第22話

「なんだ?」


「…あ」


怒鳴られるのが、怖かった。

恐ろしいことが起こると思った。


「…」


声が出ない。

2人とも寝てる俺を見ていた。問い詰めることなく。


「なんだー?さぼりかー?」


有木さんの声だ。


「いや、こいつ顔青くなって」


「ん?礼央どうした?」


有木さんに顔を覗かれた。


「あ、…あの」


いや、有木さんに言っても話なんて通じないし。困った。


「どうしたよ。ん?怖いか?」


頷くことしかできない。


「今もか?」


こくこく頷く。


「2人とも出てけ。仕事しろ」


「はい。トラ行くぞ」


2人とも素直に出て行ったようだ。

有木さんは俺の近くに座って、タバコを吸い始めた。灰皿探してる。散らかってるから探すのに手間がかかってる。有木さん、俺に興味あるのかないのかわからない人だ。


「おい礼央。ここらに来るやつは、よからぬ輩もいるわけだ。だから、お前ここ無理なら辞めていいぞ」


「え、いや…」


「そーじゃねってか?なんだよ、絡まれたんじゃねーんだな?」


「はい…あ、の、トラさん…に怒鳴られたら…怖くなって」


「トラ?あいつは声でかいだけだろ。無視しろ。バカだから吠えたんだろ」


あっさりした有木さん。話を聞いてくれた。


「俺は、昔…怒鳴らられて、殴られて…酷い目に遭わされた。だから、怖くて…あと、女も…怖い…」


「礼央。なんも怖いことなんてねーから。俺がここの長だからよ?悪い輩は即俺が排除してやる。女はお前の嫌な奴は無視。気に入ったやつは持ち帰れ!な?」


変なの。無茶苦茶だ。


「いいか?いい女は無意識に好きになってるやつがいいぞ?派手な見た目だけに騙されんじゃねぇぞ?俺の息子なんて見た目に騙されまくりだからよ!ほんとバカ息子だから」


息子…有木さんにも息子とかいるんだ。

こんな派手なのに。見た目に騙されないようにってのは本当だな。


「礼央、和宏もトラも怖いやつじゃねーし、飯食わせてもらえや。金貸してくれるかもしんねーよ?あいつらお前よりバカだからな」


「…でも俺、なにもない…」


「は?んなわけあるかよ。お前はそこいらのやつより、働き者だぞ?楽にやっててもよゆーなわけだ。トラとかまじ仕事できねんだよ」


「中卒だし…」


「んなこと気にしねぇ。俺が雇ったんだし、気にすんな?どうだ、ちったぁ顔色良くなったか?」


「…ありがとうございます」


「礼央はいいやつに拾われたな。ちゃんと礼が言えるじゃねーか」


「…有木さん」


「今日は帰って寝てろ。俺はなぁーキャバクラ行ってくるぜ!」


元気よく出て行った。

有木さんは、謎な人だ。陽気で、優しい。

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