第9話 おはよう

「…さぁ死季サン。人がお見えだヨ」

四季が指をパチンと鳴らすと、銀世界をさまよっていた4人が立っていた。

「…生きてたノ」

死季が少し悔しそうな顔をしていた。

「シキ。戻ってよ」

桜楽が怒りの感情をぶつける。

「今のほうが幸せだって気づけない奴の言うこと聞くかって話だヨ」

「僕は今のほうが不幸せだよ。シキが教えてくれた」

青葉は死季をまっすぐと見つめた。死季は後ずさりをする。

「死季サン。もう戻ろうヨ。人と幽霊ボクたちの幸せは違うんだっテ」

「…なァ。人間のお前ラ。四季があるほうが幸せなのカ?」

死季は恐る恐る聞いた。4人はうなずいた。

「たとえ…四季による災害で人が死んでもカ?」

「この国は昔から巡る四季と共に歩んできたんだ。俺たち人間の思い出の中には常に四季がいた。それが辛いものでも。だから俺は、四季の中でこいつらと生きたい」

「あたしも同意見」

ほかの2人もうなずく。あまりにも曇りのない目だった。

「…人間は馬鹿なんだなァ」

死季は大笑いした。そして四季のほうを見る。四季はにやりと笑うと、死季の手を握った。

「…!」

4人は2人のシキが元の姿に戻る様を見ていた。2人のシキは優しい光にまとわれ、その周りには青々とした草花がゆっくりと天井に伸びていった。やがて、シキの教室は一面緑色に染まり、ところどころに鮮やかな色を放つ花が咲いていた。

「あ…これ桜だ」

「青い葉っぱだなぁ」

「こっちは紅い葉っぱだよ」

「…福寿草」

4人はそれぞれ教室の草花を見つめていた。

「…4人とも、ありがとうネ!おかげでこの通りサ!」

少女が教卓に座っていた。外から蝉の声が聞こえる。

「…2つめの、季節」

青葉がつぶやいた。

「ウン!『夏』へようこソ!」

少女は教卓の上で立ち上がり、両手を大きく広げた。

「本当に四季が戻ってきたの!?」

桜楽は目を輝かせて聞いた。少女はにっこりと笑ってうなずいた。

「すご…」

紅葉は思わず口に出した。

「お前__シキはどうするんだ?ずっとここにいるのか?」

福寿はふと聞いた。少女は広げていた両手を下げて、儚げな表情で笑って言った。

「__バイバイ、だヨ」

「!」

そのとき、時が止まったんじゃないかと思った。それくらい、体が思うように動かせなくてさ。でもシキは変わらず笑っているんだ。そして黒板にまた何かを書いた。

『朝ぼらけありあけの月と見るまでに吉野の里にふれるしらゆき』

「さて、キミたちのこれからのご活躍を期待してるヨ。じゃ、またいつか会おうネ!」

少女は教室を出ていった。4人は別れの言葉も言えず呆然としていると、先生がガラガラとドアを開けた。

「あッ!またお前らか!」

「ウワーッ!ごめんなさい!」

4人は急いでシキの教室を出た。そして軽い説教をくらい、廊下をゆっくりと歩く。

「…先生に怒られるのは面倒だけど」

「?」

「お前らと怒られるなら、まだマシだな」

「あっははー!福寿ったらいいこと言うじゃーん!」

桜楽が大笑いした。

「怒られるならみんな一緒だね!」

青葉も笑いながら言った。

「これ青葉変なこと言うんでねえ」

紅葉は青葉をぺちっと叩いた。

これからは、一緒にいられるんだよな?福寿はふふっと笑って駆け出した。

「俺そこのコンビニでアイス買ってくる」

「私もっ!」

「僕もー!」

「…あたしも行きますよ」


思い出はいつも、四季の中に。

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シキの教室 水まんじゅう @mizumannju

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