108 精霊達の声を聞いて、そして棺に閉じ込めて
「リフレイア。もう一発だけ、いけるか?」
「うん、あと一発なら……いけると思う」
リフレイアはそう答えたが。正直、彼女の精霊力は限界に見える。
もう今日だけで何発かのライトを使っている上に、新しい術は消費精霊力も大きそうだ。
そして、精霊力ポーションはない。
クリスタルもポイントも使用不可だ。
「アレックス! 精霊力ポーション持ってないか? それかクリスタルがあるなら、交換でもいい。後で必ず返すから!」
「悪い! もう全部使っちまった! ジャルに渡した分で最後だ!」
「他に持っている人はいないか!?」
後衛の精霊術士たちも揃って首を横に振った。
精霊力ポーションは高級品。これは仕方が無い結果だろう。
リフレイアがなけなしの力を振り絞って、精霊力を手のひらへと集中させる。
精霊術は、契約により彼らの力を借りて術という形で、その力を発現させる――そういうものだ。
しかし、その精霊力そのものは、自分自身のものを使わなければならない。だから、人間が使える精霊術の回数には限界があるのだ。
「うっ……くっ……」
リフレイアの手のひらに集まる輝きは、力なく明滅している。
フォトンレイは、長距離攻撃が可能な上に速度もあり、なにより威力が高い。
かなりの精霊力を使う術なのだろう。
どうみても、もう一発撃つ力は彼女の中に残っていない。
……ならば。
外から持ってくるしかない。
「精霊たち! リフレイアを助けてやってくれ! 魔王を撃つ!」
「ひ、ヒカル……? なにを言って……?」
「精霊たちには意思があるんだよ。呼びかければ手伝ってくれるかもしれない」
俺は精霊達に語りかけた。
地球では、当然感じることなどできなかった精霊たちのざわめき。
その手触りとでもいうようなものが、この世界では確かに感じられるのだ。
「頼む! お前達に意思があるのなら、今だけ力を貸してくれ!」
――きゃっきゃ
――怖いのやっつけるの? やっつけてね
――うふふ
声が聞こえた。
周囲に光の精霊が集まってきているのを感じる。
うっすらと、瞬く光の粒が浮遊しているのが見える。
これが光の精霊なのだろうか。
「リフレイア、見えるか? 光の精霊達が応援に来てるぞ。どうやら魔王は精霊とは敵対関係にある存在らしい」
「えっ、光の精霊……? 愛され者じゃないから、私……見えない」
これが見えないのか。
だが、光の精霊達がリフレイアに力を貸したがっているのは確かだ。
だが、リフレイアの手のひらに集まる光は、未だ明滅を繰り返し術が発動するには足りていない。
俺は、手を伸ばし額に汗を滲ませるリフレイアに後ろから抱き付くようにして、手首を握った。
「え、ちょ、ちょっと、ヒカル……?」
「リフレイア。精霊達が力を貸したがってる。よく、狙って。精霊たちの声を聞いて」
精霊の寵愛というギフト。
この世界では「愛され者」と呼ぶようだが、俺は前にも精霊たちに力を借りたことがある。あの森で精霊力を失い死にかけた時、彼らから力を借りることで「クリエイト・アンデッド」の術を行使し、難を逃れることができたのだ。
おそらく、寵愛がある者だけが、直接精霊から力を借りることができるのだろう。
だが――
――うふふ
――怖い子は悪い子だから
――やっつけてね
――わたしたちをつかって
――ひかりの子たちあつまって
「えっ……? 聞こえる……。これが精霊の声……?」
どうやら、俺を通すことでリフレイアにも彼らの声が届いたようだ。
「不思議な声だろ」
「うん。すぐ近くから聞こえるような、ずっと遠くから聞こえるような……。それに……感じます。精霊力が身体に入ってくるのが……、本当に精霊達が私に力を……?」
「そうだよ。リフレイアに魔王を倒して欲しいってさ」
俺の体を通して、彼女に力が移っていくのを感じる。
そして、同時にフォトンレイの光は、さきほどのものとは比べられないほど、眩く大きく成長していく。
「ひっ、ヒカル……! 感じる、感じます。私にも! 精霊たちが力を貸してくれているのを!」
「どうやら、よほど精霊達は魔王が嫌いなようだな」
キラキラと輝く粒子が、リフレイアの下に集まり、巨大な光の塊を形成していく。
最初に使ったフォトンレイとは比べものにならない大きさ。
「グゥアオオ!」
空を悠々と飛び、おそらくは体力を回復させていた魔王が、地上の異変に気付いたのか、急速に方向を変え、こちらに突進する構えを見せた。
「魔王はこの光が気に入らないようだ。ちょうどこっちに向かってくる。狙えるか?」
「うん。任せて。絶対外さない」
鋭利なナイフのような牙を剥きだし、空中を滑り降りるようにして、こちらへと迫る魔王。
裂帛の咆吼を響かせ、真っ正面に立つ俺達はその|音声(おんじょう)に物理的な圧すら感じていた。
だが、リフレイアの手のひらに集まった輝きは、その恐怖を押し返すに足るだけの頼もしさがあった。
俺は、リフレイアの攻撃とは別に、魔王との距離、速度、そしてタイミングを測る。
「穿て! フォトンレイ!」
ドウッ、と発射音すら聞こえるほどの勢いで、巨大な光球は解き放たれ、一条の光線となり、真っ直ぐに突っ込んでくる魔王に命中した。
狼の顔面の右頬から入った光線がそのまま貫通し、右の翼を付け根から切断、左の翼もその半分を切り裂いた。
「グォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
翼を失い、錐揉み状態になりながらこちらに向けて墜落してくる魔王。
このままでは、俺とリフレイアに激突するだろう。
――このままなら。
「ダークコフィン!」
俺達のすぐ手前に、暗黒の棺を発生させる。
それは、地獄が顕現したかのような深い深い暗黒。ハッキリと輪郭をもった正20面体の闇だった。
空から墜落してきた勢いのまま迫る魔王が、その闇の中に吸い込まれていく。
「グゥアオオオオオオオォォォォ………………」
棺の扉が閉じる。
そして、その後には静寂が訪れた。
「えっ、えっ? 魔王は……? あの中に閉じ込めたんですか?」
「ああ。だが……この術はバインドとは違って、完全拘束する為だけの術みたいだ」
その代わり拘束力は強い。だから、このまま拘束を続けてもいい。術が生きている間は、魔王から攻撃されることもないし、時間だって稼げる。
だが、身体から抜け続ける精霊力はダークネスフォグの比にならない凄まじさで、おそらく10分ほどで俺の精霊力は尽きる。
棺の中に拘束された魔物を、外側から攻撃する手段はない。
――たった一つの例外を除いて。
俺はそれを術者の直感で知っていた。
「ちょっと行ってくる」
「えっ、ちょっと、ヒカル!?」
「――ダークネスフォグ!」
闇を広げ、短刀を握りしめて走る――
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