第二曲 第五楽章 ソウルレッド 北歌音駅前交差点付近にて
敵幹部と交戦している四人に対する後ろめたさはあるが、今はそんなこと考えてる暇などねえ!
そんなこんなで俺は
早く本物のGの
「誰かああああああああああああああ!!」
微かではあるが、聞き覚えのある声を上げて助けを求めている。路地裏からひょっこり顔を出すと、少年が近距離で巨大G集団に追いかけられていた。
…!?あの人はもしや…
「誰か助けてくれえええええええええええええ!!」
間違いない!
すると風雅の脚が
「怪我は無いか?」
「…ソウルレッド?本当にソウルレッドなの?」
危機一髪で保護したお
「お前!何で危ねー所(トコ)にいんだ!!下手したら命取りになってたぞ!!」
「ごっ…、ごめんなさい…。けど、どうしても宝物を見つけなきゃいけないんだ!」
唐突な怒鳴り声に
「宝物だと?何だそいつは?」
「お父さんから
「何だと!?…て事は、お前の宝物は
「うん…。けどでっかいゴキブリがいっぱい追って来たからずごく怖かった…」
と、風雅は俺の
「そうか、そりゃ怖かったな」
と言って彼の頭をポンと軽く乗せた。
これで原因が解明した。無くしたGの玩具は風雅の父親から貰った宝物。恐らく風雅は常に持ち歩いており、あの時俺等と
その件に関しては俺にも責任がある、一刻も早く見つけ出さなければ…!!と、心に誓った俺は風雅の両肩をがっしりと
「良いか、これから俺は宝物を捜してやるから、お前は安全な場所に隠れてろ」
「俺も一緒に捜す!」
風雅の眼は本気だ。自分が落とした物は自分の手で見つけ出したい様だ。
「…分かった、しっかり
風雅の
所変わって
「怖い…」
「大丈夫だ、俺が付いてる」
風雅が怯えるのも無理は無い。かく言う俺も本音を言えば、この状況の中とても
「ところでお前…いや、お前お前ばっかり言うのも失礼だな。名前は?」
既に知ってるが、今は
「…風雅」
彼は声を落として名乗った。
「風雅、何であの玩具が宝物なんだ?」
ピリリッ
まただ!思い出せそうなのはGだけじゃねえ…。『風雅』と呼んだだけでGとは違う何かが思い出せそうだ…!忘れてる何かがGと風雅…一体何が関係してるんだ…!?
「ソウルレッド?聞いてる?」
風雅の呼ぶ声にはっとした俺は思い出せそうな何かを取り敢えず一旦置いといて彼に耳を傾けた。
「!!すまねえ。んで何だっけ?」
「俺のお父さん、ここ最近になって海外で仕事するようになったんだ。此処からかなり遠いし、帰って来るのは一年に二回くらい。皆みたいにお父さんと一緒に遊園地とか動物園に行きたくても行けないし、授業参観でお母さんが仕事で出られなくなった時なんか、周りの皆は親がいるのに俺だけ独りぼっち。そんな俺にお父さんが海外で買ったお
『生きた化石』か…。風雅の親父も変わった人だな。と、つい思ってしまった。しかし彼もああ見えて意外と
やっと見つけたマンホールの蓋、だがG集団が走る音は絶えない。この場所から出るのは諦めて、別のマンホールの蓋を捜し始めた。この状況の中、風雅はさらに続けた。
「お父さんが言ってた、『例え淋しいことがあっても常に元気で笑顔を忘れちゃいけない』って」
「成程な。けど両親と過ごす時間は少なくても、学校の友達と一緒に遊ぶ事はあるだろ?それで淋しさとか無かった事に出来るんじゃないのか?」
俺はさらに彼の心理を探ると、ここまで表情がキラキラと輝いていた風雅の雲行きが徐々に怪しくなってきた。
「友達なんて…いないよ」
「は?」
「ここに来る前、俺はあちこち引っ越ししてばかりで、友達と呼べる人なんていなかった。新しい町で友達出来たとしてもすぐ離れ離れ。俺が引っ越したら、向こうにいる人はしばらくしたら俺の事なんて忘れる。だったら、いっそのこと友達いらない方が良いんじゃないかと思って…」
その言葉を聞いて俺はふと思い出した。
風雅が此処に引っ越して来てから翌日、近くのスーパーで買い出しを終えた俺は、家路に向かう途中で偶然彼の母親と出逢い、近くの児童公園で少し雑談をした。母親曰く、七年程前から一家は転勤族で此処からだと近距離は埼玉、遠距離だと福岡まで渡っており、以前の風雅は引っ越しを経験しても特に目立った様子は無かったが、最近になって物心が落ち着いた頃には彼の前の学校や友達の話をあまりしなくなったと言う。このままだと今の環境で上手くやっていけるか不安で仕方ないと、涙目になりながら話してくれた母親の顔はしっかりと焼き付いていた。
風雅は更に表情を曇らせながら話を続けた。
「最近あの家に引っ越して来てから近くに住んでる眼鏡のお兄さんや金髪のお兄さん達に宝物を使っていっぱい悪戯をして、いっぱい困らせたたんだ。どうせまたその内引っ越すかも知れないから…」
「『いっそのこと友達いらない方が良い』って、さっき言ったよな?」
「…その台詞、本音か?」
初めて出逢った日から幾多の悪戯を受けて来たが、彼の中にある別れる事への不安、孤独と友達が彼との思い出を忘れてしまう恐怖、それ故に風雅が経験した出会いと別れの中で生じ、友達の作り方や接し方を放棄してしまったのかも知れない。俺等に対する悪戯は無理してでも父との約束を守る為、常に元気且つ笑顔を振りまいていたのだろう。
そんな彼に教えたい、心に決めた俺は口を開いた。
「ふぇ?」
「その言葉が本気なら俺からは口出しすることはしない。けどな、お前の目を見れば
「……」
その台詞が響いたのか、風雅は動揺し始めた。
再び見つけたマンホールの蓋、だが此処もG集団の気配がするので別の場所を捜索した。
俺は再度風雅に大切な事を自分なりに伝えた。
「風雅」
ピリリッ
またこれだ!既に
「ソウルレッド…?大丈夫?頭痛いの?」
風雅が心配そうに俺を見た。
「ああ大丈夫だ。お前は友達の作り方をちょっと間違えてるだけなんだ。初対面でいきなりちょっかいを出したり、悪戯をしたりしてるとお前自身の印象が悪くなって嫌われる可能性が高くなる。そうならないように友達を作りたいというんであれば、少し方法を変えてみるんだ。例えば気になる人に最近自分の周りで起こった出来事や、前に居た場所で経験した事を話題にしたり、好きなゲームやアニメ、
するとまた別のマンホールを見つけた。今度はG集団の気配がしない。この薄暗い空間から脱出しようと蓋を勢い良く
地上に出ると、G集団は遠くでちらほら見かけるものの、この近辺はあまり侵食されていない様だ。周りを見ると、目の前にある
「ふぅ、随分移動したな」
呟きながら全身を穴から抜け出し、後から登って来た風雅を力強く引き
「あのさ…」
「?」
風雅が
「俺…、近くに住んでる眼鏡のお兄さん達にいっぱい悪戯をして困らせちゃったって言ったでしょ?今までの事…謝りたいんだ。けどあの人達、怒ってるかなぁ…」
不安気な彼を見て俺は軽く頭を
「大丈夫だ!あのお兄さん達なら怒ってないからきっと許してくれるはずだ!いや、絶対にお前の事許してくれるさ!」
「本当に…?」
「ああ!この俺が保証する!俺達ソウルジャーはお前の味方だ!」
その台詞が心に響いたのか、風雅は再び笑顔を取り戻した。
「…さてと、状況が悪化する前にさっさと片付けないとな!」
俺と風雅は遊歩道を駆け上がり、真ん中の地点まで移動したが此処からではあまり見えない。
「遠くからだと見えないね」
「ならもう少し高い所へ行こう。しっかり俺に摑まるんだぞ!」
風雅は俺にがっしりと摑まり、俺は抱えながら車道と歩道橋の間にある水門の上へ飛び移った。
事態はさらに深刻化し、北歌音方面からは河川敷を通ってGの集団が押し寄せている。此処もそろそろ危険だ。
「やばいな…、早く本物を見つけないとこの地域も
辺りを見回してもGだらけ。どこもかしこも動きが統一されていて見分けが全くつかない。まさにお手上げ状態だった。
「っあああああああ!全っ然わっかんねえ!!どれが本物なんだよ!!」
「ソウルレッド!あれ見て!」
風雅が頭を抱えている俺に北歌音方面の河川敷を指して教えた。
「あそこの野球場の手前に来てる集団いるでしょ?先頭の真ん中だけ少し変な動きしてない?」
確かによく見ると、押し寄せて来る集団の内、他のGと比べて先頭の真ん中のGだけやや動きが
「あれだ!きっと本物だ!でかしたぞ風雅!」
褒められた風雅はちょっと嬉しそうに頭を
ピリリッ
特定のワードを言う度に段々と頭痛が増してくる。
風雅……ふうが……フウガ……!!
そうか!今まで何故忘れてたんだ!!だったらGも何回か言う度に思い出せるかも知れねえ!!
「分かったぞ!方法が!」
「どうやって止めるの?」
「お?おう、それはな、俺の最大の
と、我に返った俺は再度風雅をしっかり抱えてG集団へと飛び込んだ。
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