第8話 2人のシキ、1人のシキ

足音が聞こえる。きっと近くにいる。福寿は体を持ち上げた。変に動くと体力を削られてしまいそうだから、慎重に最小限に、と気をつけて動いた。

「……ー…!」

誰かの声が聞こえる。

「ふ…じゅー…!」

近づいてきてる。

「福寿ー!…いた!?いたよ!!」

桜楽が駆け出してきた。そしてぎゅっと抱きしめる。あとに続いてきた2人も抱きしめた。

「よかったよ福寿サマ!」

「ほんとによかった…」

「なんだよお前らぁ…暑苦しいぞ…」

「寒いんだからいいでしょ!」

青葉がそう言って笑った。そしてみんなで笑った。

「…そうだ、シキは?」

福寿は思い出したように言った。桜楽は重たそうに口を開いた。

「いつものシキと、怖いシキが喧嘩してる」



「なぁあんた、そろそろ戻ろうヨ」

「僕は戻らなイ。お前も知っているだろう、四季の恐ろしさヲ」

「四季はそれも含めて美しいんダ。…なぁそうだろう、死季しきサン?」

「そうだヨ。でもね、春一番…熱中症…台風…雪害…災害を挙げるとキリがないだロ。今はその災害に怯えることなく過ごせるんダ。みんなそっちのが幸せだロ。ね、四季しきサン」

他人ひとの幸せをキミが決めることはできないヨ」

「人でもないお前が言うナ」

「なら、ちゃんと人に聞いたらいいじゃないカ。頭が固いなァ」



「…ていうか、福寿。あんたアイツに何頼まれたの?」

紅葉がふと聞いた。福寿は頭をポリポリとかく素振りを見せながら言った。

「いや、俺が頼んだんだ。四季がある世界でお前らと、一緒にいたいって…お前らにはほかに友達がいるのはわかってたから、これからもっと疎遠になってくと思って…俺は、そうなってほしくなかったから__」

「ほんっと、あんたって馬鹿だよね」

紅葉が呆れたように言った。福寿がぽかんとしているのも気にせず、青葉が声をかけた。

「みんな、同じ気持ち持ってたよ!」

桜楽は瞳を揺らしながら黙り込んでいた。福寿が申し訳なさそうに顔を覗き込む。その瞬間、桜楽は福寿の頬をひっぱたいた。青葉と紅葉はぎょっとする。福寿は頬に手を当てて、桜楽を見つめた。

「私も…みんなとずっと一緒にいたかったんだよ…!そのために…そのためにシキの教室に行こうって…!四季のある世界で…また、笑いあいたいんだよぉ…っ!」

ぽろぽろと涙をこぼす。急いで青葉がハンカチを差し出す。桜楽はそのハンカチをぐしゃぐしゃにするほど涙を拭いた。

「__四季を戻す方法がある。2人のシキを1人に戻すんだ」

福寿は冷静な顔をしていた。

「…まずはシキのところに戻ろう」

紅葉が座り込んだ桜楽を立たせた。

「……行こう」

4人は、銀世界の中を進んでいった。

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