第4話 『来ないで』

「うおおおぉぉぉ!テストしゅーりょーッ!」

桜楽が両手を高くあげた。

「ついに…!ぃやったーッ!」

青葉も同じように手をあげて喜んだ。

「じゃあ、お待ちかねの空き教室、行きます?」

紅葉が立ち上がった。

「行く!早く行こ!」

桜楽も椅子をがたっと鳴らして立ち上がる。福寿の姿がなかったが、すぐに来るだろうと3人はいつもの空き教室に向かった。

「おう。遅かったな」

「福寿!?やる気満々だねぇ!」

青葉が驚いて笑っていると、表情を変えずに返事をされた。

「今日、鍵かかってんだよ」

「嘘だぁ」

紅葉がドアを開けようとするが、本当に鍵がかかっていた。

「先生かな?」

桜楽が不満そうな顔をしている。

「…俺は、アイツがやってんじゃないかと」

「うーむ。確かに先生がわざわざ空き教室に鍵をかけたりしないもんな」

福寿も青葉も悩んだ表情をしながら言う。紅葉はとりあえずドアをコンコンと叩いてみた。すると、ドアが乱雑に開かれた。

「ダレ?」

「あーえぇーと、いつも?いやたまに来てるんだけど」

紅葉がそう返すと、いつもと様子が違う少女は冷徹な目で返事をした。

「僕はお前らなんて知らなイ。出ていケ」

「…君はいったい、誰?綺麗な景色を見せてくれる__『シキ』はどこ!?」

「…よくわからないけど、シキは僕ダ」

桜楽の言葉にも全く表情を変えない。

「ますます意味わかんないよ。じゃあ今までここにいたあの子は__」

青葉もそう言葉を口にするが、少女は知らないの一点張り。

「とにかく、二度と来るナ。僕の居場所はここなんダ」

「でも…あの子にはまた来るよう言われてるし…来るよ、絶対」

桜楽が申し訳なさそうに言うと、そこで初めて少女の表情が怒りに染まった。

「来るなと言われたらクルナ!」

少女の周りから大きな蛇が現れた。ゆっくりとこちらに向かってくる。驚きでよく見れないが…間違いなく、死ぬ。殺される。

「みんな外出てるな!?ドア閉めるぞ!」

福寿が勢いよくドアを閉めた。ドアを閉めきるその瞬間、少女と目が合った。ひどく冷たい目をしていた。ぶわっと鳥肌が立つ。そしてドアに鍵がかけられる音がした。

「…今の…」

桜楽が息を荒げている。

「いつものあの子じゃなかったね。それにあんな大きな蛇…」

紅葉も警戒が解けない様子。

「もう、あの子はシキって奴にやられたんじゃ__」

「…あのシキと、いつものシキが同一人物ってことはないか」

「はぁ?確かに口調は似てたけど性格が違いすぎるぞ!」

「青葉。よく見ろ。このドア」

福寿は空き教室のドアを指さした。ドアが草で覆われ、鍵穴までびっしりと生い茂っていた。まるで廃校のドアのようだった。見渡せばいつもの学校なのに、ここだけ異様な雰囲気を醸し出していた。

「こんな異能を使うような奴、この辺ではアイツしかいないはずだ」

「そ、そうだけどさ…」

青葉は自信なさげにそう言うが、福寿は止まらない。

「…とにかく、もうやめだ。二度とここに来るのをやめよう。あれで死んだりされたら困るしな」

「でもさ、…四季って、4つあるんでしょ?私たち、まだ1つしか見てないよ…」

「桜楽。あの景色を見るのと、殺されかけるの、どっちが嫌?」

紅葉は福寿の意見に賛成のようだ。

「…でも」

「危ないからダメ」

「紅葉は見たくないの?たくさんの景色を…!」

「__見たいに決まってるでしょ」

紅葉は悔しそうに唇を噛んだ。

「……とりあえず、一旦解散しよう。その後のことは、後で決めよう。みんな、頭を冷やしてさ」

青葉が重く口を開いた。

「そうだな。かいさーん」

福寿は1人で帰っていった。

「…あたしも帰るね。バス来る」

紅葉は手を振って帰った。

「…青葉は帰らないの?」

「帰るよ」

「そか」

「…」

「…あの子が見せてくれる景色は、本当に綺麗だった__だから、ほかの景色ももっと見たいよ」

「そんなの、私もだよ!でも…あの2人に心配はかけられない…」

「…諦めるのがいいんじゃないかな。そもそもあの子は人間じゃない何かだから関わらない方がいいんだよ、幸せなんだよ__そのはず、なんだ」

「__青葉。これ、誰にも言わないでほしいんだけど」

「?」

「明日の放課後、私1人で行く。ここに来る」

「は!?何言って」

「みんなに怖い思いさせたお詫びだよ。あっ死のうと思ってるとかじゃなくてね!もしまたあの怖い子がいたら、話し合いたいと思ってるの!」

「…怖い子が、いつものあの子を追い出したりしてるかもしれないんだよ?それでも、1つの景色を求めるの?」

「もちろん__『四季』を、もっと知りたいの」

「…そこまで言うなら止めないけど…もし何かあったらどうするつもり?」

「そんなの、自分だけで責任を取る!それ以外ないでしょ!」

「まあ、そうね…」

「じゃあ、帰ろ!」

「え、うん」

2人は手を振り合ってそれぞれの道に歩いていった。

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