第二曲 第四楽章 銀河改めソウルレッド 北歌音駅周辺にて

 ソウルジャーに変身した俺等は、発生元である北歌音きたかのん駅に急行し、比較的安全と言える駅前の商業施設の屋上から様子を見た。駅周辺はほぼ黒一色に覆われており、商店街の出入口どころか公路すら見えない。中には建物にじ登るヤツもちらほらと確認出来る。

 「うぅ…、やっぱり生で見ると気持ち悪い…!」

ソウルピンクが身震いしながら俺に近寄った。

 「これは駆逐くちくするのに相当手応えがありそうですね…」

 「レッド、この大量のGをどうする?」

 やはりこの状況でも平然としているソウルブルーに対し、ソウルイエローは嫌悪感を漂わせながら俺に尋ねた。

 「どうするも何も、片っぱしから片付けるしかねーだろ!」

 「うああああああああぁぁぁ!!」

 「どうしたソウルグリーン!?」

 振り向くとソウルグリーンがおびえながら下を指した。

 「Gです!奴が…ここまで登って来ます!!」

 見下ろすと、五匹程の巨大G集団が攀じ登って来る。

 「マジかよ!?一旦あっちのビルに避難だ!!」

 俺等は奴が襲って来る前に通っている学校方面とは逆にある駅前の大学の屋上へと飛び移った。ちなみにソウルジャーの跳力は普通の人の約数千倍の力があり、下手すると大気圏超える程にも及ぶ為、自身の力でコントロールしなければならない。そうでないと、

 「お前等、全員無事か?」

 「いえ、グリーンが品川まで飛んで行きました」

 ソウルグリーンの様に目的地よりも遠くに飛んでしまうことがある。

 「おいおいマジで頼むぜ…」

 ソウルイエローがやれやれと溜息をついた。

 「とりあえずここまで来れば大丈夫…だよね?」

 ソウルピンクが疑問形で俺等に聴いた。

 「それにしても、この騒動を効率良く止めるにはどうすれば良いのでしょうか?」

 「待っていたぞソウルジャー!」

 ソウルブルーが辺りを考えながら見渡すと背後から聞き覚えのある声がした。駅の方へ見ると、二つの影が見えた。よく見ると一人は昨日月夜つきやを人質に取ったアルマイナの最高幹部、フィーネントという男と、その隣は紺色の髪と左目にアイパッチを付けている科学者のような三十代くらいの男性だ。

 「お前は昨日のっ…!ともう一人は…誰だ?」

 「我はアルマイナの幹部、ダルジーニです。以後、お見知りおきを。ソウルジャーの噂はフィーネントからお聞きしております。…ん?」

 ダルジーニと名乗る男は俺等を見ると首を少し傾げた。

 「おや?よく見れば一人足りませんねぇ~?もしかしてドタキャンですかな?」

 「んな訳ねーだろ!グリーンは遠くまで行って安全確認してるだけだ!!」

 と、俺なりにソウルグリーンのミスを擁護しつつ怒鳴りながら返答した。すると丁度良いタイミングでグリーンが息を切らしながら帰還した。

 「どうやら南歌音から南はGの姿が確認出来ませんので…、その周辺は安全かと思われます…」

 「おう…、それよりお前大丈夫か?随分びしょ濡れじゃないか」

 「ええ…、うっかり豊洲近辺の川まで飛んでしまいまして…」

 「それで落ちたという訳か」

 納得したソウルイエローは軽くうなずいた。

 「貴様等!我輩を無視するでない!!」

 待たせられていたフィーネントは忘れられたかの様に俺等に怒鳴り付けた。

 「随分とせっかちなんだな、お前。んで、このG集団をさっさとどうにかしてくれないか?俺こう見えて厄介事は嫌いなんだぞ」




 ピリリッ




 突然の激しい頭痛に思わず頭を抱えてしまった。

 何なんだ今のは…!?忘れかけてる何か思い出せそうで思い出せない…!

 「どうしたソウルレッド!?」

 「急に頭抱えて何やってるの!?」

 ソウルイエローとソウルピンクが俺の元へ駆け寄った。

 「しっ、心配すんな…。一瞬だけ頭痛がしただけだ…」

 「!!避けて下さい!!」

 ソウルグリーンの忠告に俺等はすぐさまその場を離れた。避けた直後にダルジーニが投下した特製の爆弾が先程までいた場に落ちて爆発した。

 「あまり余所見しないで下さい。一瞬の隙が命取りになりますので」

 「わーてるってブルー!ちょっと油断しただけだ!」

 するとダルジーニが嘲笑ちょうしょうしながら返答した。

 「G集団を何とかしろとおっしゃいましたが流石に無理な話ですソウルレッド。この暴走は誰にも止められません」

 「何だと!?」

 「元は小さなゴキブリの玩具おもちゃ。このゴキブリを少し拝借したところ、面白いことに巨大化しては増殖し、あちらこちらのCDショップや楽器店をむさぼる様にむしばんでいるんですよ~。ゆくゆくは音楽そのもの失うどころか、人やこの町ごと消し去ることに…実に愉快だと思いませんかね?」

 「何が愉快よ!!あんた達がやってる事って本っ当に下劣げれつね!!」

 ソウルピンクが言うと、ダルジーニは思わずクスクスと笑い始めた。

 「下劣で結構。良いめ言葉を頂きましたよ」

 「…最早『最低』とか『卑怯』とか何言い返そうと無駄な様ですね…」

 そんなダルジーニを見てソウルグリーンは呆れて呟いた。一方ソウルブルーは一人頬杖を突きながら神妙に考え込んでいる。

 早くこの状況を何とかしないと、和音区ここの人達や音楽ショップだけじゃ無く都内、いや日本全体がGで埋め尽くされる!

 「Gを消す方法を教えねーなら俺等で片っ端から倒してやる!!」




 ピリリッ




 まただ!頭痛と同時に何か思い出せそうな気がする…!Gか!?Gが関係する何かが思い出せそうだ!!

 此処でもやもやしててもどうしようもない。居ても立っても居られなくなった俺は一旦忘れかけている何かを考えるのを止め、奴等に背を向けて駅西口の商店街へと向かった。

 「ほう…?そんな方法で良いのかソウルレッド」

 「どういう意味だ!?」

 今度はフィーネントが説明し始めた。

 「この害虫がただ増殖して人や音楽を蝕むだけだと思ったのか馬鹿め!あの建物の屋上にいるゴキブリを見ろ、少しでも傷付けるとどうなると思う?」

 フィーネントが東口前にある大学の屋上にいるゴキブリに手を向け光線を放った。放った光線がゴキブリに命中すると、大学ごと爆散してしまった。

 「…!!」

 「どうかね?迂闊うかつに攻撃出来ないだろ?貴様等はここで壊滅する瞬間をただ見ていればいいのだ!!」

 フィーネントが冷笑し、俺等は思わず息をんでしまった。

 下手にGに触れると町ごと吹っ飛ぶ、かと言ってこのまま放って置くわけにはいかない。一体どうすれば…!!






 「…確かに、このまま見ていれば良いのかも知れませんね」

 しばらく黙考もっこうしていたソウルブルーが口を開いた。

 「おいブルー!何言ってるんだ!あいつ等の言いなりにでもなれと言ってるのか!?」

 ソウルイエローが叱責しっせきすると彼は冷静に返答した。

 「何時いつ何処どこで、誰が奴の言いなりになると言ったのですか?」

 「ソウルブルー、もしかして…」

 ソウルグリーンは彼の考えに察しが付いた様だ。

 「僕の推理が正しければ、『本物』のGの玩具を見つければ事態は収束する、という事ですよね?」

 「「「「!!」」」」

 ソウルブルーはさらに説明を続けた。

 「簡単な話です。先程ダルジーニの証言によりますと、元はただのGの玩具。それを捜し出せば事態は収束するという事ですよね?」

 「それだ!流石ソウルブルー!!」

 と、俺が指を鳴らして言った。

 「クフフフ…だがどうやって見つけ出すとでも言うのかね?」

 フィーネントが失笑すると、俺はやや低めのビルに飛び移って答えた。

 「方法は一つ!皆で手当たり次第捜し出して見つけたら即攻撃するんだよ!!俺に付いて来い!」

 「そんな無茶な…」

 「しかしここでモタモタしている暇などございません。早急に捜し出しましょう!」

 やれやれとソウルグリーンが軽く溜め息を付く一方で、ソウルブルーが三人を連れて俺の後を追った。

 「おっと、ここから先は行かせませんよ」

 ダルジーニが四人の前に立ちはだかった。

 「ちょっと!これじゃ捜せないじゃない!」

 「そこを退け!お前なんかに構ってる暇なんてねーんだよ!」

 ソウルピンクとソウルイエローがいちゃもんを付けている間、ソウルブルーが俺の後を追ってきているフィーネントに気付き、ソウルグリーンと共に奴を阻止しに追った。

 「お前等!?」

 「ソウルレッド!我輩と勝負しろ!!」

 フィーネントがG軍団の暴走の妨害しようと特急列車の様に俺を追って来た。が、奴を阻止しに来た二人が追い付き、ソウルブルーとソウルグリーンが歯を食いしばりながら言った。

 「ソウルレッド!貴方だけでも早く見つけ出して下さい!!」

 「ここは僕達が食い止めますのでっ!フィーネント、お相手なら僕達では不満ですか!?」

 「…悪い!」

 本来なら俺も四人の手助けをするため加勢したかったが、今の状況じゃ不可能だ!

 俺はこの暴走を阻止する為一人ビルから降りて駅前のスタヤ付近に向かった。

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