第2話 1つめ

「だ、誰?」

福寿は困惑の表情を見せる。少女の声を聞いたほかの三人は、福寿にバレないように後退りをする。

少女は、まるで日本人形のような姿をしていた。パッツンと切られたおかっぱに、つぶらな瞳。日本らしさを感じさせると同時に、ちょっとした不安や恐怖を感じさせる表情。でも服装は今どきな感じで、この学校の制服をブカブカだったがキッチリと着ていた。

「ボクはー…まあその話は後でいいヨ!『4人で』この教室にお入りなさっテ!」

「いやいや!間に合ってますーっ!」

桜楽が怯えた表情で悲鳴をあげる。少女はそのキンキンとする声にも動じなかった。

「キミたちに見せたいものがあるんダ!」

そう言うと少女は教卓からおりて、逃げようとしている3人の手を握った。

「大丈夫。ボクはキミたちに危害を加えたりはしないヨ」

そして3人は渋々椅子に座った。少女は教卓に座り直す。

「じゃあ__キミたちに『四季』を授けよウ!そーレッ!」

少女は笑顔で指をパチンと鳴らした。その瞬間に、彼らの目には淡いピンク色の花吹雪が写った。爽やかで、柔らかくて、暖かい風が、ふわっと頬に当たる。澄み切った青い空の下、大きく深呼吸。

「うわぁ…!」

桜楽は目を輝かせた。あまりにも美しすぎた。花吹雪が散ってしまった後、そこはいつも通りの空き教室だった。窓には夕焼け空があって、そこに薄らと反射する4人がいた。

こんな景色を、みんなで見れるなんて。

「ねえねえ、どうだったかナ!?」

少女は楽しそうな目をしている。

「とにかく…すごかった、…」

紅葉が言葉を詰まらせながら言った。彼女の目は窓のほうと少女を何度も往復していた。

「良かったヨ!また今度おいデ。待ってるヨ」

少女は教卓から飛びおりて、教室を出ていった。つい興味本位で、青葉は少女の後をつけようとしたが、すでにそこには誰もいなかった。

「こらお前!この教室は入っちゃいかん!早く出なさい!」

たまたま通りかかった先生に見つかった。しかも青葉だけ。

「ちっ違うんですっここには、すごい子が、めっちゃすごい子がいたんです!」

青葉はまっすぐな目で言い返した。先生は表情を変えずにこちらに向かってくる。

「『四季』を…僕たちに見せてくれる、すごい子なんです」

青葉も変わらない表情で、じっと先生を見た。

「よくわからんが、ここは立ち入り禁止だ。出なさい。お前らもだぞ」

3人もバレて、軽い説教をくらった。

「先生の馬鹿ーッ!もうあんなすごいの見せてくれる子がいるってのに!」

昇降口を出た桜楽が叫んだ。

「でもあの子が…みんなが言ってた『出る』ってやつでしょ、絶対」

紅葉は下を向きながら歩いていた。

「出るっつーか待ってたけどな」

福寿は持っていたラムネを1粒食べた。それ頂戴!と言う桜楽の声に耳を傾けずに。

「…明日も、行ってみる?」

青葉がポツリと呟き、立ち止まった。

「なんでよ。もうやりたいこと終わったんだし良くね」

福寿はラムネをガリッと噛んだ。

「あの子…僕たちのこと『待ってた』って言ってた__あの花吹雪を見せたかっただけなのかわからないけど…でも、『またおいで』って言ってたし…」

目を泳がせながら話す青葉に、紅葉はズバッと言った。

「もう一度だけでも、あの景色を見たいと?」

「…ハイソウデス」

「それなら素直にそう言えばいいのに!じゃあまた明日、みんなで行ってみよ!」

桜楽がニコッと笑った。

「俺はパス。もう先生に怒られるのめんどくさい」

福寿が手を挙げた。

「先生に怒られるのなんて大したことないじゃん!?」

桜楽は納得のいかない表情をしていた。

「大したことないから面倒なの。アレに時間取られたくない」

「怒られるのが面倒なんじゃなくて恥ずかしいとかそう言うんじゃなくて?」

青葉はすっとぼけたような顔で言った。

「なんて言うんだろな…先生に怒られるのって面倒なこと以上になんか悔しいんだよ。いや悔しいって言うか…恥ずかしいとはまたちょっと違うし…なんだろう…最終的に『ムカつく』にたどり着く感情が湧いてくるやん?」

青葉は早口でそう言っているが、紅葉は一言だけ。

「先生に怒られるのが嫌とかダサいの域超えてる」

その言葉に福寿はピキっときたようだ。

「行けばいいんだろ!?」

「そうだよいいんだよ!」

青葉は嬉しそうな顔で言った。

「じゃあまた明日__放課後ね」

紅葉はそう言うと、バスに乗り込んだ。3人は紅葉に手を振る。

「それじゃ、電車組もバイバイ」

青葉は2人に手を振った。

「ばいばーい!」

「じゃな」

2人はそう言って改札を通った。

「よっしゃ、チャリ組暴走してくぜ」

青葉は自転車にまたがって、夕焼けが映える田んぼ道を走っていった。

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