第二曲 第一楽章 銀河 北歌音駅西口近辺スタヤにて
あの日、宇宙侵略組織・アルマイナが学校襲撃した事件。校長先生の言葉通り、巨大な穴が開けられた第二グラウンドは言うまでもなく使用禁止どころか立ち入りも禁止となった。普段ラグビー部や陸上部などがこの場所を使用していたが、使用禁止になった今ラグビー部と陸上部は近辺にある運動公園で部活動を行っているという情報を耳にした。
またあの事件以来、全校生徒がいつもより大騒ぎになっていた。アルマイナから音楽を護る為に音楽戦隊ソウルジャーが突如現れ、奴
当然悲惨な事態に
昨日起きた事件と言い、俺達に与えられたあまりにも唐突過ぎる使命と言い、一晩経った今でもむしゃくしゃして未だに整理が追い付かない。そんな複雑な感情が残ったままでは気が済まないので、俺は気晴らしに駅近くのスタヤでクラシックの円盤を捜していたが、残念なことにJ-POP、洋楽をはじめK-POP、歌謡曲が多すぎてクラシック関連のCDはあまり多くは陳列されていない。置いてあるとすれば大半がオムニバス、
俺はこの突き付けられた現状に
銀座の楽器店や渋谷のレコードショップに行けば種類が豊富で、他の店には無い物が売ってたりとまさにパラダイスの聖地であるが、チャージしてある電子マネーの残金は五十二円でそこまで行ける金額は無い。一つ上の階に行けばレンタルコミックやDVD及びCD、その上には中古本があるが、そんな気分では無いので結局ここを後にした。何の収穫も無い、
すると、J-POPのオムニバスCDの隣に真っ白な背表紙のCDを発見した。不思議に思い手に取ってみると、裏表紙の商品バーコードだけは記されていて、表も裏もタイトルや曲名が何故か書かれてない無い上に、ジャケットのデザインも描かれていない。まるでキャンバスに描かれた風景画の上に白い絵の具をただ塗りつぶしたかの様に
「…何だこれ」
何の曲が収録されているのだろうと疑問を抱いていたが、曲名が思い出せない。
「…ま、いっか。そこまで肝心な事でもねーし」
そう思って真っ白なCDを元の場所に戻した。
ちょっとだけモヤモヤが残ってしまったが、別に大したことでもないと確信した俺は改めて店を後にした。
「…っはぁ~。ここもつまんなくなっちまったな~…」
「おい兄貴!」
声を掛けられ振り向くと、買い物帰りの
「お前等、今日買い出し当番だったのかよ」
「おう、部活再開出来るかと思って念の為学校近くのグラウンドや広場探し回ったらよ、
何やらイライラしている彼方が説明しているのに対し、セイちゃんは
「成る程な。けど何でそんなムカついてんだよ」
「帰る途中たまたま近くにいたんだ。全ては『あいつ』のせいでな」
彼方が一言した所で察しが付いた。彼が言う『あいつ』とは…
「ヘーイ!ヘーイ!ヘーイ!」
こいつのハイテンションな掛け声と共に小さな手で叩かれた尻から
「ってぇ…!またお前かよ!」
「やーい!こっこまでおいでー!」
と、少年が自らの尻を叩いて挑発している。そう、俺等の尻を叩いたのはこのクソガキだ。
こいつの名は
「お前…!家の近くなら未だしも、ここに来てまでやることは無いだろ!?」
「あー怒った!眼鏡のジジイが怒った!」
「誰がジジイだ!俺はまだ高校一年で十六だぞ!!」
風雅は周囲の状況とかお構いなく俺を指してケラケラと笑っている。
「…お前さあ、母さんはどうしたんだよ。一緒じゃないのか?」
彼方は彼の言動に呆れながら数歩俺の前に出た。
「置いてきた!あそこの信号で待ってる!」
と、彼が指したのは数百メートル後ろにある大通りの交差点の信号だった。それを聞いた彼方は溜息を付き、他人に迷惑が掛からないよう
「お前な…親の苦労ってもんを少し知ったらどうだ?これ以上馬鹿なことをすると、いつかは取り返しの付かない事だって起こるかも知れないんだぞ」
「あと、無暗に人の尻を叩くのはいい加減止めてくれ。学校で好きな人が出来たとして、同じ様に悪戯したらその子から完全に嫌われるぞ」
俺が付言すると、あんなにけたたましかった風雅のテンションががっくりと落ち、表情はあまり見せないようにして顔を
「…わかったよ。もう悪戯しないって約束する」
俺は彼の言動が真意なのか確かめる為、半信半疑になりながらも近寄って両肩を優しくわし掴んだ。
「本当か?心の底から反省してんのか?」
「本当に反省してる!だから…もう怒らないで…」
「なら顔を見せてくれ。本当に反省してんのか確かめてやる」
風雅は俺の言う通りに顔をゆっくり上げた。少しは落ち込んでいるだろうと思っていたのだが、それは一瞬の内で全くそうでは無かった。
「!!その顔全っ然反省してねーな!?」
「おまっ、めちゃくちゃ笑ってんじゃねーか!!」
「ヒヒヒっ、騙された~!これ貰ってくね~!!」
風雅が手にしていたのは三人分の電子マネーだった。
「あっ!いつの間に!」
彼方が急いでウエストポーチの中身を確認し始めた。同様に俺とセイちゃんも慌てて捜し始めたが、確かにしまっておいた俺の尻ポケットからも抜き取られていた。
「風雅!!またそうやって人に迷惑を掛けて!!」
すると大通りの交差点で信号待ちをしていた風雅の母親がここまで追い付いて来た。
「やっべ、鬼ババアが追って来た!んじゃーねー!」
「あっおい!俺のポスモ返せ!!」
と、母親を恐れたのか風雅は電子マネーを盗んだまま
「ギン、これ落ちてた」
唯一、風雅からの被害を受けなかった蛍が小さな黒い物体を拾い上げて俺に見せた。
「んあ?んな汚ねえもんそこら辺に捨てとけ。それよりも俺のポスモ、取り返さねーと」
その物体をよく確認せず、彼等が向かった先を見続けた。
彼方は俊足でセイちゃんもそこそこ彼に追い付けるくらいだから無事に取り返してくれるだろう、そう判断した俺は共に後を追わなかった。が、気がかりなのはここまで息を切らしながらも息子を追って来た母親だ。
「…、ごめんなさいね
母親が申し訳なさそうに深々と頭を下げた。
「いっ、いいっすよ。こんなん慣れてる事ですし」
「あの子には今回厳しく叱っておきますので…、あと詰まらない物ですが」
「そんなんいいですから!気にしないで下さい!それよりも風雅君を捜しましょう!俺も捜しますんで!」
母親が手に提げている紙袋から何かを取り出そうとしたので、俺は慌てて止めた。この母親は風雅が俺等に迷惑を掛けてしまうばかりで申し訳ないという思いが募っているせいか、お詫びの印としてデパートで購入したお菓子の詰め合わせや昨日に至ってはスティックタイプのインスタントコーヒーの詰め合わせを貰ってしまった事もあった。こちら側としても申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「…そうね、お願いします…」
そう言って紙袋から取り出そうとした母親はまた申し訳なさそうに頭を下げた。一緒にいたにも関わらず風雅の悪戯を一切受けることの無かった蛍も俺等と共に三人の後を追った。
…あの時、蛍が拾った物体をちゃんと確認していれば、あんな大騒動になる事は無かっただろう。そう知る由も無かった。
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