第3話 33

チャイムが鳴った。放課後から聞こえる生徒の笑い声。どこか明るく、寂しく、儚い。

「やあやあ!じゃあ行こうか!」

桜楽がほかの3人に話しかけると、3人は頷いて例の空き教室に向かった。

「…立入禁止の張り紙してある」

青葉が呟いた。

「あの先生ぇ…!」

桜楽が悔しそうに言う。福寿が真顔でドアをガラッと開けた。

「おっト?またお客さ…アッ、キミたち昨日の人だよネ!?」

少女は変わらず教卓に座っていた。

「あれ、いる…いないと思ってた」

福寿は拍子抜けした顔をしていた。桜楽がずいっと空き教室に入る。

「ねえ!君は何者なの!?あんなにすごいの見せてくれるなんて!」

「ボクのことは気にしないデ。あと今日は何もしてあげられないんダ…ごめんネ!雑談でもして行ク?」

「…あなたが昨日見せてくれた景色はなぁに?」

紅葉が優しい声色で問いかけた。

「あれは『四季』を象徴するモノの1つなんだヨ。『二十四節気』とか『七十二候』もついでに授けられたりするけド。でも『四季』のが楽だし、みんなに伝わりやすいんだよネ」

「その…シキって何?」

青葉がぽかんとした顔で言った。

「気候が1年で変化するんだけど、…それが『季節』ね。んで、それが4種類に変化するから『四季』。それが細かくわけられてるのが『二十四節気』とか『七十二候』だよ」

「なんでお前そんなこと知ってんだよ!?」

福寿の淡々とした言葉に青葉は驚きを隠せない。

「なんか、本とか」

福寿は青葉のほうを見ずに言った。

「…あ、せっかくだし『二十四節気』の1つを軽く授けるヨ!」

少女が教卓の上で立ち上がると、手をパンと叩いた。

「『清明』だヨ」

少女がそう誇らしげに言う頃には、地面から鮮やかな色を放つ花が一面に咲いていた。蝶が舞い、爽やかな風が優しく吹く。

「…!」

桜楽の手の甲に、1匹の蝶がとまった。とても綺麗だった。

「…ボクはキミたちに期待してるかラ。また近いうちにおいでヨ。…『放課後以外の時間』には来ちゃダメだヨ!」

少女は古びた黒板に何やら文字を書いた。

『久方の光のどけき春の日にしづ心なく花の散るらむ』

「じゃ、センセーに見つかる前にズラかろウ!ばいチャ!」

少女はそう言って4人を教室の外に出した。

「ね、待ってよ!どういうこと!?」

桜楽がドアを叩くが、向こうからは音1つ聞こえてこない。生気を失っているようだ。

「…黒板に書いたアレ、は…なに?」

青葉がそう言うと、紅葉が深く考えるように返事をした。

「百人一首だと思う。紀友則のだね」

「難しいこと知ってんねー!さすが紅葉だわ!」

桜楽は興奮を抑えられない顔を見せた。まあ、と笑う紅葉を横目に、福寿は言う。

「早く帰るぞ」

「そうだね。帰ろう」

紅葉がそう言って頷くと、4人はゆっくりと歩き出した。

「ねえ!次はいつ会いに行く!?明日!?」

桜楽はまだ興奮していた。

「もうすぐテストだしさすがにパスだよ」

福寿は転がる石を蹴った。

「テストの話とか頭痛くなるからやめて」

青葉は福寿が蹴った石を蹴り返した。

「じゃーテスト終わったら、かなぁー?」

桜楽はその石を蹴りあげた。

「そっちのがいいかもね」

紅葉が蹴りあげられた石をキャッチした。

「うん。そしたらテスト最終日の放課後が最速だけど…」

「もっちろん!その日に行くよ!」

青葉の言葉に桜楽は笑って返した。

「おっけー。んじゃ解散」

福寿は立ち止まらずに改札に向かった。

「おう」

青葉は誇らしげに返事をした。普段からあまり関わってくれなかったアイツが、自分たちに関わってくれていたこと、それが嬉しかった。

「桜楽、置いてくぞ」

「あぅう!?待って福寿ーっ!」

桜楽は改札に走った。後ろを振り向いて2人に笑いかける。

「じゃあチャリ組爆速で帰宅するかぁ」

「……あたしまだバス来ない」

「…しゃーねえな!来るまで相手してやる!」

紅葉がスマホをいじりながら言う。それは多分自分も帰りたいのに、という意味だったのだと思うが、青葉は少しからかいたくなって、そう返事をした。

「そゆ意味ちゃうんよ」

「たまにはいいじゃん?4人で遊ぶ機会も減ったし…」

「みんな別のグループにいるもんね。福寿は1人っぽいけど」

「クラス同じはずなのになぁー!」

「不思議よなぁ…でもやっぱ、4人で遊ぶのが1番居心地いい」

「やっぱそうだよね!?」

「だって、クソガキの頃からずっと一緒にいた4人よ?半分家族みたいなモンでしょ」

「そうだよな__みんなクソガキだったもんな…だから、この4人なんだよな」

「そうだよ。あたし本当にあの時クソガキでよかった」

「それは僕もそう。てか桜楽も福寿もクソガキでほんとよかった」

「なんかそれは悪口じゃない?」

「あっ……いないから、ね!ダイジョブ!ダイジョブ…なはず!」

「陰口とは随分いい度胸してらっしゃる」

「いや今のは口が滑っただけだ!魔が差しただけだ!ていうか褒め言葉のつもりだったんだ!だから絶対に密告とかすんなよ!?頼むよ!」

「はいはい。__あ、バス来た。じゃあまたね」

紅葉は軽く手を振ってバスに乗り込んだ。青葉は手を振り返すと、自転車にまたがってゆっくりと漕いでいった。

また、4人が集まる機会をくれてありがとう。シキ。

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