送られてきた。
『遺書』にはこう書かれていた。
《
私は、ダークレインボーの幹である、闇頭巾の部下、枝でした。パウダースノウの 50人の殺人予告リストに載った、1人です。誰かが私を『殺したい人』に推薦したようです。どの道長くない命です。自ら絶つことにしました。会社の経営は副校長にお任せします。
》
副校長とは、会社の共同経営者である、若山等(ひとし)のことであり、経営者宮崎よしこは校長と呼ばれていた。
警察は、すぐに殺人予告リストを確認した。別人とは思えない風貌に、副校長こと若山は、ここ10年で激太りしたのだと証言した。
えだは会のことは遺書には書かれていないが、闇頭巾の部下なら、えだは会のメンバーだった可能性がある。パウダースノウが殺したのだろうか?自殺のような文面だが、鑑識が簡単に他殺と断定したのは、『自分で付けることが不可能な傷』のせいだった。
司法解剖の結果が出るには、時間がかかる。
午後5時。EITO会議室。
「仲間割れ、ってことでしょうか?」と大町が珍しく発言した。
「ちょっと違う感じだな。上手く説明が出来ないが。」と伝子が言うと、「方針転換でしょうか?おねえさま。今迄の幹の手下だった連中は切り捨てられるばかりだった。でも最近、えだは会って、勝手に作戦を始めたりしていた。」と、なぎさは感じたまま言った。
「粛正?でも、まだ、パウダースノウの作戦の途中じゃないの?」と、横から、あつこが言った。
「全裸、って。発見したのが男子中学生。刺激が強すぎるわね。」と、田坂が言うと、「見せしめ、ってことですかね、先輩。」と、安藤が調子を合わせた。
「みせしめ、かあ。暢気にスイミングクラブなんかしやがって、とか。」高木が鼻を鳴らして言った。
「あのー。」「何だ、馬場。言ってみろ。」と理事官は馬場に意見を求めた。
「ロッカールームに衣類があったんですよね。着替えている途中で襲われたんでしょうか?」「スケベな想像しないでよ。私は、水着が見つかっていないのが気になります。」
金森は馬場を睨み付けながら言った。
助け船を出したのは、みちるだった。「ロッカールームで襲ったんなら、水着に血痕が付いたのよ、きっと。」
「みちるの説はあり得るな。私は文面が気になって仕方がない。遺書は誰の為に遺したんだろう?副校長に残したんなら、わざわざ闇頭巾の手下だったなんて告白する必要があるだろうか?スクールのことを頼む、でいいんじゃないか?リストに載っている人物は大勢いる。職業や動機も様々なんだし。」
「ひょっとしたら、アンバサダーは、自らの意思で宮崎が書いたものじゃないって推理を?」
「草薙さん。よく分かったわね。その通り。詰まり、この遺書にはダイイングメッセージが含まれている・・・かも知れない。」
「おねえちゃまの旦那様の出番ですね。」と、あかりが口を挟んだ。
「おねえちゃま?いつ、復活したの、その言い方、新町。」と結城が恐い顔をし た。
増田が、「今日の夕刊には間に合わなかった・・・のは幸いですね。」と、伝子に言った。
「ああ。大騒ぎは、遅い方がいい。」と伝子が言った。
「お通夜は明日、葬式は明後日だそうだ。念の為、張り込むかね、大文字君。」
理事官は、改めて尋ねた。「そうですね、そうしましょう。なぎさ、班分けしてくれ。他の事件も起こるかも知れないから、ある程度の人数は残しておいてくれ。」
「了解しました、おねえさま。」
午後6時半。伝子のマンション。
夕飯の支度を止めて、高遠は伝子とテレビ電話をしていた。
「また、謎かあ。」「ケンは?」「すぐに帰ったよ。電話はなるべく使いたくないんだって。えだは会とパウダースノウ、ぶつかるかも知れないね。今迄好き勝手してきたし。」
午後8時。葬儀会館。
宮崎家のお通夜は、つつがなく終った。
久保田管理官が、副校長の若山に尋ねた。
「随分、淋しいお通夜ですね。お身内の方は?」「はい。弔問客はご近所の方々とスクールの父兄、業者の方々だけです。確か、ご子息がお一人いらっしゃる筈ですが、連絡が取れなくて。」
葬儀会館の職員が、「先ほど、こんなモノを見付けたんですが・・・。」と若山に封筒を渡した。
若山は、文面を読んで顔色が変わった。
「どうしました?」ただならぬ状態を察した久保田管理官は文面を読んだ。
それには、こう書いてあった。
《
決戦は明後日午後3時。場所は葡萄館と東京ドーム。兵隊は5000人。
》
「念の為、明日のお葬式の警備は増員します。文書のことは、ご内聞に。」と、久保田は若山に念を押すと、各方面に連絡を始めた。
午後9時。伝子のマンション。
伝子から高遠のスマホにテレビ電話があった。
「分かった。僕に腹案がある。明日の朝の会議は参加させてくれ。」
「・・・ん。横で、草薙さんが、期待している、と伝えてくれって。」「了解。」
翌日。午前9時。EITO本部。会議室。
「早速だが、高遠君。陸自、海自、空自に応援を依頼したかね?」と、憤懣やるかたないという顔で、ディスプレイを指さした。
数秒考えて、高遠は、「そのメール、誰宛ですか?」と理事官に尋ねた。
「陸自の、橘陸将宛だが・・・。」
「他のメールは?草薙さん、並べて出して下さい。」
マルチディスプレイの3通のメールの文章が並んだ。
「ふむ。同じ文面のようですが、最後に署名がありますね。半角のアルファベットのイニシャルが。並べ替えると、『ken』と読めます。この際、日本への全面攻撃があるとか、私の知らないニュースソースです。ケンは意外な『迎撃』作戦に賭けているのかも知れませんね。先に申請ありきの、の日本の事情を知っているから、先手を打ったのでしょう。恐らく、橘陸将、仁礼海将、前田空将も了解すると踏んだのでしょう?」
「どうしてそんな・・・。」「言えるでしょう。エマージェンシーガールズの実力を考えれば?」
会議は正午で、一旦、打ち切った。
午後3時。伝子のマンション。
明日の決戦まで約1日間ある。高遠は、今までのことを振り返っていた。
新聞広告。何か違和感があった。パウダースノウからの挑戦状は、インパクトが強すぎて、根本的なことを見逃していた。
パウダースノウは、他の方法を知らなかったのではないか?各新聞社に送られたメールに添付された写真と短い文面。『枝』に、闇サイトを使って『殺したい人募集』を行ったのは、事実だろう。
だが、何故、50人の殺人予告を次々に実行していかなかったのだろう?お陰で、警察で保護した人数は3分の1を超えた。大量殺人を行う手もあったはずだ。
複数の人間を誘拐して、EITOに挑戦する方法もあった筈だ。
パウダースノウ自身は、「全部で50人」という事以外に細かい情報が無かった、としたらどうだろう?部下の枝に50人揃えるように、と指示を出したが、チェックしていなかったとしたら?
部下の枝に裏切り者がいたとしたら?裏切り者?えだは会の存在か。
5000人、と書いた紙片。パウダースノウが書いた、いや、書かせた紙片はPCからプリントアウトしたもののようだった。
何故、敵に決戦の詳細を伝える必要がある?
表面上は、パウダースノウの方がEITOより、圧倒的に有利な筈だ。
やはり、えだは会がEITOに味方していると考えた方が自然だ。
パウダースノウに邪魔をしたいから?いや、恨みかも知れない。
考え事をしている内に、外は夕闇になっていた。
「どうしたの?高遠さん。あなたらしくもない。もう夕方よ。夜よ。」
藤井だった。チャイムも聞いた記憶が無い。
高遠は、頭の中を整理していた、と応え、藤井に言った。
「よく出来ました。今夜はラーメンにしましょ。ちょっと待ってて。」
藤井は、慌ただしく出て行くと、10分後には、具材とラーメンを持って来た。
高遠は、鍋に水を入れ、待っていた。
「腹が減ったら、なんとやら。元気つけて。大文字さんも、覚悟は出来てると思うわ。」
TVを付けると、普通の番組を放送していた。明日のことは、マスコミには知らせていない。あの紙片が届いた時点で、エマージェンシーガールズの警察官組は警視庁から引き上げた。また、自衛官組のEITOでの『情報整理の手伝い』も終了した。
お昼を挟んでの長い会議の後、彼女達のことだから、訓練に勤しんだことだろうと高遠は考えた。
午後8時。高遠は、迷った挙げ句、依田に電話してみた。
依田は、明日、早出なので、これから帰宅するところだと言う。
「分かった。なんとかする。それよりお前、余り眠ってないだろ?最近。」
「お見通しだな。」「入眠剤はあるか?」「池上先生が伝子の往診に来てくれた時、置いて行ったよ。」「じゃ、それ飲んで今夜は早く寝ろ。お前達夫婦は、似たもの夫婦。思い込んだら一途だからな。じゃな。」
高遠は泣いていた。泣きながら、台所の薬箱から、入眠剤を取り出して、風呂に向かった。
翌日。午後1時。EITO本部。会議室。
「今、大前君からEITOエンジェルスが、こちらに向かった、と言ってきた。以上だ。もう何も言うことはない。」
午後3時。東京駅。
鉄道警察は、他府県の警察官、警備会社の警備員で増員して、有事に備えていた。
午後3時。東京国際空港。
空港警察も、他府県の警察官、警備会社の警備員で増員して、有事に備えていた。
午後3時。東京スカイツリー。
こちらも警備員を増員して有事に備えていた。
午後3時。仙石諸島。
那珂国の船が、排他的経済水域を乗り越えようとしていた。
午後3時。津軽海峡の近く。
オトロシアの潜水艦が近づいていた。
午後3時。葡萄館。
約2000人の那珂国人戦闘集団が待機していた。残り3000人は東京ドームの方かと思われた。
ショベルカーが現れた。1台、2台、3台、4台、5台。
ショベルカーはまっすぐ、戦闘集団に向かって行った。運転手は皆、陸自の迷彩服を着ていた。陸自の女性隊員だった。
ショベルカーに向かって、機関銃が火を噴いた。
闘いは始まった。
―完―
大文字伝子が行く142 クライングフリーマン @dansan01
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます