104 合流、そして血戦

 途中何度か魔物と戦闘になったが、比較的すぐに入り口まで辿り着いた。

 ……そこはすでに地獄と化していた。


(戦えているのは、アレックスたちだけか……!)

 

 見たところ、元々入り口を護っていたパーティーの戦士たちは、傷付き、階段のところまで後退。すでに戦線を離脱しているようだ。

 ジャジャルダンたち水の精霊術士が必死に回復術を使っているが、死なない程度に回復するのが精一杯だろう。

 二層への昇り階段の手前では、ポーターらしき少年が半べそをかきながら角笛を鳴らし続けている。


 魔王はアレックスとカニベールがなんとか押し留めている。

 しかし、魔王はなぜこっちの方角へ来たのか。

 やはり、迷宮の外に出たがる習性があるのか、それともアレックスたちを追いかけた結果なのか。


「リフレイア。基本はさっきと同じ、俺が闇で魔王の動きを止めるから、ディスペルを使ったらライト、そしたら術が効いてる間だけ攻撃して離脱。わかるな?」

「うん。でも、それで倒せるかな」

「あー、例の視聴率レースのことは忘れてくれ。倒せるかどうかは関係ないから。大事なのは生き残ることだけだよ」

「そうなの?」

「最初からそうだって。生き残ることより大事なことなんてないさ。リフレイアは、アレックスたちと合流して、攻撃方法を教えてやってくれ。俺は単独で動く」

「わかった! ヒカルも気をつけてね!」


 リフレイアがアレックスたちと合流。

 俺も、短剣を抜き戦闘に参加する。


「アレックス、加勢するぞ! ダークネスフォグ!」


 俺とアレックスは位置的に魔王を挟んで反対側にいる。

 挟撃もいいが、攻撃よりも時間を稼ぎたい。

 三層に散った他の探索者パーティーが、角笛を聞いて駆け付けるまで魔王を押し留められればいいのだ。角笛のフレーズこそめちゃくちゃだが、耳を澄ませば入り口付近だとはわかるはずだ。

 時間を稼いでいる間に前半組のパーティーが来てくれれば最高だ。


 闇の中で右往左往する魔王マルコシアス。

 事前にリフレイアはダークネスフォグの外側を回って、アレックスと合流している。


「サモン・ナイトバグ! ファントムウォリアー! シャドウバインド!」


 どれも時間稼ぎにしかならないが、逆に言えば時間稼ぎにはなる術だ。

 火力不足でも、やりようはあるのだ。

 この時間で、アレックス達も体勢を立て直すことができるだろう。


 魔王が闇の中で唸り声をあげる。

 細かいステップを踏み、見えないところから攻撃されることを警戒しているようだ。

 これで、ひとまず時間が稼げる。


 俺は闇の範囲を広げたまま、アレックスとカニベールと合流。

 確認したかったことを訊いた。


「ちょっといいか」

「うわっ!? びびった。この声、ヒカルか? すげぇ術だな。闇の精霊術ってやつだろこれ」

「ああ。そんなことより、魔王は階層の移動はすぐにできないんじゃなかったのか? 二層に逃げれば、やつはここで足止めできるだろ」


 前情報では、魔王は階層の移動に時間が掛かるということだった。

 つまり、俺達が全員で二層へ逃げれば、魔王は上がって来られない……はず。


「あ~、どうなんだっけ? カニベール」

「それなぁ。俺も見たことはねぇけど、無理らしいぞ。魔王は周りに魔物しかいなければ、魔物を食ったりしながら力を蓄えてから上にあがってくるんだけどよ。今みたいな状況じゃ、普通にそのまま上がってくるらしい」

「そうなのか」

「ああ。後退したあげく負けて、魔王が表まで出てきたなんてことになったら、俺達全員ヘタしたら縛り首よ。だから、相当ヤベぇけど、ここで押しとどめるっきゃねぇんだわ」


 赤髪のカニベールが質問に答えてくれた。

 やはり「魔王からは逃げられない」ということらしい。

 

「ジワジワ後退するのはどうだ?」

「上にあげたら進化しちまうだろ?」

「進化……するのか? 力を溜めてなくても?」

「そこは魔王によるらしいけどな。でも、上にあげれば混沌を増すのだけは確かだ。ただでさえ厄介なのに、これ以上はゴメンだぜ」


 状況はかなり厳しいと言わざるを得ないが、最悪というわけでもない。角笛の音を聴いて、そのうち三層に散ったパーティーが駆け付けてくれるだろうし、時間を稼げば前半組だって合流するはずだからだ。


 俺はカニベールたちから別れ、ちょうどバインドの効果が消滅したのを見て、もう一度魔王にシャドウバインドをかけた。

 一瞬のバインドでも、時間稼ぎには有効だ。

 ファントムウォリアーとナイトバグも悪くない。

 攪乱用の術だが、足止めには最高である。


 そして、俺自身も魔王の動きに慣れてきた。

 闇に閉じ込めると、しばらくはあっちこっちと獲物を探し回る。それが無駄だと悟るとディスペルで術を解除してくる。

 とりあえずはそのパターンだ。


「ライト!」


 闇が消し去られた瞬間を狙って、リフレイアがライトの術を放つ。

 漆黒の闇の中で最大限に見開かれた瞳孔を焼く一撃は、魔王に対しても有効で、十数秒もの間、ほぼ無力化できるほどだ。


 リフレイア、アレックス、カニベールの三人による一斉攻撃。


(やはり硬いか!)


 リフレイアほどでなくても、アレックスとカニベールの武器も大きく、本人たちの体格の良さもあり十分威力がありそうだ。

 しかも、最初の2撃はほぼ無防備に攻撃を当てることが可能という状況。にも関わらず、致命傷にはまだほど遠い。

 攻撃自体は通っているのだ。何度も繰り返せばいずれ倒せるのだろうが、問題はリフレイアの精霊力だ。おそらく、ライトの術はもう何度も使えないだろう。

 俺はポイントを前借りしたから、精霊力ポーションを交換で得ることができない。


 その後は、ダークネスフォグでもう一度闇の中に放り込み、ディスペルされたらライトから一斉攻撃。闇と光の必勝パターンと言えた。


 ただ、この作戦には穴が三つある。

 一つは、|恐怖(フィアー)の術で周囲にいる人間がスタンさせられてしまう可能性があること。

 もう一つは、リフレイアの精霊力が切れるまで限定のコンボであるということ。

 そして最後の一つはこれだ。


「グゥアオオオオーン!」


 闇の中でも構わず翼を広げ、空へ浮き上がり逃れる魔王。

 空中を飛び回る魔物に対して、こちらは痛撃を与える手段がないのだ。


「みんな! ファイアブレスと空からの突進には気をつけろ!」

「おうっ!」

「わかってる! ヒカルも気をつけて!」


 アレックスたちは、なかなか練度が高い。

 精霊術のサポートがあれば、突進は躱せるだろう。

 問題はファイアブレスだ。


「ジャジャルダン! ファイアブレスが来たら、シールドを張ってくれ! できるか?」

「うっ、うん。アレックスが精霊力ポーションくれたから、五回くらいは大丈夫!」


 ジャジャルダンは、一度ファイアブレスを術で防いでいる。あれはタイミングが難しそうだったが、やれるということは、見た目の頼りなさとは裏腹に、かなり練度が高い術師なのだ。

 ファイアブレスは攻撃手段の一つでしかないが、その一つだけでも対策ができているというのは、戦闘の上でとても重要なことである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る