150 ボーンナイト、そして戦闘訓練


 一番奥にある城に到着。

 城があるということは、つまり第一層は城下町ということだったのだろうか。住人は骨と不法滞在者だけだけど。

 城までは、数十分程度で辿り着いた。魔物との戦闘にほとんど時間を使わないから、ほとんど移動時間だけだ。


「ここまで、どいつもこいつも逃げるばかりだったな。アンデッドのくせに」


 戦闘を望んでいるのに、逃げていく魔物を狩っただけのジャンヌは不満顔だ。


「ジャンヌが強すぎるからなんじゃないか?」

「強いはずがないだろう。まだこっちに来て1ヶ月と少ししか経っていないんだぞ?」

「まあ、それはそうだが」


 神からのギフトを貰っている時点で、俺達はこの世界の人たちよりも能力的な優遇を得ているわけで、相対的に強いのは間違いないと思うのだが、ジャンヌの言う「強い」はそういう意味ではないのかもしれない。

 実際、俺もジャンヌも「神からのギフト」にかなり依存して戦っているのは事実だ。


 城はシンプルな造りで二本の尖塔が目立つが、建物自体は三階建てくらいのものだろう。

 入り口の扉はなく、ポッカリと開き侵入者大歓迎な状態だ。

 とはいえ、このあたりには棍棒を持った初心者探索者も、弔いの町人もいない。


 中に入るとすぐに魔物と遭遇した。


「あれがボーンナイトか?」

「そうにゃん! なんでもオーガより厄介という話にゃんで気をつけて!」


 城に入ってすぐのホールに立つボーンナイトは、腕が4本もあるスケルトンで、それぞれの腕に剣、短い槍、斧、盾を持っている。

 スケルトンソルジャーと違い、鎧や兜などの防具類も装備しており、見るからに強そうだ。

 サイズも大きく、2メートルほどもあるだろう。

 初心者探索者がソロで挑んではいけない魔物として、ギルドの初心者向けガイドに書かれているらしいが、相性的に、俺なんかは戦っても負けそうな気がする。


「いいじゃないか。こういう相手を待っていた……!」


 嬉しそうに相手を見据え、武器を構え前進するジャンヌ。


「ボーンナイトは一体で出るにゃん。みんなで叩けば簡単に倒せるらしいですけど、どうしますにゃん?」

「手出し無用! 見ていてくれ」


『嫌われ者』と相対した魔物の、逃げる逃げないの基準はよくわからないが、ボーンナイトはジャンヌから逃げなかった。

 ある程度、強い魔物は逃げないのかもしれない。あるいは、ゲームみたいにレベル差が一定以上あると逃げるのか。


 ガシャガシャと金属鎧と骨とが擦れる音を響かせながら臨戦態勢を取るボーンナイト。

 空虚な眼窩に青白い光が灯り、盾を構えるジャンヌへと襲いかかる。


 骨とは思えぬ素早さ。

 まるで見えない筋肉が存在しているかのように滑らかな動きで、剣を振り、槍を穿つ。

 ジャンヌはその攻撃一つ一つを盾で受け流しながら、機を見て攻撃を繰り出していく。


(ジャンヌは防御が堅いな。危なげない戦い方だ)


 俺の戦い方はだいたい全部奇襲で、リフレイアはとにかく攻めて反撃の余地なく倒すような戦い方だった。

 そういう意味で、攻防の中で隙を作り出し崩していくジャンヌの戦い方は、正統派であると同時に、目新しく俺の目には映った。

 精霊術もないから、本当に力勝負だ。


 何十回目かの剣戟の果て、ジャンヌのブロードソードが相手の頸骨を捉えた。ボーンナイトが黒い精霊石へと姿を変える。

 ジャンヌは無傷。真っ正面からの力勝負での完封である。


「ふぅ。なんとかなったな」

「余裕そうに見えたけど」

「そうでもないさ。それに、実際にはこんなチンタラ戦ってはいられないだろう? 迷宮を本気で攻略するのならな」


 確かに、迷宮での戦闘は速ければ速いほどいい。

 戦闘中に別の魔物に出会ってしまうと、負ける可能性が大幅に上がるからだ。

 そして、負けるということは死ぬということだ。


「それで、どうだった?」

「うん。強い。強いが……なんていうか常識的な強さだな」

「どういうことだ?」

「想像通りのパワー。想像通りのスピード。手数だけは多いが、それだけだ。だが、それゆえに訓練になる。途中で出たスケルトンソルジャーでは弱すぎたが、こいつは悪くない」

「逃げないしな」


 2層以降の魔物がどうかはわからないが、ゴブリンやオークなんかは普通に逃げるのではないだろうか。あの二種類は弱く、強さそのものはスケルトンソルジャーと大差ない。

 そうなると、二層ならオーガかマンティスが次の相手ということになるのか。


「こういう、練習用の魔物が一体で広い場所に出てくれるのは助かるな。なんでこんな良い場所がこんなに空いてるんだか」

「みんな職業探索者だから、稼げない場所に用がないんだろう」


 ていうか、別に練習用というわけでもないだろうし。


「プレイヤースキルを上げるのが、一番安定に寄与するんだがな……。まあ、いい。今日は一日、こいつ相手に戦闘訓練をして、戦闘勘を養うことにするよ。私はそれほど戦闘の経験があるわけでもないからな」

「わかった」


 その後、城の中を一定間隔で徘徊しているボーンナイトを討伐してまわった。


 ジャンヌの戦い方は手堅く、盾で身を守りながら、シールドバッシュで相手の体勢を崩して一撃を入れるというもの。

 攻撃特化で派手だったリフレイアと比べると地味だが、探索者としては圧倒的に正しい気がする戦い方だった。

 とはいえ、ジャンヌは腕力がすごいからか、攻撃一つ一つが重い。


「盾」「槍」「斧」「剣」


 一声ごとに、ジャンヌの剣閃がボーンナイトの腕を斬り飛ばし、装備を剥がしていく。

 最後に、首を切り落とせば終わりだ。


「なんか、楽勝じゃないか? やっぱ2層行く?」

「いや、まだ余裕がない。下の階層に降りる前に、こいつを一撃で倒せるようにはなっておきたい」

「そうか」


 人型の魔物はそれなりに出現する。

 2層はほとんど全部人型だし、3層にも4層にも出る。

 ジャンヌはギルドでちゃんと予習をしていたから、人型と戦う感触を確かめたいのだろう。

 ほとんど休むことなく、連続して戦闘を続けていく。


「……よし。だいたいわかってきたな。クロ、私は今日はずっとこれを繰り返す。お前も今日は別行動でもいいぞ? ずっと見ているだけは退屈だろう。こちらは、索敵にグレフルちゃんがいてくれれば問題ない」

「なら、ちょっと俺も2層で感覚戻してくるよ」


 ジャンヌのストイックさを見ていたら、俺もがんばらないと足を引っ張ってしまうような気がしてきた。

 彼女は結界石も持っているし、フルーもついているから大丈夫だろう。


 外に出る時間だけ決めて、俺は2層へ向かう。

 ダークネスフォグを展開せずに走ってみると、なるほど、確かに魔物が寄ってくる感じがある。ジャンヌといる間は、魔物が寄ってこなかったから、明確に差がある。


「ダークネスフォグ」


 闇を纏い、2層への階段までを駆ける。


(本当に久しぶりだ)


 考えてみたら、リフレイアといる間は、ほとんど彼女と潜っていたわけで、一人で2層の魔物と戦うのはかなり久しぶりということになる。

 格好付けたわけじゃないが、一人で2層に降りておいて、勝手に死んだら笑い話にもならない。

 慎重にいくか。

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