005 白い部屋、そしてスキルデザイン

「う……。うん……?」


 どれくらい眠っていたのか。

 朦朧もうろうとする意識を覚醒させ、俺は目を開いた。


 白い部屋だった。

 扉のない、シミひとつない真っ白な部屋。

 俺は白い病人服のようなものを着せられて、床に横たわっている。


「生きているのか……? 病院……?」


 病室にしてはベッドすらない。

 デスクと椅子があり、デスクの上にはパソコンのようなものが置かれている。


「傷は……」


 反射的に背中へと手を回したが、傷口らしきものはない。あるいは、鈍器で殴られただけで、刺し傷なんかは最初からなかったのだろうか。

 いずれにせよ――生きている。


「…………いや、死後の世界……なのか?」


 そう考えたほうが自然だ。


「……死んだ……いや、殺されたんだったな。ナナミと同じように……。ナナミ……」


 フラッシュバックのように、つい先ほどの記憶が蘇ってくる。

 自分が殺されたことより、ナナミが殺されたことの実感が重く心にのし掛かる。

 こんな不思議な部屋にいる異常性よりも、幼馴染みが死んだ、そのことが悲しく、苦しい。


「全部夢だった……とか。なわけないか……」


 こんな不思議な場所にあって、それでもあれが現実であったことだけは、間違いがないと断言できた。

 ナナミの部屋の匂いを上書きする血の臭い。

 あんなにコロコロと表情を変えていたナナミの、命の線がプッツリと切れて置物のようになってしまった姿。


「ぐっ……ふぐっ……」


 涙が溢れた。

 ナナミが殺されたことが悲しいのか、自分が殺されたことが悲しいのか、あるいはその両方なのか。

 言語化できない初めての感情に支配されて、しばらく起き上がることができなかった。


 なぜ、殺されなければならなかったのか。

 それこそ、虫も殺したことがないようなナナミが。


 なぜ――なぜ――なぜ――

 ナナミが異世界なんて行きたくないと泣いたこと。

 犯人が名前も知らない同級生だったこと。

 なぜか俺はこんなところにいるということ。

 頭の中がぐちゃぐちゃだった。


 悲しみが、疑問が、憤懣が、頭のなかを這い回り、しばらく俺はうずくまって動けずにいた。

 どれくらいの時間そうしていたのか、時間の感覚がなく、わからない。

 誰かが部屋に来ることもない。


 枯れ切るほどの涙を流した俺は、ふらふらと立ち上がり、部屋にぽつんとおいてあるパソコンの画面を見た。

 そこに表示されていた文字列は、俺の頭を冷やすには十分すぎるものだった。


「……嘘、だろ……」


 そこには、こうあった。


『あなたは異世界転移者に選ばれました。ボーナスポイントの割り振りを完了させ、異世界へ旅立ちましょう』


 ――どうやら俺の人生はまだ続くらしい。


 ◇◆◆◆◇


「なんで……。なんで俺が選ばれたんだ……?」


 ナナミの権利が一番近くにいた俺に移ったということなのだろうか?

 いや……その説は否定されているはずだ。

 どこかの国で転移者が殺された時、その人の代わりにまったく別の国の面識もない者が選ばれていた。つまり、転移者が死ねば、再び抽選が行われるだけ。

 もちろん、ナナミが死んで再抽選が行われた結果、偶然俺が選ばれた可能性もゼロではないのだろうが……その場合の確率は70億分の1ほど。ゼロと言い切っていい数字だし、そもそも俺は、それ以前に死んだはずである。

 背中から刺されて意識を失ったとき、転移予定時間のたっぷり1時間は前だった。あれから1時間も生き長らえていたとは考えにくい。

 ナナミとは関係ない別の誰かがどこかで死んで、その分の再抽選に引っかかったという可能性もあるにはあるが……。


「……もしかしたらナナミも今頃別の部屋にいるのかも」


 死んだはずの俺がここにいるのだから、その可能性はある。

 だって、異世界転移を行っているのは神様なんだから。文字通り本物の神。

 あの時死んでいたナナミは、あっちの世界へ移った後の抜け殻で、本物はもうとっくに異世界で元気に転生している――


 あるいは、ナナミもまだ生きていた可能性だってある。

 脈を測ったわけじゃないし、案外、死んだように見えていただけかも。

 人間は意外と簡単には死なないと何かで読んだ記憶もある。

 それに、意識を失う寸前、神様に祈った。

 神が俺の願いを聞き入れてくれて、理不尽な死から俺とナナミを救い出してくれたのではないか。


 それが甘い希望だと知りながら、それでも俺はその可能性に縋りたかった。

 俺もナナミも殺されておらず、二人で異世界を冒険する――

 それならばどれだけ楽しいことだろう。


 両頬を叩き、マウスを手に取った。

 そうと決めれば、どうあっても生き抜いてナナミと再会してやろう。

 

 気持ちを作って画面を見た、その瞬間。

 ポーンと気の抜けた音が響き、画面にメッセージが表示された。


『転移まで、残り3分です』


「えっ」


 よく見ると画面の右上にタイマーがあり、ゆっくりとその数字を減らしていた。

 おそらく――いや、確実に、俺がこの場所に来た瞬間からタイマーはスタートしていたのだろう。


「たった3分じゃ――」


 とにかくゆっくり選ぶ時間はない。

 直感でまず選んで時間があったら調整――それくらいしかできなそうだ。

 迷うだけでほとんど選べず転移するのだけは避けなければならない。


『スキルポイントを割り振って下さい。あなたの総ボーナスポイントは73です』


「73ポイントか」


 よくわからないけれど、多いように感じる。意外なほど。


 このポイントというものに関して、事前情報はあまり多くなかった。

 分かっているのは、24歳を最小としてV字を描く形で、初期ポイント値が決まっているらしいということ。

 つまり若さという「可能性」よりも、現時点での「経験」や「肉体的な成熟」を神は重視していると言い換えてもいいのかもしれない。


 神によると、効果が高い能力ほど、多くのポイントを必要とするという話だったが……。


 いずれにせよ、時間がない。早くポイントを割り振らなければ。


――――――――――――――――――――

・名前:黒瀬ヒカル

・年齢:15歳 ▼

・性別:男 


・特殊能力 ▼

・身体能力 ▼

・耐性 ▼

・精霊術 ▼

・アイテム ▼

・転移ポイント ▼

・不利な要素 ▼


 残りボーナスポイント 73p

――――――――――――――――――――


 意外なほどシンプルだ。

 これなら3分間しかなくても、ちゃんと選べるかもしれない。


 それぞれの場所にカーソルを合わせると説明が出た。

 例えば、特殊能力の場所では、『人知を超えた特別な力』と出た。

 ざっくりだが、それも神の意図なのかもしれない。

 それぞれざっと見てみる。

 まず年齢だが、驚くべき事に変更が可能だ。

 ▼マークをクリックすると、ウインドウが開く。年齢をプラスすることでポイントが得られ、またポイントを消費することで年齢を減らすこと(つまり若返るってことだ!)が可能であるらしい。

 自分は今15歳。

 状況次第では、年齢を少しだけプラスしてポイントを増やすのもいいかもしれない。


 次に、特殊能力のウィンドウを開く。


「うっ……! こんなに消費ポイント高いのか」


――――――――――――――――――――

●特殊能力


・勇気 20p

 困難や恐怖に立ち向かい、前に進む力を得る。


・超集中 30p

 寝食を忘れて集中できるようになる。


・気配察知 15p

 生物の気配に気づくことができるようになる。


・暗視 15p

 ほとんど光がない場所でも見えるようになる。


・直感 20p

 なんとなく有利になる選択肢を選ぶことができる。


・無呼吸活動 10p

 呼吸なしで二分間の全力行動ができるようになる。

 訓練すれば潜水で十五分程度潜っていられる。


・広視界 10p

 人間ではありえないような広い視野を持つ。 


・意思疎通 30p

 動物と意思が通じ合えるようになる。


・精霊の寵愛 30p

 すべての精霊があなたを愛するようになる。


・魅了 50p

 気になる人に好かれる体質になる。

 

・異世界言語 0p▼

 転移場所周辺の共用語の読み書きができるようになる。

―――――――――――――――――――


 確かにどれも有用そうではあるが、表現が曖昧というかピンとこない。

 例えば、勇気とか気配察知とか、どの程度のものなのかによっても違ってくる。勇気だと思ったら無謀なだけだったとか笑い話にもならないし、気配察知もかなり近くまで敵が来てから気付く程度なら意味がない。

 ちなみに異世界言語の▼を開くと「選択中:なしを選ぶ場合はプラス20p」と出た。言葉が通じなくなるのは完全に地雷だ。これだけは選べない。


 ちらっと時間を見ると、すでに1分経過している。

 迷っている時間はない。

 俺は一瞬考えてから、「暗視」と「精霊の寵愛」を選択した。

 二つで45ポイントで、残りが一気に減り28ポイントになるが、この二つは明らかに努力でどうにかなる要素ではない。

 なにより、直感的に有用と俺は判断した。


 本来なら、もっと慎重に選びたいところだが、今は時間がない。

 下の妹が『この手のゲームでは、基本的に高ポイントのものを取るのが無難。それと、たぶん必要ポイントは少ないけれど、かなり有用な能力がいくつかあるはずだから、それも忘れずチョイスすべき』と言ってたのを思い出したというのもある。

 根拠があるんだかないんだか分からない話だが、うちの妹は本物の天才だ。

 信用してもいいだろう。

 

 次に身体能力の項目を開く。


―――――――――――――――――――――――――

●身体能力

 精霊力由来の身体能力アップ

・体力アップ レベル1~5 5/7/10/15/20

・生命力アップ レベル1~5 5/7/10/15/20

・精霊力アップ レベル1~5 5/7/10/15/20

・視力アップ レベル1~3  3/7/10

・聴力アップ レベル1~3 3/7/10

・嗅覚アップ レベル1~3 1/3/5

・味覚アップ レベル1~3 1/3/5

―――――――――――――――――――――――――


 右側の数字がレベル毎の消費ポイントのようだ。

 つまり体力アップのレベル3を選択するなら、10ポイント消費するということ。


 体力アップの注釈を読む。

『レベル1で2倍、レベル3で5倍、レベル5は10倍の力を得る。腕力や体力、総合的な「力」。肉弾戦で戦うつもりなら推奨。そうでなくても、人間の基本となる力の一つなので、これと生命力はレベル1ずつでも取っておくとよい』とのことだ。


 生命力アップの説明は。

『生命力は数字では表しがたい、死ににくさや持久力、精神力も含めた頑強さを表す。ゲーム的な要素でいうとHPに相当。死にたくない人は上げておいて損はない』と出た。

 精神力も含めるってのは知らない世界で活動するのに、かなりのアドバンテージになりそうだ。


 そして、我々にとって未知の力である精霊力アップはこう。

『精霊力は精霊術使用時に消費する力。精霊力を体内に宿しておける総量がアップする。もともと体内に取り込んでおける精霊力は個々人によって違うため、簡単には定量化できないが、精霊術を使うのであれば、精霊力アップはあったほうが良いはずだ』


 わかりにくいが、個々人によって精霊力が違うとなると、元のMPが低い人は上げても微妙……ってことなのかもしれない。


 精霊力は夢はあるが確実性の高い体力や生命力にポイントを振ったほうが良さそうだ。

 説明を読むのが意外と時間がかかる。

 残り1分半。

 いずれにせよ、身体能力はおそらく「後から強化できる」可能性が高い。異世界特有のレベルアップとかそういうので。となると、最初に選ぶべきかどうかは考慮すべきだろう。


 俺は、割り振る前に耐性を見ることにした。

 なにせ、耐性は後天的に得られないか、得るのに苦労するだろうから。


―――――――――――――――――――――――――

●耐性

・毒耐性 レベル1~3 レベル3で毒無効 3/7/10

・病気耐性 レベル1~3 レベル3で病気無効 1/3/5

・老化耐性 レベル1~5 

レベル5で不老 レべル3で老化速度1/2 3/5/7/10/15

・自然回復力アップ(傷) レベル1~5 3/5/7/10/15

・自然回復力アップ(精霊力) レベル1~5 3/5/7/10/15

―――――――――――――――――――――――――


「不老のコストが安い!」


 これが妹のカレンが言っていた『必要ポイントは少ないが有用な能力』というやつかもしれない。


 とにかく、他のあれこれが霞むほど必要ポイントが低い。

 俺の残りポイントでも、余裕でレベル5が取得できてしまう。

 病気耐性が妙に安いのも、転移者が病気で死んでも面白くないからとか、そんな理由だろう。あるいは、病気が少ない世界か。

 自然回復力アップ、特に傷のほうは有用だろうと思うが、これも程度によるだろうか。例えば、レベル5を取れば致命傷でもしばらくしたら完治するというのなら、取得する意義があるが、ちょっと傷の治りが早いという程度なら微妙かもしれない。


「ここは迷う必要ないだろ」


 俺は、老化耐性レベル3(7ポイント)と、病気耐性レベル2(3ポイント)を取得した。そして、すぐに年齢の欄を開き、自分の年齢を15歳から17歳に引き上げる。

 二歳プラスしたことで、ポイントが6プラスされる。

 老化耐性レベル3を取ることで、寿命が倍になるのだからこの取引は、かなり得だ。

 ちなみに不老を取るほどの覚悟はない。


 これで、残り24ポイント。


 残り時間はかなり厳しいが、精霊術の欄も見ておく。


『精霊術はどれか一つだけが取得できます。どれもそれぞれに役に立ちます。攻撃手段がないのは回復魔法だけで、精霊術は一つしか契約できない代わりに、あまりピーキーな性能ではありません』


―――――――――――――――――――――――――

●精霊術

・火の精霊術  10ポイント

・水の精霊術  10ポイント

・風の精霊術  10ポイント

・土の精霊術  10ポイント

・光の精霊術  10ポイント

・闇の精霊術  10ポイント

●魔法

・回復魔法   50ポイント

―――――――――――――――――――――――――


「50ポイントって」

 回復魔法だけが「魔法」だ。なにが違うのかわからないが、レア度が違うのかもしれない。10ポイントというと、今まで見てきた中では、わりと普通な消費量だ。

例えば、精霊術は向こうでも取得可能だけど、回復魔法はかなり難しいか、あるいは不可能なのだろう。

 ……いずれにしろ50ポイントは無理だ。


「アイテムはどうだ」


―――――――――――――――――――――――――

●アイテム

・転移者オススメ基本アイテム詰め合わせ 10ポイント

《・お金(中) ・各回復ポーション詰め合わせ ・初心者用『術』スクロールパック(「火槍」×1 「風刃」×1 「土壁」×1 「水癒」×1 「幻光」×1 「闇霧」×1 「小癒」×3 「中癒」×2 「大癒」×1 「解呪」×1 「恐怖」×1 「小転移」×1) ・応急処置セット ・周辺地図 ・世界地図 ・コンパス 冒険者装備一式(シャツ・外套・パンツ・ベルト・下着×3・靴下×3・ブーツ・帽子・革手袋・革の胸当て・ショートソード・ショートスピア) ・ノート ・筆記用具セット ・食料3日分(弁当箱・水筒) ・長期保存携行食セット ・食器セット ・タオル×5 ・ハンカチ×5 ポケットティッシュ×10 ・ナイフ ・毛布 ・ランタン ・オイル ・マッチ ・手鏡 ・携行用スコップ ・リュックサック ・ベルトポーチ ・ナイロンロープ ・針金 ・布テープ ・ソーイングセット ・麻袋×2 ・各精霊石×1》


 基本パックでしか手に入らないアイテムもあるので、取らない場合は慎重に。

―――――――――――――――――――――――――


「なるほど、さすがに裸一貫てわけにはいかないもんな。っていうか、基本パックなしだと、今のこの病人服のままってこと?」


 ハードモードすぎる。だって裸足だよ?

 でも10ポイントは重い。残り24ポイントしかないのだ。

 街でスタートするなら、冒険者パックなどより、単純に服とお金があればいい。

 たぶん、一つ一つ交換するよりもお得なセットということなのだろうが、それでも10ポイントは重いのだ。


 基本パックの下には、多種多様なアイテムが並んでいて、好きなものと交換可能のようだ。

 ざっと流し読みしてみたが、武器に防具、道具類に魔法の巻物、ポーションの類、地図に鞄、さらにはお金までもポイントから交換できる。

 武器や防具も種類こそ多くないが、転移者のサイズに合わせた品と交換できるらしい。

 魔法の剣や鎧もあったが、どれもこれも10ポイント台であり、到底交換できそうもない。

 いずれにせよ、少ないポイントで交換するものなら後から交換したほうが良いだろう。


「残りポイントで、服とお金。後は全部体力アップと生命力アップに注ぎ込んでフィニッシュだな」

 

 タイマーの残り時間は40秒しか残っていないが、なんとかなりそうだった。

 一応、確認しておく為に「転移ポイント選択」を開く。


―――――――――――――――――――――――――

●転移ポイント選択

・比較的安全な場所に転移 27ポイント

 危険が少ない人間によってある程度開拓された場所。すぐ近くに人里がある。


・安全な場所に転移 30ポイント

 危険な野生動物はほぼ駆逐された場所。目の前に街がある。


・ランダム転移 0ポイント (デフォルトではランダム転移が選択されています)

 どこに飛ぶかわからないが、海上や溶岩や巨大な森のど真ん中などの即死級な場所には飛ばされない。ただし、よほど運が良くなければかなり危険。

 幸運な者ならば、人里の近くに飛ぶ可能性もある。

 序盤のお笑い枠。非推奨。

 ―――――――――――――――――――――――――            


「え……えっ!?」


 一瞬、何が書いてあるのか理解できなかった。

 やけに高ポイントのものが二つあるな? のんきにそう考えてしまった。

 そして二度読んで、理解した。

 デフォルトがランダム転移だ。

 こんな罠が張られているなんて――


「残りのポイントは!?」


 残りポイントは24。

『比較的安全な場所に転移』ですら足りない。

 振り直さなければ、このままランダムで異世界転移されてしまう。


 そういえば、世界中の人間がリアルタイム視聴するのだった。

 神がこういう遊び心を用意している可能性を考えるべきだった。


「ヤバいヤバいヤバい! どれでもいいから消して振り直さなきゃ――」


 この時、俺は完全にパニックに陥っていた。

 落ち着いて操作すれば、間に合っていたはずだ。

 なのに、自分が何にポイントを振ったのかも忘れて『身体能力』の欄を開いてしまったのだ。


「あっ!? あれ? どれにポイント振ったっけ? 確か、体力と生命力に――」


 勘違いは一瞬と言ってもいい時間でしかなかった。

 まだ身体能力には振っていないと、すぐに気付いた。

 ロスは5秒程度だっただろう。

 ――しかし、その5秒が致命的だったのだ。


 すぐ「身体能力」を閉じ、「特殊能力」を開き直す。

 暗視を消して、すぐに転移場所の欄を開けば――


 視界の端に映る、残り一桁に割り込んだ時間。

 一つ能力を消して、一つ増やす。

 それに間に合わなかったら、無意味に特殊能力だけを失う。

 そう脳裏に過った瞬間、俺はマウスを動かす手を止めてしまった。

 タイマーの数字は、冷酷なほどの鋭さでゼロへと到達した。


『転移時間となりました。ポイントに残りがある場合は、転移後にビルドを再開できます。一部の能力は転移後には選択できません』


 画面が少し薄暗くなり、メッセージが無慈悲に表示された。

 そしてそのままPCはフリーズしたように、なにも応答せず、ただ「転移まであと30秒」という文字が刻まれている。


「……73ポイントが多いと感じた直感をもっと大事にするべきだったんだな」


 ランダムに転移されるという事実に、全身から血の気が引いていく。


「確か途中で振り直しをするために切り上げたから、残り24ポイントはあるってことか……?」


 転移してからでもポイント交換できるのは、不幸中の幸いというやつだろうか。

 残ったポイントは切り捨てとなっていた可能性だってあったのだから。


 ――いずれにせよ、もう賽は投げられてしまった。


『残り10秒』

『残り5秒』

『1秒』


『それでは、素晴らしき人生を。あなたの幸運を祈ります』


 そうして、俺は眩い光に包まれたのだった。


―――――――――――――――――――――――――

・名前:クロセ・ヒカル

・年齢:15歳 ▽

  加齢 2年  +6p

・性別:男 


・特殊能力 ▽

  暗視  15p

  精霊の寵愛  30p

・身体能力 ▼

・耐性 ▽

  病気耐性:2  3p

  老化耐性:3  7p

・魔法 ▼

・アイテム ▼

・転移ポイント ▽

  ランダム転移  0p

・不利な要素 ▼


 残りボーナスポイント  24p

―――――――――――――――――――――――――

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