第二曲 第二楽章 フィーネント 地下深くの基地にて
ハルモニアン星の女神暗殺計画は失敗に終わってしまった。
我輩は玉座に座り、側にあったテーブルの上にあるおよそ四十を超える漆黒の音符の形をした石ころを眺めながら、あの日のことについて振り返ってばかりいた。
これまでに様々な
「こんな所で何
我輩の側から胸を強調している桃色一色のドレスを纏い、奇抜な化粧をした貴婦人が現れた。フリフリが目立つ桃色の日傘を差し、左手にはその姿と全く似合わないにも関わらず、何の問題も無くキムチが盛っている皿を手にしていた。
「お主か、セニョール婦人。何故キムチなんぞ
特に興味はなかったが、容姿と食とのマッチが全く合わないのが余計気になってしまい思わず尋ねた。
「何故ですかって?そんなの決まってるじゃないのよ!わた~くしは根からの辛党なんですの!けど、チョコレートのような甘~い物はだぁ~い嫌いですの!」
セニョール婦人はキムチを
こいつに関しては喋り方や妙なテンション以外にも突っ込み所が満載だ。だが何故か突っ込んだら負けると思ってしまうので我輩はあえて触れないようにした。
「おいフィーネント!んなとこでぼやけねーでとっとと侵略始めようぜ」
もう一人邪魔者が増えた。振り向くと背後から緑のメッシュを沢山入れたビジュアル系の青年が現れ、彼の肩にはこれまた派手なエレキギターが掛かっていた。そして何よりも気になるのは目はマスクで覆っているのに対し、口元は特殊メイクでかなり目立っていたところだ。
「あんまり
トゥーリットと呼ばれた青年はこの中で一番の行動派であり、大抵は(現時点で)侵略のことしか考えていない。我慢という言葉を知らないのか胸ポケットからマイクを取り出し、大音量で雑音の様な奇声を放ち始めた。我輩とセニョール婦人はその音には当然耐えられず耳を塞いだ。が、それでもまだ騒がしい。
「あ~も~うるっさいわね!!もうちょっと低くならないの!?」
セニョール婦人の肩に掛かっていた日傘がエレキギターの振動で吹き飛び、背後にあるドアに直撃した。ちょうどその時にバーンと勢いよくドアが開く音がした。
「おい何の騒ぎだ!?またトゥーリットの奴がグレてるのか!?」
そこに現れたのは黄色いリーゼントの髪形、どこからどう見ても暴走族の恰好をした中年男性だった。
「ちょうどいい所に来たわねコーダス!トゥーリットの暴走を止めてちょうだい!」
セニョール婦人がトゥーリットを指して大声で訴えた。
「あ~?んだよ面倒臭ぇな~」
既に呆れかけているコーダスはのっしのっしとトゥーリットに歩み寄り、手にしていたマイクを強奪してはその場で叩き付ける様に破壊した。マイクが破壊された事に気付いたトゥーリットは
「おいコーダス!!せっかくの気晴らしを台無しにすんじゃねーよ!!」
「何馬鹿デケぇ音でストレス発散してんだよトゥーリット!俺の部屋まで余計に聞こえるから静かにしてくんねーかな」
ここからはトゥーリットとコーダスによる喧嘩へと発展した。この二人は戦闘中息がピッタリと合ったコンビネーションを仕掛けて来るが、普段はこのように争いが絶えない最高なのか最低なのかどちらにも染まらない双子である。念のため忠告しておくが、トゥーリットの素顔はとても若く、化粧を落とせばイケメン(我輩の独断)であるのに対し、コーダスはこちらもイケメンではあるが、中年のおじさんである。素顔は全く違えども一応双子である。顔が全く似つかなくてもこれでも一応双子である。(大事なことなのでもう一度言った。)
「全く…、こいつらも呆れたものだな」
我輩が溜息をついた途端、再びドアが開く音がした。今度は紺色の髪と左目にアイパッチを付けているのが何ともシュールである若い男性科学者だ。
「ようやく出来たぞフィーネント。これがお前の言っていた例のヤツだ。それと、道端でこんな物を見つけましてね」
そう言って彼は紫色の液体の入った小さなビーカーと小さな黒い物体を我輩に差し出した。
「ご苦労ダルジーニ。これで次の計画に移せる。お前はもう下がっておれ。ほう…、これは面白い」
我輩がダルジーニに渡された黒い物体を見てある事を思いついた。我輩の指示に従ったダルジーニはすぐに後ずさりをした。
「その黒い奴は何だ?」
トゥーリットは物体が気になり顔を覗き込んだ。
「見ての通り、虫の玩具だ」
「フィーネント、貴様はこれで何をしようというのだ?」
首をかしげたコーダスは何の
「まあそれは後のお楽しみだ」
そう言いながら玩具をビーカーに落とし入れた。すると液体は無臭の煙を立て、ますます周囲にまで広がった。数分後。もくもくと立った煙は収まり、液体は怪しげな黒に変色し玩具は跡形もなく消滅していった。
「よし、これで完成だ。ダルジーニ、これを使って愚民共を支配し無音の世界を作り変えるのだ」
黒い液体が入ったビーカーをダルジーニに渡した。
「承知」
「おいフィーネント!俺を行かせろよ!俺だったら三分で仕留めてやるぜ!」
またしてもトゥーリットは我輩に指を差して激怒した。
「貴様には別の計画を遂行してもらう。あと
我輩はダルジーニと共にアジトを後にした。
何も言えなくなったトゥーリットは、先程の楽しみを邪魔された影響で煮えくり返っていたが、これ以上我輩に抗議すると厄介なことになると想定したのかその場をすぐ立ち去った。
さあ愚かな人間共よ、我々による絶望の時間の始まりだ…。
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