第6話 3つめ

「やァ。今日も来てくれたんだネ」

少女は珍しく、黒板に絵を描いていた。ウサギの絵だった。

「来たよ」

紅葉が笑いかけた。

「3つめ!見せてくれるんでしょ!?」

桜楽がワクワクした表情を見せた。

「ウンウン。ちょーっと待ってネー。……よいッ!そーれッ!」

少女がそう言うと、辺りが暗くなった。涼しげな風が当たる。虫の鳴き声が聞こえる。

「…?」

みんなは首を傾げている。よくわからない。こんな季節があったのか?

「…なんかパッとしないみたいな顔してるネ。…まあまだ本気を出せていないからしょうがなイ」

少女はそう呟いて、黒板に描いたウサギをトントンと叩いた。ウサギは黒板からぬっと出てきて、何かを作り始めた。

「いやいやどういう状況だこれ!」

青葉は思わずツッコミをいれる。

「オダンゴ。ココニノッケロ」

ウサギは少し険しい顔でちょっとした台のようなものを指さした。4人は困惑しながら、ウサギが作る団子を乗せていった。

「チガウ、ヤマミタイニ」

「山?こう?」

「シズカニヤレ」

桜楽はウサギとコミュニケーションを図るが、どうも上手くいかない。

「…こうだろ」

福寿がやってみせると、ウサギは無言で頷いた。

「あー!なるほど!さすが福寿…」

桜楽は感心していた。

「__できた」

紅葉がそう呟くと、少女がひょこっと顔を出した。そういえばさっきまでいなかった。一体どこにいたんだろう。

「お疲れさマ!じゃあウサギさんは戻ろうカ」

少女がそう言って笑うと、ウサギはこくりと頷き、窓の外へ飛び出した。

「へ?」

桜楽が目を見開く。ほかの3人もついていけない。

「ウサギさんは__月だったんだヨ」

少女はそれだけ言って、窓に映る夜空を眺めた。とても大きく立派な月があった。

「…なんか、死人みたいな言い方だな。星になった__みたいな」

福寿は苦笑した。

「言い方を間違えたかもネ!…ちなみにこれは、農作物が収穫できることをお祝いする行事なんだけど…キミたちは何か野菜とか作ってるノ?」

「いや。温度に変化がないから施設がないと作れない」

「福寿クンは物知りだネ」

「…なんだよ」

「なんでもないヨ!」

少女がヘラヘラと笑っている横で、紅葉が静かに言った。

「こんな夜、知らなかった」

どうやらとても気に入った様子。静かで涼しげな風が吹き抜ける心地の良い夜に、微かに聞こえてくる虫の声。これが日本というものだったのか、と考えてみる。『シキ』が、今もこの世界にあったなら、どれだけいいことか。

「…?」

少女がキッと鋭い目付きになった。見ていたのは掃除道具を入れているロッカー。

「…どうした?」

青葉が心配そうに声をかけるが、少女は気にしない。その目付きのままそっとロッカーに近づき、バタンと倒した。

「!?ななな何してるの!?」

桜楽が急いで立て直そうとするが、少女は止める。

「ダメだヨ。ここには『アイツ』がいル」

「あいつって…シキのことか?」

福寿がそう投げかけると、少女の目はぱっと開いた。

「あレ?なんでボクの名前知ってるノ?」

「は?あの怖い、お前に似た奴がそう名乗ってたんだが」

「チェ。アイツもう名乗ってたんだネ…。そう、ボクの名前もシキだヨ」

「そんなのって…ええ?どゆこと?」

紅葉が困惑した声をあげるが、少女がそれ以上言うことはなかった。だが福寿だけは、なぜか焦ったような表情を見せていた。

「__とりあえず危ないから、出ていってもらえるかナ」

少女は4人を追い出した。

「…また、明日?」

桜楽がポツリと呟いた。ほかの3人は頷く。

「次で最後だねぇ…どんなのだろ」

青葉がまるで場を盛り上げるように言った。実際、お通夜みたいなテンションだったし、このままじゃなんか息もできない。

「じゃあ、また明日」

結局のテンションのまま、解散した。

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