一針岩を穿つ

時雨こんぶ

第1話

 超能力。それは、魔法と呼ぶ者もいるし、憧れる者も多い。でも、僕は超能力なんていらない。この能力のせいで、僕は不自由な生活を送る羽目になったのだから。

 


「点検!」

まっすぐ続く長い廊下に、大量の個室の牢屋が並ぶ。全体的に薄暗く、牢屋についた小窓からの光が、少し廊下を明るくしていた。「拘束」の能力を持つ看守が、牢屋のカギと、隔離された能力者が全員いるかどうかを点検している。見えやすいように、全員が牢屋の前の方に移動する。その時全員の顔が見えるため、新入りと分かったのか、多くの人が僕の顔をみた。ここの人たちはみんな白いゆったりとしたシャツとズボンをはいていて、胸元に大きく番号が書かれている。……本当に囚人のような扱いをうけるのか。昨日いきなり危険だからって連れてこられて、家で母さんはどうしてるんだろう。

 ……点検、早く終わってくれないかな。お腹……すいたな……。そう思いながら、どこまで看守が点検したのか、ふと看守に目をやった。点検のあとは食事なのだ。不満と疑問と不安しかない監獄生活だったが、意外にも牢屋は清潔で、ここの監獄の 夕食は美味しかった。

 突然、看守は誰もいない監獄の前で足を止めた。

「49番!姿を消すな!いるのは分かっている!」

看守が奥の方の牢屋の一室の何もない壁へ叫ぶ。

「アンタだけ毎回見破るよなァ。面白くないぜ。やるなァ、アンタ。」

興味深そうな声を発しながら壁がドロドロと溶け、一人の男の姿になる。その男は身長は150cmもあるかないかぐらいだが、目つきは悪く、ガタイもよく、右腕に手首から肘にかけておおきな古傷がある。自分の目の前にいたら物凄く怖そうなお兄さんだ。目つきの悪さの圧迫感で、実際より身長が高く見える……が、看守のバリは全く怖がっていないどころか少し近い。いや近いって。牢屋がなかったら顔がつきそうなぐらい近い。看守は看守で、体育の先生のようなテンションで、180cm近く、ガタイもいいので、こちらはこちらで別の圧迫感があるのだが……。というか、どうなってるんだ!?さっきまではただの壁だったのに!今はただの人間だ。あんなトリックだけじゃ不可能なあの……

「毎朝のことさ。驚くな新人」

「!?」

突然となりの部屋の目の細いのお兄さんが声をかけてくる。そういえば隣にも人がいるんだった。なんだか凛とした雰囲気があり、和服が似合いそうだ。身長は172cmぐらいだろうか。若くもどこか貫禄もあり、イケメンという感じだ。牢屋は個室だが、隣となら会話できるようになっている。そういえばなんで牢屋が個室なんだ?

「49番……、エイシュは、毎朝ああやって姿を隠して、脱走したって看守をおどろかせるのが好きなのさ。普段は朝から大騒ぎなんだが、ここ一週間前から看守がかわってね。なぜか彼は能力『同化』を見事にみやぶるんだ……。」

アゴをなでながら、しょうがないヤツと思いつつ見守るような目でエイシュをみていた。髪も長く、清潔感もあり、なんだかいい匂いまでする上、所作一つ一つがかっこいい。何者なんだろうと考えながらも、能力者が私だけでないことに驚く。

「君はどんな能力で連れてこられたんだ?君は犯罪者って感じはしない。」

そういえばという感じで、ふとこちらを向いた。ふわっといい香りがする。そういえば能力を知ってるってことは、このお兄さんも……?

「僕は針の能力です。」

僕はちょっとオドオドしながら、目をそらしていった。また馬鹿にされるのではと怖かったからだ。

「針か。強力な能力だな。結構危なっかしいだろ」

ちょっといたずらっぽく笑う。予想外の反応で僕は驚いた。今まで同級生には馬鹿にされてたのに。自分も針を作って少し動かすだけの能力の使い道がわからなかった。

「なんで……針が強いと思うんですか?」

困惑した表情で聞くと、一瞬納得したような顔をして、ニヤリと笑った。

「あのな、針ってのはな……」

「そこ!18番と108番!私語は禁止だ!」

点検が終わったらしく、看守がこちらを向いて怒鳴った。ここ私語禁止なの!?

うへー監獄キビシいなー。

「あちゃ~バレちゃったか……」

隣のお兄さんがそうつぶやく。ミスをしたという感じの苦笑いをしている。

「ごめんなさい!以後控えます!」

今後もやる気満々でお兄さんが元気よく謝る。もうしないじゃなくて控えるんだな……。看守もいつものことのようで、そんなに細かくは問い詰めないらしい。

看守がいなくなったのを確認して、お兄さんが僕に近づいてきた。

「そこの壁の一番奥、隙間あいてるんだ。朝飯食べながら話そうぜ。」

いたずらっぽく笑いながら、小声で話してくる。始めは凛としたイメージだったが、結構明るくていい人だな。自分は二つ返事でうなずいた。

 点検が終わり、看守が去り、朝食が支給された。今日の朝ごはんは麦ごはん、納豆、茶わん蒸し、梅干しだ。

「うひょ~うまそ~!」

いまにもかぶりつきそうな無邪気なお兄さんの声が壁越しに聞こえてくる。きっと よだれを垂らして目をキラキラさせていることだろう。

「そうだそうだ。坊ちゃんから話を聞きたいんだった。」お兄さんは自分の食欲を抑え、いったん箸をおく音が聞こえてきた。でもしばらくして納豆をまぜる音がきこえてきた。……たえれなかったんだな。

「坊ちゃんは……モグモグ……そういえば名前は……だしがうまい!……なんていうんだ?」

ご飯を食べて、物凄く幸せそうにしながらも、冷静に話してくる。てか坊ちゃんってなんだよ。僕高校生だぞ。背は低いけど。

「『ダガル』っていいます」

僕がそういうと、へぇーとめずらしそうな反応をした。

「変わった名前してんなー」

僕、ハーフなんで というと、またまたお兄さんからへぇーと返ってきた。それより僕はお兄さんの名前と能力が知りたかった。

「俺まだ名乗ってなかったな。俺は隼(はやて)っていうんだ。はや兄とでも呼びな。」

「僕高校生ですよ!?」

坊ちゃん扱いに耐えられなくなり、僕は不満をあげた。

「悪かったな、坊ちゃん」

全然反省してない隼さん。それより話したいことがあるらしい。

「そういやなんで自分が犯罪もおこして無いのに監獄に入れられたか、不思議に思わないか?」

「自分の能力が危険だからって言われました。」

正直使い方が全く分からないので、監獄にわざわざ行きたくなかったのだが、決まりだからと親も無視してつい昨日連れてこられた。常に監視がつくのは縛られてるみたいで不快だった。

「能力者はみんな発覚次第、牢屋に隔離されてるんだ。人に害をなさないようにって。お兄さんももこんな不自由なのは嫌だけど、怖がられてもおかしくはないんだよなぁ」

それもそうかと思いつつも、理不尽だとも思う。牢屋がきれいだったり食事が

おいしいのは……ありがたいけど。

「犯罪者は犯罪者、能力者は能力者で棟ごとに分けられてるんだ。ここの棟は全部能力者さ。一応ここ最近襲撃災害が続くおかげで、牢屋から出られるチャンスも

ある……」

「あるの!? 」

出られるのが嬉しくて、あまりの興奮に、僕は話に食い入ってしゃべった。

「まあ、あるにはあるが……あんまりお勧めしないぞ。。人を助けたり、襲撃者を追い返すのに能力を使って、『私は人のために能力をつかうよ』という証明ができれば市民権を得られるが……、我々をよく思わない人に罪を着せられて、本当に犯罪者に なっちゃったり、市民権をもっても、社会の偏見の強さの影響で就職しにくかったりな。最近は能力者の集まりのテロ組織までできちゃったから、余計に風当たりが強くなってな……」

寂しそうな声で隼兄が語る。声だけなので姿は分からないが、恐らく下を向いて

悲しんでいると思う。そんなに世間からは風当たりが強いのか……と僕が落胆していると、

「まあ要するに人のために使えりゃいいのさ!がんばろうぜ!」

隼兄が温かく声をかけてくれた。そうだよ。ずっと犯罪者扱いは嫌だ。

自由に外に出たいし、学校に行きたいし、恋愛もしたいし、旅にも行きたい。

「そのためにも、この針を使って頑張ろう!」

一つ自分の意志が決まった。だけど、災害の場やテロ組織との戦闘で、結局どう針を扱えばいいんだ?

「報告!」

突然職員の方が走ってやってきた。なにやら焦っている。

「首都の南部、テロ組織による襲撃!能力者のうち希望者は、ただちに対処にあたれ!」

どうやらチャンスはやってきたようだ。

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