第7話 4つめ__シキと隣り合わせ

「はよ」

「あれ、おはよ福寿。珍しくゆっくりだね?」

「んぁー、寝坊した」

「もっと珍しい!」

桜楽と福寿は2人で学校に向かう。

「あ、そうだ!今日って短縮日課じゃん!ね、早くシキの教室に行こ!」

「あんま早くいると怖いほうがいるかもしれんぞ」

「だーいじょーぶだよぉー!」

福寿は桜楽に押されて行くことにしてしまった。学校につくと既に青葉と紅葉が椅子に座って話していた。

「あ、おはよ2人とも」

「おはよー!」

「うーす」

「福寿…お前それ部活のときの返事じゃんか…」

「みんな帰宅部だろ」

「いや僕はゲーム研究部所属です」

「それ部活ってかただゲームするだけの集まりでしょ?青葉らしいけど」

「紅葉までそんなこと言うなってー!」

ああ、これが変わらない日常だったなら。桜楽はぼんやりと嬉しそうな笑みを浮かべていた。

「よーし、授業頑張るぞい!」

「寝るなよ桜楽」

「寝ないよ福寿!」

そして、『日常』が過ぎていく。気温の変化もほとんどないし、景色だって、いつも爽やかな青空と緑が映える草木が変わらずそこにあるし。でもその日常に色が付けられるとしたら、きっと、シキの色にするだろう。

「がーっ!授業終わりーぃ!」

青葉が腕をぐんと伸ばす。その先には福寿の顔面。

「ギャーッ!!ごめん!なさい!!ほんと!!」

「………」

「ななななんとか言ってくれよ…友達ぃ…!」

「まあ、許さん」

「ウワーッ!」

「ほら、早く行くよ!」

桜楽が笑いを堪えながら言う。紅葉も後ろでずっと笑い声を押し殺していた。

「来ねえと殴るぞコラ」

「行きます行きます福寿サマ!」

いつも通りの空き教室。開ける瞬間まで、生気を感じないこのドアを開ける。

「__よォ。この前は悪かったネ。お詫びのためにこの時間を借りたヨ」

「あ"!怖いシキ!」

青葉が悲鳴をあげた。

「怖いだなんて…まあ、アレがあったから仕方ないカ。まあお詫びに、見ていないであろう4つめの景色を見せてあげル」

少女は黒板に書いてあった字を消した。

『月見ればちぢにものこそ悲しけれわが身ひとつの秋にはあらねど』

「ちなみにこれは僕の嫌いな素数である『23』だヨ」

「なんでよ」

紅葉が苦笑すると、少女は目を鋭くして言った。

「自分だけが正しいってほざいてる感じが嫌いダ」

「八つ当たりじゃねえか」

福寿が鼻で笑うが、少女は動じない。

「じゃあ4つめ、どうゾ」

そして少女がパチンと指を鳴らす。

「?」

福寿は真っ白な視界に首を傾げる。誰もいない…てか、さむっ!?

「おーいお前らー、どこ行ったー」

声をあげてみるが、どこからも声がしない。取り残されてしまったようだ。

「さみぃ…おいお前ら!返事しろよー!」

誰もいないようだ。福寿は感じた。これは自分の未来なんじゃないかと。

「おい…おい、冗談はよせよ。どうせその辺にいんだろ。シキもそうだろ、なぁ…?いるんだろ…?」

誰か返事をしろ。そう願えば願うほど、自分の意識は遠のいていく。まずい、凍え死ぬ__。

「……あれ、ねえシキ。何も変わってないんだけど…」

桜楽が首を傾げる。少女はニンマリと笑っている。どうやら何かに満足したようだ。

「ね、福寿は?」

青葉も声をかけてみる。怖かったけど!

「彼は今4つめの景色を堪能しているヨ」

「えぇ!なんで私たち連れてってくんないの!?」

「…知らないほうがいいこともあるってもんダ」

「__あたしは知りたいな」

「知らなくていいってバ」

少女は変わらず不気味な笑みを浮かべていた。

「コラーッ!みんなを困らせるナ!」

いつも通りの少女が掃除ロッカーから勢いよく飛び出てきた。3人はうおっと声をあげる。

「困らせてないヨ。お前の計画を阻止したいだケ__」

「けいかくゥ?もう計画は終わったヨ」

「……終わってないだロ」

「…シキ。あたしを福寿の元に連れてって」

「フン。嫌だネ。面倒だし、アイツだけでいいんだヨ」

「ううん、みんな連れてくヨ。ボクに任せて!」

少女は指をパチンと鳴らした。

「……生きて帰ってくるんだヨ」

「!」

3人は、気づけば白銀の世界にいた。何も見えない。

「おーい!ふくじゅーっ!」

桜楽が大声をあげる。返事はない。

「にしても寒すぎるぞ…凍死しそう…」

「縁起でもないこと言ってんじゃないよ、青葉。早く探すよ」

「…うん、ごめん」

「謝んなくていい」

紅葉は辺りを見渡す。当たり前のように何も見えない。でも微かに、彼が動く感覚を肌で感じた。

近くにいる!

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