第8話 2人のシキ、1人のシキ
足音が聞こえる。きっと近くにいる。福寿は体を持ち上げた。変に動くと体力を削られてしまいそうだから、慎重に最小限に、と気をつけて動いた。
「……ー…!」
誰かの声が聞こえる。
「ふ…じゅー…!」
近づいてきてる。
「福寿ー!…いた!?いたよ!!」
桜楽が駆け出してきた。そしてぎゅっと抱きしめる。あとに続いてきた2人も抱きしめた。
「よかったよ福寿サマ!」
「ほんとによかった…」
「なんだよお前らぁ…暑苦しいぞ…」
「寒いんだからいいでしょ!」
青葉がそう言って笑った。そしてみんなで笑った。
「…そうだ、シキは?」
福寿は思い出したように言った。桜楽は重たそうに口を開いた。
「いつものシキと、怖いシキが喧嘩してる」
*
「なぁあんた、そろそろ戻ろうヨ」
「僕は戻らなイ。お前も知っているだろう、四季の恐ろしさヲ」
「四季はそれも含めて美しいんダ。…なぁそうだろう、
「そうだヨ。でもね、春一番…熱中症…台風…雪害…災害を挙げるとキリがないだロ。今はその災害に怯えることなく過ごせるんダ。みんなそっちのが幸せだロ。ね、
「
「人でもないお前が言うナ」
「なら、ちゃんと人に聞いたらいいじゃないカ。頭が固いなァ」
*
「…ていうか、福寿。あんたアイツに何頼まれたの?」
紅葉がふと聞いた。福寿は頭をポリポリとかく素振りを見せながら言った。
「いや、俺が頼んだんだ。四季がある世界でお前らと、一緒にいたいって…お前らにはほかに友達がいるのはわかってたから、これからもっと疎遠になってくと思って…俺は、そうなってほしくなかったから__」
「ほんっと、あんたって馬鹿だよね」
紅葉が呆れたように言った。福寿がぽかんとしているのも気にせず、青葉が声をかけた。
「みんな、同じ気持ち持ってたよ!」
桜楽は瞳を揺らしながら黙り込んでいた。福寿が申し訳なさそうに顔を覗き込む。その瞬間、桜楽は福寿の頬をひっぱたいた。青葉と紅葉はぎょっとする。福寿は頬に手を当てて、桜楽を見つめた。
「私も…みんなとずっと一緒にいたかったんだよ…!そのために…そのためにシキの教室に行こうって…!四季のある世界で…また、笑いあいたいんだよぉ…っ!」
ぽろぽろと涙をこぼす。急いで青葉がハンカチを差し出す。桜楽はそのハンカチをぐしゃぐしゃにするほど涙を拭いた。
「__四季を戻す方法がある。2人のシキを1人に戻すんだ」
福寿は冷静な顔をしていた。
「…まずはシキのところに戻ろう」
紅葉が座り込んだ桜楽を立たせた。
「……行こう」
4人は、銀世界の中を進んでいった。
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