第一曲 第九楽章 銀河 鈴星学園初等部高学年館前にて

 何とか無事に月夜つきやを保護し、アルマイナとやらの侵略組織を蹴散らしてフィーネントが奪った人々の音楽の記憶を解放したたものの、でっかい穴が空いた第二グラウンドはもう取り返しの着かない状態と化し、しばらく授業や部活等での使用は禁止とならざるを得ないだろう。変身を解いた俺等は人目のつかない場所に移動し、こっそりと二号館の小アリーナに向かうことにした。

 「それにしても、何でムーン姉さんはフィーネントに捕まったの?」

 ひかりが先程聞けなかった質問をもう一度割り出した。

 「あぁ…、実は用あって高等部A組の教室に行ってたんよ。そんで外出たらいつの間にやらギン達が戦っとったザコが出て来よってな、ウチはこの竹刀でそいつらをやっつけたんよ。けど、あのフィーネントってやつ…ごっつ強い力に負けてな…そんで捕まってしもうたんよ…」

 月夜は俺の左肩を借りて弱々しく説明した。

 「なるほど、そうだったのか。けど何でアルマイナの集団は校内に侵入出来んだ?」

 彼方かなたが首をかしげて呟いた。

 「フィーネントは戦闘時に手からマイナリーを召喚しました。僕の推理ですが、恐らく襲撃する際に生徒や先生方の目に付かない所に侵入し、その力を利用して校内に侵入させたのだと思います」

 宇宙そらは相変わらず冷静かつ落ち着いた様子で説明をする。

 「ふーん…」

 「…あのさ、今回の事で何が起こっとんのか理解出来んさかい、ウチにも詳しく説明してくれると助かるんやけど…」

 「おう、その件については後でな。ところでお前、念のため確認するけどよ、一体何者なんだ?」

 俺はほたる憑依ひょういしている女神様に聞いた。が、女神様は無反応であった。

 「おい答えろよ!」

 「静かにして下さい銀河さん、向こうから誰か来ます」

 今まで無口だったセイちゃんが正面を指して知らせた。

 正面を見ると、白衣を着こなした白髪が少々目立つ中年の男性が俺達の方へと向かって来る。

 「よかった、お前達か。体育館に行っても姿が見えんから、何か事件に巻き込まれたのかと…」

 男性は俺らの姿を確認した途端、話しかけてきた。

 「博士!?どうしてここにいるのですか?」

 「お父さん!?大丈夫なの?」

 宇宙と輝が突然のことで驚きを隠せなかった。

 この人は俺達黒野くろの兄妹の実の父・黒野はるか。私生活では奇妙な発明を作るミステリアスな人だ。因みに月夜や宇宙が持っている特殊な竹刀も俺の親父の発明だ。俺と彼方、輝は「親父」、「お父さん」と呼んでいるが、親戚である宇宙やセイちゃん、居候中の月夜と蛍は「博士」と通用している。

 「学校の方で爆発があったと聞いてな、すぐに駆けつけたんだが…」

 家から距離は何十キロくらい離れてるというのにそこまで分かるんだな。恐らく職員達が隅から隅まで保護者に連絡したのであろう。






 「ところで君達、さっきの怪物を倒したのは本当か?」






 ……………………!?






 何だとおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?

 「おい親父!見たのか!?俺等が変身して敵をやっつけたとこを!?」

 まさか…そんな姿を親父に見られるとは…!!最悪だ!!

 思わず親父の胸倉を掴んで問い詰めた。

 「博士!!そのことは他の生徒や教師達には知られていませんよね!?」

 冷静な宇宙も流石に動揺し、混乱状態であった。が、行動は落ち着いていた。

 「ご安心下さい。この事情を知る者はここにいる私達だけです。この学園の生徒や先生方は皆さんが戦っていることや変身する姿は一切知りません」

 女神様が親父が目の前にいるにも関わらず、突如話し始めた。

 「ちょっと!?親父がいるのに勝手に話しても大丈夫なのか!?」

 蛍の側にいた彼方が慌て始めた。

 「ええ、銀河ぎんが達のお父上様の様ですしこの事情も把握しているようですので。詳しい事情はまた後日にお話いたします。私は疲れてしまいましたので、休ませて下さい」

 「おい!おーい!!」

 俺は何度も女神様を叫んだが、反応はせず元の蛍に戻った。

 女神様は何て勝手な奴なんだ…。

 「とにかく早く体育館に入りなさい。先生方の指示に従って行動するんだぞ」

 そう言って親父は俺らを小アリーナへと誘導した。






 今日は酷い目に遭ったな…。けど今後は嫌なことが起こりそうな予感がする…。

 そう思いながら全校生徒が待機している体育館の中へと入って行った。勿論もちろん先生に叱られたのは当然だが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る