第一曲 第八曲 銀河改めソウルレッド 鈴星学園第二グラウンドにて

 その頃、俺等を遠くまで飛ばしたフィーネントは月夜つきやを人質に取って音楽が存在しない世界に変える為の侵略を遂行しようとしていた。

 「ククク…これで邪魔者はいなくなったな。では始めるとするか」

 右腕を高く上げ、奴の能力で黒い雲を集めた途端、怪しげな色の光が雲から降りて来た。

 「この世界から音楽が存在しない世界に作り変えろ!!」

 怪しげな光は町全体を飲み込み、人々の頭から謎の光が抽出された。その光はフィーネントの元に集められ、奴の腰元にある巾着袋へと吸い込まれる様に入って行った。

 そんな中、首を絞められ気絶していた月夜が怪しげな光によって意識を取り戻しゆっくりと目を開けた。謎の光景を目の当たりにした彼女はその怒りをフィーネントに向けた。

 「おい!一体これどういうつもりや!?」

 「見ての通りだ。愚民共の記憶から音楽の記憶を奪い取り、集めた記憶は『あのお方』の復活の為に献上するのだ!」

 嘲笑ちょうしょうするフィーネントに対し月夜は悪足掻わるあがきを始めた。

 「何かよう分からんけど沢山の人から音楽の記憶を強奪するな!!」

 「ほう…貴様そんなに死急ぎたいのか?」

 「何やと!?」

 「下を見ろ!」

 月夜が見下ろすとグラウンドから約50メートルの高さで未だに宙に浮いていていた。

 「…っ!!」

 あまりの高さに足がすくんでどうする事も出来なかった。

 「どうだ、これで手も足も出ないだろう?」

 フィーネントは高所に怯える月夜の顔を見て見下しながら高笑いをした。






 「…!!誰でもええからこの状況何とかせえやボケぇぇぇぇぇぇ!!」






 ヒューーーーー……






 月夜が叫んだ丁度その時、何処からともなく飛んでくる音が段々と近づいて来た。

 音がする方へ顔を向けると、謎の五色の光が高速でこちらに向かって跳んで来た。

 「何だあれは!?」

 わずかな距離で接触しそうな所でフィーネントは月夜ごとさっと身をかわした。すると五色の光は軌道がれてグラウンドに落ちて行った。






 ドォーーーーーン……………






 巨大な地響きと共に砂埃すなぼこりが大きく舞い上がった。

 砂埃の中から現れたのは其々それぞれの色のスーツを身にまとった五人の戦士だった。

 「なっ、何なんだ貴様等は!?」

 フィーネントは俺等に指をさして叫ぶと俺等は自信満々にこたえた。

 「情熱のハーモニー!ソウルレッド!!」

 「シビれるメロディー!ソウルイエロー!!」

 「華やかなリズム!ソウルピンク!!」

 「麗しのアンサンブル!ソウルブルー!!」

 「豊かなセッション!ソウルグリーン!!」

 「「「「「奏でよ!!我らの音楽魂ソウル・ムジーク!!音楽戦隊ソウルジャー!!」」」」」






 「…って何言ってんだ俺らは!?」

 ソウルレッドに変身した俺が言うのも変だが、もう何が何だか理解が出来ず混乱状態であった。

 「何故か無意識に…」

 ソウルグリーンに変身したセイちゃんも少々驚愕きょうがくしている様だ。

 「貴様!!何の真似だ!?」

 俺等の変身した姿を見たフィーネントは戸惑いながらも歯向かい続けた。

 「『何の真似』?その台詞はそっくり返してやるぜ!」

 数歩前へ出たソウルイエロー(彼方かなた)が挑発するように言葉を返した。

 「そうよ!ここの音楽や平和を護る為で無く、人質も助け出すんだから!」

 同じくソウルピンク(ひかり)も数歩前へ出た。

 「ええい!黙れサル共め!!マイナリー!こやつらを蹴散らすのだ!」

 するとフィーネントは右手を前に伸ばすと、マイナリーと呼ばれる数え切れない程の黒い身を纏った兵士が現れた。

 「おやおや、これは厄介なことになりましたか」

 やれやれ、とソウルブルー(宇宙そら)は呆れながらも冷静に言い放った。

 「ソウルブルー、落ち着いて言っている場合ではありません」

 ソウルグリーンが冷静に突っ込んだ。

 「とにかく、こいつ等を何とかしてとっとと助けようぜ!」

 ソウルレッドに変身した俺が言うと、皆はソウルタクトを片手にマイナリー集団に突撃する体制を構えた。

 「行くぜ!ステージ・オン!!」

 俺の掛け声と同時に皆は一斉にマイナリー集団へと駆けて行った。






 俺等はソウルタクトを振りかぶっては、沢山のマイナリーを倒し始めた。

 しかし何なんだこの力は?敵を倒す度にパワーがみなぎってくる気がする。

 「ソウルレッド、そちらの集団をお願いします!」

 そばにいたソウルグリーンが懸命に戦いながら左にいるマイナリー集団を指した。俺は承知しようとしたその時だった。ソウルグリーンが持っているソウルタクトは、今持っている形状とは違い銃の様な物であると気付いた。

 「おい!それ何で俺と違う形してんだ!?」

 「実は驚きな事に、このソウルタクトはもう一枚のソウルレコードをセットすると銃に変形出来る様です!」

 ソウルグリーンが華麗に敵を撃ち抜きながら説明した。

 「何だと!?」

 その事が気になって仕方がなかった俺は、一旦戦いを放棄しソウルタクトを適当にいじってみた。

 所持していたⅠ-Ⅱと記されているもう一枚ソウルレコードに変えてはめ持ち手にあるつばを引くと、剣の形をしていたソウルタクトはソウルグリーンと同じく銃の様な形状へと変形した。

 「うおおお!すっげー!」

 その興奮と共に何も考えず、持ち手にある鍔を引いた。すると先端が赤く光り、わずか数秒で赤の閃光が敵に放った。どうやらこれは変身アイテムも兼ねて、剣として使用したり銃に変形させて光線を放つ事が出来る武器の様だ。

 俺はこのソウルタクトを使いこなしながらマイナリーを駆逐した。

 「皆さん、気をとられてはいけません」

 耳の辺りから女神様の声が聞こえる。

 「おい、どうなってんだこれ!?何でお前の声が聞こえるんだ!?」

 「このスーツは私だけでなく他のメンバーとの通信が可能な状態になっています。それより上を見てください」

 女神様の指示に促されマイナリーを倒しながら見上げた。するとフィーネントが今にも落ちそうな位置で月夜の首を絞め宙に浮いている。

 「おいてめぇ!何するつもりだ!?」

 するとフィーネントは嘲笑いながら語り始めた。

 「見ての通りだ。用済みとなったこの小娘をここから落とすのだ。それとも首を絞めて死なせる方が良いかい?」

 「ふざけんな!!姉さんは返してもらうぞ!!」

 ソウルイエローはフィーネントに向かって腕を伸ばし、有り得ない程のジャンプ力で勢いよく飛び掛った。が、フィーネントはあっさりと身をかわしてしまった。

 「フッ、その程度で我輩から引きがそうとは…所詮しょせんただの馬鹿だな」

 とフィーネントが見下した時だった。奴が身を躱した反動で腰元から巾着袋が落下した。

 「しまった!!」

 「その巾着袋回収せえ!!」

 月夜が叫ぶとソウルイエローが落ちて行く巾着袋に手を伸ばし、手にした所で着地した。

 「っと、ちゃんと取ったぜ!」

 「人々から強奪した音楽の記憶はしっかりと回収させて頂きましたよ!」

 ソウルグリーンが腰に手を当ててフィーネントに対して叫んだ。

 「ナイスや!」

 「ソウルジャー!これで終わりだと思うな!」

 フィーネントが今まで掴んでいた月夜の首を離してしまった。

 「月夜!」

 俺は咄嗟とっさに月夜が落ちる場所に急行した。が、間に合いそうもなかった。

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」






 何も考えず飛び込んだこの体は、今地上から高く離れた所にいた。フィーネントの手から解放され、落ちていく月夜はがっちりと俺の腕に乗り重みがかかっていた。

 「うえっ、お前の体ずしっと落ちるもんだから重く感じたぜ。おい、大丈夫か?」

 俺の声に気付いた月夜はむっと睨みつけた。

 「女子に向かって体重いとか言うなボケ!!デリカシーなさすぎやろ!!ってその声ギンか!?てことは残りの四人は…」

 「んだよ!せっかく助けてやったのにそんな態度はねーだろ!!」

 「黙っとれ!!…けど、お礼言わんことも…あらへんけど?」

 月夜が少々頬を染めて動揺している顔を見せた。

 「ちっ、可愛くねーやつ」

 「何やと!?もっかい言うてみろやコラ!!」

 月夜との些細ささいな喧嘩をしながらも俺らは地上に降り立った。見渡すと残りのマイナリー集団はどこにも無かった。恐らく四人が一掃したに違いない。

 「ムーン姉さん!!よかった!生きてた!」

 ソウルピンクを始め、他の皆が俺らの周りに集まって来た。

 「アホ、ウチが死んだみたいな事言うな」

 月夜が輝の頭に軽くチョップをしながら突っ込んだ。

 「ご無事で何よりです。しかし何故またそのようなことになってしまったのですか?」

 ソウルブルーが尋ねた途端、フィーネントがクククと笑い再び語りかけた。

 「今回は挨拶あいさつ程度としてこのくらいで勘弁してやる。だが次はそうはいかんぞ、覚えておくがいい」

 「おい待て!」

 俺が止めようとした時には既に遅かった。

 「さらばだ、音楽戦隊ソウルジャー」

 フィーネントは高鳴る笑い声を上げながら姿を消した。

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