第二曲 第五楽章 ソウルレッド 北歌音駅前交差点付近にて

 敵幹部と交戦している四人に対する後ろめたさはあるが、今はそんなこと考えてる暇などねえ!

 そんなこんなで俺は一先ひとまずGの目に付かないであろう狭い裏路地に降り立った。

 早く本物のGの玩具おもちゃを見つけ出さねーと…!…と思っていたが、まずはどうやって見つけ出すかという肝心な部分からだ。正直言って俺はソウルブルーみたいにちゃんとした計画性がある訳でも無く、常にノープランで思い立ったら即行動するタイプだし、今の様に馬鹿デカい害虫共を見たらソウルタクトで一気に消し去ってやりたい。だがいざ攻撃すると町ごと爆散することになる。完全に袋小路、一体どうすれば…!!






 「誰かああああああああああああああ!!」






 微かではあるが、聞き覚えのある声を上げて助けを求めている。路地裏からひょっこり顔を出すと、少年が近距離で巨大G集団に追いかけられていた。

 …!?あの人はもしや…






 「誰か助けてくれえええええええええええええ!!」






 間違いない!風雅ふうがだ!!けど何故なぜ此処ここにいるんだ!?いや、今はそんなことどうでもいい!!とにかく早く助けないと!!

 すると風雅の脚がもつれ、その場で転倒した。迫り来る巨大G集団に怯える彼を見過ごす訳にはいかない!俺は咄嗟とっさに裏路地から飛び出し、ギリギリの所で彼を保護しつつ別の裏路地に避難した。

 「怪我は無いか?」

 「…ソウルレッド?本当にソウルレッドなの?」

 危機一髪で保護したおかげで激しく息を切らす中、風雅は鳩が豆鉄砲を喰らった様な表情で俺を見て言った。ヒーローのとしての俺を知ってると言う事は、一部の人が早くも俺等ソウルジャーの存在が認知されていると言う事だろう。

 「お前!何で危ねー所(トコ)にいんだ!!下手したら命取りになってたぞ!!」

 「ごっ…、ごめんなさい…。けど、どうしても宝物を見つけなきゃいけないんだ!」

 唐突な怒鳴り声に吃驚きっきょうした風雅は、少し声を震わせながら陳謝した。

 「宝物だと?何だそいつは?」

 「お父さんからもらったゴキブリのおもちゃ…」

 「何だと!?…て事は、お前の宝物は何処どこかに落としたから、捜しに来たと言う事か」

 「うん…。けどでっかいゴキブリがいっぱい追って来たからずごく怖かった…」

 と、風雅は俺のふところに顔をうずくめながら抱き着いた。

 「そうか、そりゃ怖かったな」

 と言って彼の頭をポンと軽く乗せた。

 これで原因が解明した。無くしたGの玩具は風雅の父親から貰った宝物。恐らく風雅は常に持ち歩いており、あの時俺等とった際に落としてしまったのだろう。しかもほたるがそれを見つけ拾ったのがあのGの玩具だとすると、ダルジーニがそれを拾って何らかの方法で巨大化、増殖させたのだとすればまさに道理的だ!何てことだ!あの時ちゃんと確認しておくべきだった!

 その件に関しては俺にも責任がある、一刻も早く見つけ出さなければ…!!と、心に誓った俺は風雅の両肩をがっしりとつかんで言った。

 「良いか、これから俺は宝物を捜してやるから、お前は安全な場所に隠れてろ」

 「俺も一緒に捜す!」

 風雅の眼は本気だ。自分が落とした物は自分の手で見つけ出したい様だ。

 「…分かった、しっかりつかまってろよ!」

 風雅のいに応じる事にした俺は、彼を抱えながら改めて本物のGの玩具を捜し始めた。











 所変わって北歌音きたかのん駅近くの踏切付近。俺と風雅は安全な場所を選んだ末、マンホール下から移動した。上から聞こえるG集団の走る音は不気味だ。

 「怖い…」

 「大丈夫だ、俺が付いてる」

 風雅が怯えるのも無理は無い。かく言う俺も本音を言えば、この状況の中とても怖気おぞけがする事は無いと言ったら噓になる。けどそんな事で四の五の言ってる暇など無い。俺は彼を抱きつつ、周囲を気にしながら安全な場所に出られるマンホールのふたを捜す事にした。

 「ところでお前…いや、お前お前ばっかり言うのも失礼だな。名前は?」

 既に知ってるが、今は黒野くろの銀河ぎんがとしてでは無くソウルレッド。黒野銀河とソウルレッドは赤の他人として振舞う為、えて尋ねた。

 「…風雅」

 彼は声を落として名乗った。

 「風雅、何であの玩具が宝物なんだ?」




 ピリリッ




 まただ!思い出せそうなのはGだけじゃねえ…。『風雅』と呼んだだけでGとは違う何かが思い出せそうだ…!忘れてる何かがGと風雅…一体何が関係してるんだ…!?

 「ソウルレッド?聞いてる?」

 風雅の呼ぶ声にはっとした俺は思い出せそうな何かを取り敢えず一旦置いといて彼に耳を傾けた。

 「!!すまねえ。んで何だっけ?」

 「俺のお父さん、ここ最近になって海外で仕事するようになったんだ。此処からかなり遠いし、帰って来るのは一年に二回くらい。皆みたいにお父さんと一緒に遊園地とか動物園に行きたくても行けないし、授業参観でお母さんが仕事で出られなくなった時なんか、周りの皆は親がいるのに俺だけ独りぼっち。そんな俺にお父さんが海外で買ったお土産みやげがあの玩具なんだ。何でこんな物買ったのか不思議に思ってたんだけど、お父さんから『ゴキブリは生きた化石だ』って教えてくれて、『これで人を笑顔に出来るなら友達もいっぱい作れるはずだ』って買ってきてくれたんだ」

 『生きた化石』か…。風雅の親父も変わった人だな。と、つい思ってしまった。しかし彼もああ見えて意外とさびしがり屋だと悟った。

 やっと見つけたマンホールの蓋、だがG集団が走る音は絶えない。この場所から出るのは諦めて、別のマンホールの蓋を捜し始めた。この状況の中、風雅はさらに続けた。

 「お父さんが言ってた、『例え淋しいことがあっても常に元気で笑顔を忘れちゃいけない』って」

 「成程な。けど両親と過ごす時間は少なくても、学校の友達と一緒に遊ぶ事はあるだろ?それで淋しさとか無かった事に出来るんじゃないのか?」

 俺はさらに彼の心理を探ると、ここまで表情がキラキラと輝いていた風雅の雲行きが徐々に怪しくなってきた。

 「友達なんて…いないよ」

 「は?」

 「ここに来る前、俺はあちこち引っ越ししてばかりで、友達と呼べる人なんていなかった。新しい町で友達出来たとしてもすぐ離れ離れ。俺が引っ越したら、向こうにいる人はしばらくしたら俺の事なんて忘れる。だったら、いっそのこと友達いらない方が良いんじゃないかと思って…」

 その言葉を聞いて俺はふと思い出した。






 風雅が此処に引っ越して来てから翌日、近くのスーパーで買い出しを終えた俺は、家路に向かう途中で偶然彼の母親と出逢い、近くの児童公園で少し雑談をした。母親曰く、七年程前から一家は転勤族で此処からだと近距離は埼玉、遠距離だと福岡まで渡っており、以前の風雅は引っ越しを経験しても特に目立った様子は無かったが、最近になって物心が落ち着いた頃には彼の前の学校や友達の話をあまりしなくなったと言う。このままだと今の環境で上手くやっていけるか不安で仕方ないと、涙目になりながら話してくれた母親の顔はしっかりと焼き付いていた。

 風雅は更に表情を曇らせながら話を続けた。

 「最近あの家に引っ越して来てから近くに住んでる眼鏡のお兄さんや金髪のお兄さん達に宝物を使っていっぱい悪戯をして、いっぱい困らせたたんだ。どうせまたその内引っ越すかも知れないから…」

 「『いっそのこと友達いらない方が良い』って、さっき言ったよな?」





 「…その台詞、本音か?」






 初めて出逢った日から幾多の悪戯を受けて来たが、彼の中にある別れる事への不安、孤独と友達が彼との思い出を忘れてしまう恐怖、それ故に風雅が経験した出会いと別れの中で生じ、友達の作り方や接し方を放棄してしまったのかも知れない。俺等に対する悪戯は無理してでも父との約束を守る為、常に元気且つ笑顔を振りまいていたのだろう。

 そんな彼に教えたい、心に決めた俺は口を開いた。

 「ふぇ?」

 「その言葉が本気なら俺からは口出しすることはしない。けどな、お前の目を見ればわかる。ガチで友達いらないと心から思ってるなら、まず自分から人と関わったりしない。風雅の場合、自分から積極的に周りの人にちょっかいを出してる。本当は普通に友達を作っていっぱい遊びたい、そう思ってるんじゃないのか?」

 「……」

 その台詞が響いたのか、風雅は動揺し始めた。

 再び見つけたマンホールの蓋、だが此処もG集団の気配がするので別の場所を捜索した。

 俺は再度風雅に大切な事を自分なりに伝えた。

 「風雅」




 ピリリッ




 またこれだ!既にのどの奥まで来てるってのに思い出せそうで思い出せない…!

 「ソウルレッド…?大丈夫?頭痛いの?」

 風雅が心配そうに俺を見た。

 「ああ大丈夫だ。お前は友達の作り方をちょっと間違えてるだけなんだ。初対面でいきなりちょっかいを出したり、悪戯をしたりしてるとお前自身の印象が悪くなって嫌われる可能性が高くなる。そうならないように友達を作りたいというんであれば、少し方法を変えてみるんだ。例えば気になる人に最近自分の周りで起こった出来事や、前に居た場所で経験した事を話題にしたり、好きなゲームやアニメ、流行はやってる遊びとかの話をすると、意外とお前とその人の共通点が見つかって仲良くなれることもあるんだ。他にもそこら辺の公園でサッカーをしてる近所の子等に『入れて』って言うと、一緒に遊んでくれる事もある。要は仲良くなるきっかけは無限にあるって事だ!」

 するとまた別のマンホールを見つけた。今度はG集団の気配がしない。この薄暗い空間から脱出しようと蓋を勢い良くじ開けた。






 地上に出ると、G集団は遠くでちらほら見かけるものの、この近辺はあまり侵食されていない様だ。周りを見ると、目の前にある桐堀きりほり駅と後ろには青いペンキで塗られている遊歩道、少し歩けば十年程前に出来たばかりの大学、遊歩道を渡ると一車線の車道と野球場がある河川敷、その向こうには古湊川フルバタがわが流れている。つまり俺等は北歌音駅から約二キロ離れた場所に移動したのだ。

 「ふぅ、随分移動したな」

 呟きながら全身を穴から抜け出し、後から登って来た風雅を力強く引きり上げた。

 「あのさ…」

 「?」

 風雅が躊躇ちゅうちょしながら俺に尋ねた。

 「俺…、近くに住んでる眼鏡のお兄さん達にいっぱい悪戯をして困らせちゃったって言ったでしょ?今までの事…謝りたいんだ。けどあの人達、怒ってるかなぁ…」

 不安気な彼を見て俺は軽く頭をでながら自信満々に返答した。

 「大丈夫だ!あのお兄さん達なら怒ってないからきっと許してくれるはずだ!いや、絶対にお前の事許してくれるさ!」

 「本当に…?」

 「ああ!この俺が保証する!俺達ソウルジャーはお前の味方だ!」

 その台詞が心に響いたのか、風雅は再び笑顔を取り戻した。

 「…さてと、状況が悪化する前にさっさと片付けないとな!」

 俺と風雅は遊歩道を駆け上がり、真ん中の地点まで移動したが此処からではあまり見えない。

 「遠くからだと見えないね」

 「ならもう少し高い所へ行こう。しっかり俺に摑まるんだぞ!」

 風雅は俺にがっしりと摑まり、俺は抱えながら車道と歩道橋の間にある水門の上へ飛び移った。

 事態はさらに深刻化し、北歌音方面からは河川敷を通ってGの集団が押し寄せている。此処もそろそろ危険だ。

 「やばいな…、早く本物を見つけないとこの地域もむしばまれるぞ…!」

 辺りを見回してもGだらけ。どこもかしこも動きが統一されていて見分けが全くつかない。まさにお手上げ状態だった。

 「っあああああああ!全っ然わっかんねえ!!どれが本物なんだよ!!」

 「ソウルレッド!あれ見て!」

 風雅が頭を抱えている俺に北歌音方面の河川敷を指して教えた。 

 「あそこの野球場の手前に来てる集団いるでしょ?先頭の真ん中だけ少し変な動きしてない?」

 確かによく見ると、押し寄せて来る集団の内、他のGと比べて先頭の真ん中のGだけやや動きがにぶくなっている。そのせいで後列のGは何度も先頭のGにぶつかってばかりいる。

 「あれだ!きっと本物だ!でかしたぞ風雅!」

 褒められた風雅はちょっと嬉しそうに頭をいた。



 ピリリッ




 特定のワードを言う度に段々と頭痛が増してくる。




 風雅……ふうが……フウガ……!!




 そうか!今まで何故忘れてたんだ!!だったらGも何回か言う度に思い出せるかも知れねえ!!

 「分かったぞ!方法が!」

 「どうやって止めるの?」

 「お?おう、それはな、俺の最大のけに出るんだ!」

 と、我に返った俺は再度風雅をしっかり抱えてG集団へと飛び込んだ。

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